第7話 ぬれて屋
あの男、あの路地で何してたんだろう?
私は、引き返して、あの男が出てきた路地の前に来た。
お店とお店の間にあるその路地は、車が一台通れるぐらいの幅で奥の方に延びている。路地の入口に立看板があった。
『古い物買います。ぬるて屋』
骨董品屋さんがあるのか。
路地に入って暫く、建物と建物の間を歩いていくと開けた場所に出た。一面、お皿やお椀などの陶器が、台の上に積まれて並べられていた。
台と台の間を歩いて中に入っていくと店舗がある。上を見ると"骨董品ぬれて屋"と書いてある。店の前には、狸の置物とか大きな壺とか置いてあった。
ガラス戸の取っ手に手を掛けて開けようとした時、すぐ横にある大きな狸の置物にひじが当たった。
売り物を傷つけたらたいへんと、狸の足元を見たらエッと思わず声が出た。『1,000,000円 泡作』と書いてあった。
百万円!そんなにするのか。
やっぱデカイからか。アレがでかいと金額が高いと聞いた事がある。キン○マ。
「御免下さい」
中に入ると、窓から入る光の中に、時が止まった様な物達が姿を晒していた。
台の上には、大きな絵皿や、大きな壺、壁には掛け軸、ガラスケースの中には、見たことのない切手や古銭。
更に奥を見てギョッとした。壁の前に武士が座っていた。いや、甲冑が据えてあった。本物を初めて見る。凄い迫力。おまけにその横にはガラスケースに入った刀が二本飾られている。
本物だろうか?
間もなく、奥から店の人が出て来た。白髪の初老の男だった。
「いらっしゃい」
「あっ、すいません私、客じゃないんです」
「店主様ですか」
「はい、そうですが」
名刺を取り出して渡した。
「私、箱崎新聞社の丁字といいます」
「新聞社さんですか、箱崎新聞さん私、好きで読んでますよ。今回の特集はいいですね、特に・・」
「あっ、すいません、ちょっとお聞きしたいことがありまして」
私は、店主の話しを遮って口を開いた。初老の店主は、お喋り好きのようだ。
私は、スマホに保存してあるバケット帽の男の拡大写真を出して、店主さんに見せた。
「この人を見たことありませんか」
彼は写真を見るとピタッと喋るのをやめた。そして、少し目が泳いだ。
これは、知ってるな。
「いや、こんな人見たこと無い・・」
「私、先ほど、この人がここから出てくるのを見ました。」
私は、鎌をかけた。
「えっ、そうですか、お客さんが多くて覚えて無いな」
いや、それは、無理が有るだろう。今も、客一人も居ないのに。そんなに大勢の客がいてたとは思えないが。
なんで、知らないふりをする?やましい事があるのか。
そう言えば、あの男、路地から出て来る時、何も持っていなかった。ということは、何か持ってきて買い取ってもらったということか。
「実は、この方、長い間行方不明になっていまして、訳有って、我社でも探してまして」
私は、方便を言うと店主が応えた。
「ああ、そういう事なのですか」
更に突っ込んでみた。
「この人、何か売りに来たんじゃないですか?」
店主は、また言葉に詰まって目が泳いだ。
やっぱりだ、おそらく、闇取引だ。本人の住所も本人確認もせずに買い取りしたんだ。
古物商で、売り主の住所を確認しないのは法に引っ掛かる。
でも、なんで、違法行為をしてまで買い取りをしたんだ。よっぽど高価な物を持って来たんだろうか。それを買い叩いた。
「この人が何を持って来たのかは、全く興味が無いんです。何処にいるか、知ってる事があれば教えてもらえれば」
私は、闇取引を暴きに来たわけではないことを伝えた。
店主は、私の顔を直視して、私を信用したのか、決意したように私に告げた。
「ああ、思い出した。この人ね最近ちょくちょく来る人です」
「そういえば、こないだ持って来た壺と似てる様な似てない様な壺を昔見た事がありますね」
「確か、町外れの源田さんと言う方のお宅で。もうお亡くなりになりましたが」
店主が、はっきりバケット帽の男から買ったと言わなかったのは、訳がある。
店主が買った物が盗んで来た物だとしても、店主がそれを盗品だと知らなかったら返さなくていいからだ。
いわゆる善意取得と言うやつだ。
私は、源田さんの家の場所を詳しく聞いて、骨董品屋を出た。
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