第4話 本当に来ちゃった!

 ゴールデンウィーク初日、父さんは朝早くに出かけ、母さんも心配そうにパートに行った。


「本当にお弁当作らなくてもいいの?」

「ちゃんとコンビニとかで買うから心配しないで。夕方には帰ってくるんでしょ? 大丈夫だって」


 それが一番あてにならないのよ、ととっても失礼なことを言いながら母さんは出かけていった。


「さて、と」


 あたしは自分の部屋で待機中だ。荷物は一切持たない。スマホも置いて来てほしいと言われたから準備することは何もない。スマホが鳴るのを待って部屋のドアを開けるだけだ。試しにさっき開けてみたけれど、いつも通り廊下に出るだけで何の変化もない。……ほんとに別の世界なんてあるのかな? でも画面の向こう本物っぽかったし……けど今のCG技術ってすごいしなー。うだうだ考えている間にスマホの通知音が鳴った。


「もしもし」

「しーちゃん? 準備出来たって」

「わかった。待っててね」


 さあ、それでは行きますか。ドアをしっかり握ってガチャリと開けた。 


「何、これ?」


 目の前にはででーんと大きな鏡。大人でも簡単に通り抜けられそうだ。試しにそーっと手を伸ばしてみると……すかっ。何もなかったみたいに鏡の中に吸い込まれている。中で動かしてみたけれど、ぶつかるものは何もない。


「ふ、女は度胸だよねっ。……よし、行っくよー!」


 思い切って一歩踏み込んだ。中はトンネルになっていてずーっと奥まで続いてるみたいだ。あたしは準備しておいた靴をはくと、勢いよく駆け出した。


 しばらく走ると向こう側が明るくなってきた。その光の中に思い切って飛び込む!


 ぱふっ。柔らかいものに抱きとめられてぎゅうっと抱きしめられる。あったかくてフワフワしたこれは、ひょっとして……? そうっと顔を上げると、


「しーちゃん?」


 スマホで見たのと同じ真っ白な顔が心配そうに見ている。頭の上で長い耳がピクッと動くのが見えた。


「うわあ、本当にソフィーちゃんだ! 信じられないよ! はじめまして。あたし、小鳥遊たかなし 詩雛しいな。しーちゃんです!」


 嘘みたい! あたし、本当に転移しちゃったよー!?


 「本当にしーちゃんだ。はじめまして、ソフィーです」

「うわあ、ソフィーちゃん、ふわふわしててあったかーい」


 思わずすりすりしていると、横から声がした。


「ようこそ学園へ。詩雛くんで、合ってるかな?」


 そこにはビデオに映っていたのと同じ顔の背の高い男の人が立っていた。優しそうな目でにこにこ笑っている。あたしはそうっとソフィーちゃんから体を離し、手を繋ぐと学園長の方を向いた。


「はじめまして学園長さん。今日はお招きありがとうございます! もうびっくりだったよ、部屋のドアを開けたら目の前に大きな鏡があってそのまま中に吸い込まれちゃうんだもの。靴を持ってたあたし、グッジョブだよ」

「しーちゃん、大丈夫だったの?」


 ソフィーちゃんが心配そうに聞くからにっこり笑って答えた。


「全っ然。びっくりはしたけど、中は不思議なトンネルになっててね、通り抜けたらここに出たよ。そしたら目の前にソフィーちゃんがいるんだもん。嬉しかったよっ!」

「うふふ」


 ソフィーちゃんが嬉しそうに笑ってくれた。その時学園長が、


「どこも異常はなさそうだね。無事初転移おめでとう。さて、詩雛くん、ここがワールドエンドミスティアカデミーだ。詳しい話は中に入ってからにしよう。外は君が思っているよりも物騒だからね」


 そう言うと学園長はあたしが通ってきた鏡に向かって、


「閉じろ《クローズド》」


 って唱えた。すると、鏡が跡形もなく消えちゃった。


「すごい、魔法だー!」


 やったー! ついに魔法の世界に来たんだ!




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