第9話 再びの死神
捨てられた物を、拾って売る拾い屋。
自殺の現場に連続して現れた拾い屋。
どう結び付く?
私は、車を運転しながら考えていた。社に戻る前に瀬皮の様子を見ておこうと病院に向かっている。
信号の赤と青は、見落とさない。何があっても、走行中は前方から目を離さない。当たり前の事だが、これが出来そうで出来ない。ふと、
部長を横に乗せてる時は、最悪だ。ここの漢字はこれでいいのかと、ハンドルを握ってる私に書類を見せてくる。見れるわけないだろう。おそろしや部長。
特に、考え事をしてる時は、見てる様で見てないから、意識して前方を見る。
信号が赤に変わった。信号待ちで止まっていると、その間に考え込んでしまう。
そういえば、部長を横に乗せて車を運転している時、部長が中学生がチュウしてると言うから、思わずそっちを見てしまったら、危うく赤信号で止まってる車に追突しそうになった事がある。
事故って死んでも部長と二人は嫌だ。
そうなったら、それ迄の人生をドブに捨てる様なものだ。
人生を捨てる。命を捨てる?
赤信号の間に、そんな事を考えてたらはっとした。
そうか、そういうことか!
でも、そんな事出来るのか?
いや、あれは、普通の人間じゃない。
それにこれなら、拾い屋が貴史君が生き返った直後に病院にいた理由がわかる。
自殺は、自分で自分の命、魂を捨てる事だとしたら。
拾い屋は、自殺した子が捨てた魂を拾って、それを貴史君のお父さんに売った。だから貴史君は生き返った。
そう言えば、あの夜、貴史君のお父さんが言っていた。高い金をはらっているんだ、時間も十分あったんだ、と。
貴史君のお父さんは、死にかけの貴史君のために拾い屋に魂を注文した。
拾い屋は、自殺現場をはしごして、貴史君に合う魂を探した。それが三件目の浦上光良君の魂。
拾い屋は、貴史君が死ぬと直ぐに、光良君の魂を病院に持っていって貴史君に入れた。それで貴史君は生き返った。
考えていたら、後ろからクラクションを鳴らされた。信号機は見ていたのに、いつの間にか青になっている。私は、慌てて車を発信させた。
車を運転しながらも考えを止める事ができない。
病院で貴史君に魂を入れた後、拾い屋が帰ってすぐに死神が現れた。
貴史君の魂を取りに来たのに、貴史くんは生きている。
死神にしてみれば、当惑して当然だ。
それであんなことを呟いたのか。誰がこんなことを、って。
しかし、自殺した浦上光良君の魂は、死神にしてみれば、横取りされたようなものじゃないかな?
やがて、車は病院に到着した。
私は、車を駐車場に入れると瀬皮の病室に向かった。
五階で、エレベーターを出てホールを抜け、看護士詰所の前。
瀬皮の病室のドアの取っ手に手をかける時、集中治療室のほうを見た。貴史君のベッドはカーテンが閉じられている。あのご両親も姿が見えなかった。
私は、病室のドアを横に引いて開けて中に入った。
後ろ手でドアを閉めようとした時突然、空気が一変した。
凄い悪寒が足元から這い上がって来る。冷気が空気を支配した。部屋の中が異様だ。目玉を動かして周りを見る。世界は色を失い全て白黒のモノトーンになっている。そして恐怖が全身を貫いた。
背後に大きいものが立ち塞がってる。
死神だ。私の後ろに死神がいる。ドアを出たすぐの所に死神が立っている。この感じは前に経験した。私は、身動きが出来なかった。
死神は何か呟いている。
「まだ早い」
「今夜」
「ここには居ない」
次の瞬間には、空気が元に戻っていた。
私は、一気に全身の緊張がとけて、死神が消えた事を感じた。
振り向くと、そこはいつもの風景に戻っていて、廊下の向こうでは、詰所の中で看護士さんたちが忙しそうに働いていた。
死神は、この部屋の中を見ていた。瀬皮の魂を取りに来たのか?
あの言葉の意味は?今夜、瀬皮の魂を取りに来るということか。瀬川は今夜死ぬ?
ここには居ない、とはどういうことだ?
瀬皮の魂は、ここには居ないということだろうか。
そういうことか。
ここに居る瀬皮は、魂の抜けた肉体だけ、だから原因不明でこんなギリギリで生命を維持してるだけの状態でいてるんだ。
じゃあ、魂を体に戻してやれば元に戻るんでは。
瀬皮の魂は、どこに?
そうだ。
瀬皮の事故現場に行った時、誰か私を呼んでる気がした。
あそこか。事故現場に瀬皮の魂が残っているのか。
しかし、あそこに行ってもどうすれば?
魂を捕まえて、瀬皮の体に戻すには?
あいつしかいない。
私は、部屋を飛び出して、再び拾い屋のもとに向かった。
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