3章② パンチラを考察する
思いがけない言葉が思考の外から投げかけられた。パンチラ?
「出会いのシーンのアイデアですよ。いろいろなラブコメ作品でパンチラは試されているようですし、参考にしてみるのはどうでしょうか?」
――参考か。
……出会いのシーン……序盤……パンチラ……。
「なあ、なんでパンチラなんだと思う」
そこでふと思った。
「はい? どういう意味ですか?」
「いや、ラブコメの序盤でさ、主人公とヒロインが出会うシーンでパンチラってなんでこんなに使われてんだろうって。古典的な展開っぽいけどいまの作品でも見かけるだろ。それこそ『彼女の友達にも恋しました』もそうだったし。ヒロインが着替え中に出くわす、胸を摑んでしまう、シャワー中にばったり入ってしまう、そういうラッキースケベもある意味でパンチラの変形パターンだよな。作劇的にそれをやる価値があるからいまも続いてるんだよな。じゃあ作劇的にやる価値ってなんだ?」
「さっき話した通り、読者サービス的な意味合いじゃないですか? ヒロインの下着を読者に見せられる的な」
本当にそれだけか?
俺は『彼女の友達にも恋しました』のパンチライラストを凝視する。脳裏に数々のキーワードが過ぎっていく。
ヒロイン。主人公。開幕。関係性。パンチラ。その意味。その意義……。
「……それもある、かな」
「それもある? 読者サービス以外になにか理由があるんですか? めちゃくちゃヒロインのパンツガン見してヤバイ奴感出てますけど」
「……関係の悪化を作れる、から?」
ふと、何気なく口から出た言葉だった。
だが、言葉にしてみると不思議と腑に落ちた。
そうか。そうかもな。関係の悪化、最悪の関係スタート……。
「関係の悪化ってまずくないですか? ラブコメって読者が自分と主人公を重ねてヒロインと疑似恋愛する楽しみ方があるんですよね? それなのにヒロインに嫌われる展開なんてまずいですよ。しかも序盤から」
「逆だ。序盤から関係を悪化させたほうが楽しめるんだ。主に〝変化〟を」
「変化?」
「物語の原理的な面白さってのは変化なんだよ。キャラクターが成長していくこと、人間関係において友情や愛情に発展していくこと、そういった変化を楽しむものだから。現にほら、美空だって楽しんだって言ってたろ。『主人公とヒロインとヒロインの友達の三角関係の変化がめまぐるしくて、ハラハラして、楽しめて』って」
「あ」
「つまりパンチラってのはさ、ヒロインのパンツを見て気まずくなった主人公と、パンツを見られたことで主人公を嫌悪するヒロイン、そのマイナスの関係からスタートして、様々なイベントをこなしていくうちに互いに心を通わせ、最終的にプラスの恋人関係まで進展する。マイナスからプラスへ。そういう変化のきっかけとしてパンチラ展開ってのは都合がいいのかなって」
まあ、現実だと女子に一度嫌われたらそれっきりだけどな。
それこそフッタフラれた関係になったら気まずいままのように。
「パンチラにそんな作劇的意味合いがあったとは……」
「まあ俺の勝手な推測だけどな。作家全員がそんな意図してやっているとは限らないし。あくまで考え方のひとつということで」
ヒロインの登場の仕方で悩んでいたけど、美空の言う通りパンチラなら序盤に必要な条件をクリアしているように思える。
古臭いって見方もあるだろうけど、古典に倣ってみるのもひとつの手か。
主人公とヒロインの関係の悪化、その関係の悪化を表現するシチュエーション。
――なるほど。『関係性』と『シチュエーション』ってのはラブコメで大事なんだな。
「パンチラでいけそうですか?」
「アリかもな、とは思ってる」
「かもな、というのはまだ迷いもあると?」
「まあ書いたことないからな、パンチラ描写って。上手く書けるかわからない」
「ちなみにパンチラをリアルに目撃したことは?」
「あるわけないだろそんな偶然」
「ではどうやってリアリティ溢れるパンチラを描写するんですか? まさか偶然ではなく意図的に見るつもりですか? 資料資料と鼻の下を伸ばしてウキウキとネットで女子高生の盗撮動画をガン見するんですか? 最低」
「やらねえよ。俺にどんなイメージ持ってんだお前は」
「――だったら私がやりましょうか、パンチラ」
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