2.5章 美空視点
「はああぁぁ~~~。リベンジってなに言ってんの私ぃぃ~~~」
階くんの家からの帰り道、ひとりとなったわたしはその場でうずくまり、髪をくしゃくしゃに掻いて盛大なため息を吐いた。
「《ラブコメタイム》終了後に顔から火が噴きそうなほど真っ赤になって、バレちゃまずいと背中向けて焦って、それでなに、私って結構魅力的な女の子? 割とモテる? いやいや好きな男の子の前でなに自慢アピールしてんの!? アホ! 私のアホ! ただでさえ底辺の好感度を奈落までブチ下げてどうすんの! しまいにはリベンジって、もう絶対引かれたじゃん!」
うがーっと夜空に向かって叫びたいほどの自爆っぷりだった。
でも、あの場ではああ言って取り繕うしかなかった。
――道成さんの隣にいられることです。
合鍵をくれるって聞いて、めちゃくちゃ嬉しくてつい本音が漏れてしまった。
だからその喜びを隠すために咄嗟にリベンジなんて大嘘をついた。
結果として私のキャラを保つためにバランスが取れた発言ではあった。
《ラブコメタイム》でずいぶんイチャついちゃったし、フッたフラれた関係を維持しなきゃいけないのにこのままだったら軽々と一線を越えちゃいそうだったから。
「でも、そっか。それほど私、はしゃいでたんだな」
胸ポケットにしまってある生徒手帳を取り出す。メモ欄を開くとそこにはタイトルが書き込まれていた。
《♡もし階くんと付き合ったらやりたいこと♡》
疎遠モードを貫いてきたこの一年間、私はメモ欄に階くん付き合ったらやりたい妄想を書き綴って寂しさを紛らわせてきた。
そのメモのひとつに『ひざ枕』がある。
「偶然だったけど、ひとつ叶っちゃったな……ふふ、うふふ」
っていかんいかん。にへらぁ、って頬がたるんでるぞ私。
パンパンッと両頬を叩く。階くんの隣に居る本来の目的はラブコメ作品の書籍化を実現すること。自分の欲望満たすためじゃない。
「でも、書籍化か……。正直、びっくりしたな。ヒロイン案のノートの冊数には」
おそらく一〇冊以上はあった。階くんのことだから徹夜してヒロイン案を考えていたんだろうな。
その努力の結晶を、あっさりと捨てた。
全身が緊張した。
悩みながら多くのアイデアを出してもほんのちょっとしか使えないって……もし私が階くんの立場ならきっと適当なところで妥協してる。
そんな私が、階くんの隣でどれだけ役に立てるんだろう……。
「力を貸してくれて助かったと言ってくれたけど、喜んで浮かれちゃダメだよね。食らいついていかないと……」
そこでふと、思った。
「階くん、なんであんなにプロになることに必死なんだろう」
高校三年間でプロになる目標は聞いていたけど、なんでプロになりたいか動機までは聞いたことがなかったな。
おもむろにポケットから合鍵を取り出す。手のひらで銀に煌めくそれは、いまの私には魔法の国への切符みたいにきらきらと輝いて映る。
「もっともっと階くんの力になれるようにがんばって、これからはこの合鍵使っていつでも彼のもとに……ふふ、うふふ。……って、いかんいかん! またにやついちゃってるぞ、私! 緊張緊張。緊張して階くんに協力を……でもやっぱにやついちゃうなぁ。だって一年間も一緒にいれなかったんだもん。それがいまは合鍵もらったんだよお。へへ、うへへへへ」
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