14

 知也と麻里子は初詣から帰ってきた。麻里子は買ってきた学業御守を持っている。2人はとても楽しそうだ。だが、すぐにまた受験勉強だ。あと1か月ちょっとで入試だ。これから1か月ちょっとが重要になってくるに違いない。気合を入れて頑張らないと。


「ただいまー」


 知也は部屋に戻ってきた。そこには奈美恵がいる。奈美恵はずっと知也を待っていたようだ。


「おかえりー。どうだった?」

「楽しかった。いい気分転換になれたよ」


 知也は嬉しそうだ。今日まで正月休みを堪能できた。しっかり休んだから、夜から頑張ろう。


「そう。また明日から頑張らなくっちゃね」

「そうだね」


 知也は拳を握り締めた。いよいよ受験が迫ってきた。夏から歩んできた2人の結果が、いよいよ出る時だ。頑張らないと。


「もうすぐ受験だね」


 それを聞くと、知也はびくっとなった。いよいよ本番が近づいてきた。


「うん。よく言ってるんだけど、受験が自分の人生を決めるんだと」


 知也は感じている。受験は自分の人生を決める、大切な時なんだ。これで怠けていたら、未来はないんだ。今日このこの時期を、頑張らなければ。


「そうよね。じゃあ、頑張らないと」

「うん」


 と、奈美恵は思った。頑張っている知也を見ているうちに、知也の事が好きになってきた。家庭教師としてここにやって来たのに、家庭教師の枠を超えて、恋人になってしまったようだ。


「夜遅くまで頑張ってる知也くん、大好き」

「ありがとう。もしかして、僕の事、好き?」


 知也は驚いた。僕の事が好きなんて、まるで恋人みたいじゃないか? 奈美恵は家庭教師としてここにやって来たのに。


「いや、そうじゃないよ」

「そっか」


 ふと、奈美恵は思った。知也は恋をしたことがあるんだろうか? これから、恋に落ちたいと思っているんだろうか?


「知也くん、恋をした事、ある?」

「ううん」


 知也は恋をしたことがない。やろうと思ったことはないし、縁がない。高校で初恋を経験するんだろうか? そう思うと、高校での生活が楽しみになってきた。


「そっか・・・」

「もう結婚できないし、子供できないもんね」


 奈美恵は寂しそうな表情になった。結婚して、子供を作りたかったのに、何もかもかなわなかった。もし生きていたら、子供に囲まれているかもしれない。そして、自分の子供の面倒を見ているかもしれない。だけど、それはみんな夢のままに終わった。


「結婚したかった・・・。子供に恵まれたかった・・・」

「わかるわかる! その気持ち、わかるよ!」


 泣きそうになる奈美恵を、知也は慰めた。もう泣かないでほしい。それよりも、僕の家庭教師であってほしい。そして、自分を合格に導いてほしい。


「ありがとう、知也くん」

「いつか恋人ができたら、奈美恵先生みたいな人がいいな」


 知也は思っていた。もし結婚するなら、奈美恵のような人がいいな。優しくて、思いやりがある。知的で、困った事があれば相談に乗ってくれる。


「本当?」

「優しくて、思いやりがあって、困ったら助けてくれる人」


 それを聞いて、奈美恵は嬉しくなった。私がこんなに好きになったとは。幽霊ながら家庭教師をやってきて、嬉しいと思った。


「そう。そう言ってくれて、嬉しかったよ」


 知也は机に座った。これからまた受験勉強をするようだ。


「さて、まだまだ頑張らないと」

「うん。頑張ろうね」


 それから、知也は再び受験勉強を始めた。奈美恵はその様子を温かく見守っている。そう思うと、安心感がある。どうしてだろう。


 知也の受験勉強は、今日も夜遅くまで続いた。まだ冬休みという事もあるんだろう。冬休み中、あまり眠ろうとしない。受験勉強ばかりだ。


 と、そこに麻里子がやって来た。麻里子は、夜遅くまで頑張っている知也をほめているような表情だ。


「知也、夜遅くまで頑張ってるね」

「ありがとう」


 夜遅くまで受験勉強を頑張っている知也を、母は誇りに思っているようだ。


「もうすぐ入試だね。頑張ってね!」

「わかってるよ!」


 知也は麻里子の方を向かずに、受験勉強を頑張っている。


「田川先生も、両親も応援してるからね!」

「まかして! 僕、絶対に合格してみせるよ!」


 知也は自信に満ち溢れていた。今の自分なら、必ず共進学園の入試に合格するはずだ。合格して、自分の未来を切り開くんだ。


「知也、あなたに任せたからね!」

「わかってるって!」


 麻里子は部屋を出ていった。麻里子には見えないが、奈美恵はその様子を見ていた。みんな、知也に期待している。そう思うと、この子のためにもっと頑張らないとと思ってしまう。


「みんな、知也くんを応援してるね!」

「ああ。みんなのために、君のために、頑張らないとね!」


 知也はもっとやる気になった。この家族の未来は僕らが作るんだ。だから、今を頑張らなければ。




 深夜1時になった。奈美恵は疲れて、寝てしまった。夢の中で見るのは、教員として頑張る自分だ。だが、それは夢の事でしかない。生きているうちにできなかった事への無念だらけでいっぱいだ。


 奈美恵は知也の様子を見に行った。だが、知也は寝ていた。受験勉強の疲れで、寝ているんだろうか?


「あれ? 寝てしまったのか」


 奈美恵は知也の寝顔をよく見た。とても可愛い顔をしている。設けられなかった子供もこんなに可愛かったんだろうか?


「可愛い顔して寝てるなー」


 知也がその声に反応して、起きた。まさか、知也が起きるとは。奈美恵は驚いた。


「奈美恵先生」

「何?」


 知也は思った。奈美恵は生前、どんな人だったんだろう。チラッと聞いたけど、あまり多くは知らない。もっと詳しく聞きたいな。


「生きてるときは、どんな人だったの?」

「知りたい?」


 奈美恵は笑みを浮かべた。もし聞きたいのなら、話そうかな? 知也は優しいし、自分の事が好きなようだから。


「うん」

「私は長野で生まれたの。両親は教員だったから、私も教員にあこがれたの」


 奈美恵は自分の過去を話し始めた。知也は奈美恵の顔をじっと見ている。

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