13

 2日後、今日は1月3日、初詣に行く日だ。知也は楽しそうな表情だ。だけど、帰ってきたらまた受験勉強だ。明日からだと思っていたが、今日の夜から再開しよう。初詣が終わった時から、受験勉強は再開すると思って。そう思うと、複雑な気持ちだ。だが、未来のためにも乗り越えなければならない。そして、成長しなければならない。


「おはよう」


 知也は奈美恵の声で目を覚ました。いつもの光景だが、受験が終わり、結果が来るとどうなるんだろうという気持ちもある。だけど、その日は刻一刻と近づいている。


「おはよう」

「今日は初詣に行こうと思ってるんだ」


 と、奈美恵は初詣の事を思い出した。長野での初詣を思い出したようだ。


「ふーん。懐かしいな。私は長野出身なんだけど、善光寺参りをしてそばを食べるのが定番だったな」


 奈美恵は物心つく頃から、善光寺に初詣に行くのが定番で、お参りだけでなく、その帰りにそばを食べるのも楽しみだった。


「年越しでそばを食べたのに、またそば?」


 知也は驚いた。年越しでそばを食べたのに、またそばとは。奈美恵はそばが好きなんだな。


「うん。大好きだから」

「そっか。長野のそば、食べてみたいな」


 知也は長野に行った事がない。だが、信州そばは食べた事がある。だけど、本場の信州そばも食べたいな。きっとおいしいだろうな。


「本当? おいしいよ。絶対気に入ると思うよ」


 知也は1階に向かった。朝食を食べて、歯を磨いたら、すぐに出発だ。知也は嬉しそうな様子だ。


 1時間後、知也が2階に戻ってきた。初詣に向かう準備をするためにやって来たようだ。なので、すぐに部屋を出るみたいだ。


「さて、初詣に行ってくるか。行ってきまーす」

「行ってらっしゃーい!」


 奈美恵は知也を見送った。きっと、合格祈願をしに行くんだろうな。神様は知也に微笑んでくれるだろうか? 合格に導いてくれるだろうか?




 知也と麻里子は神社にやって来た。神社には多くの初詣客がいる。明らかにいつもの神社とは賑わいが違う。だが、2人は気にしていない。毎年恒例の事だ。2人はその雰囲気に慣れていた。


「すごい人だね」

「うん」

「あれ? 知也じゃないか?」


 と、2人は後ろから誰かに声をかけられた。同級生の谷とその母だ。まさかここで会うとは。知也は驚いた。


「うん」

「今日はお母さんも来てるの?」


 谷は首をかしげた。中学生になってから、1人か学校の友達と初詣に来ていた。だが、今年は母と一緒だ。ひょっとして、2人で合格祈願に来たんだろうか?


「うん。一緒に合格祈願をしようかなと思って」

「ふーん。いいじゃん、一緒に祈った方が強いんだから」


 谷もそのつもりだ。谷もいつもは学校の友達と行っている。だが、今年は高校受験だから、母と一緒に合格祈願に来ようと思った。


「そうだね」


 賽銭の前には、長蛇の列ができている。いつもなら並ばずに行けるのに、正月はこの混雑ぶりだ。さすがは初詣だ。


 数十分並んで、ようやく賽銭箱の前にやって来た。知也と麻里子は、10円を賽銭箱にめがけて投げた。


「共進学園に合格できますように」

「できますように」


 2人は共進学園に合格できるように、しっかりと祈った。夏休みが始まる前は、全く期待されていなかった。だが、奈美恵と出会って、変わり出した。奈美恵にはとても感謝している。


「しっかりと祈った?」

「うん」


 と、麻里子は何かを考えた。そろそろ正午だ。昼食の事だろうか?


「帰りにカレーを食べようか?」

「うん」


 知也は驚いた。まさか、カツカレーとは。どうしてこんな豪勢な物を食べようと思ったんだろうか?


 2人は近くの洋食屋にやって来た。洋食屋は静かで、そんなに人が入っていない。


「すいません、2名様で」

「はい」


 2人はテーブル席に案内された。テーブル席はまるで家のダイニングのようで、アットホームな雰囲気だ。


 座ってすぐ、店員が水をもってやって来た。注文を聞くようだ。


「いらっしゃいませ、何にしましょうか?」

「カツカレー2つで」

「はい、かしこまりました」


 店員は厨房に向かった。注文の品を厨房に伝えに行ったようだ。


「どう? 受験勉強、順調にいってる?」

「うん」


 知也は自信気だ。夏休みに奈美恵が来て以来、驚くほど成長した。奈美恵が来るだけで、こんなに変われるなんて。あれほど勉強が苦手だった自分がまるで嘘のようだ。


「夏休み明けから徐々に成績が良くなってきたけど、何かあったの?」

「いや、夏休みに頑張ったから成績が上がったんだよ」


 だが、知也は奈美恵の存在を言おうとしない。幽霊が教えてくれたなんて、母に言えない。母が知ったら。驚くだろうから。


「そう。何か秘密があるんじゃないのかなって」

「本当になんにもないってば」


 知也は焦っている。頑張ったからだと伝えておこう。


「それならいいけど」


 店員が2皿のカツカレーをもってやって来た。注文していたカツカレーが出来上がったようだ。


「お待たせしました、カツカレーです」


 店員はテーブルに2皿のカツカレーを置いた。とてもいい香りで、おいしそうだ。


「きたきた。頑張ってるんだから、お母さんが払ってあげる」

「ありがとう」


 2人はカツカレーを食べ始めた。いつも食べているカレーより、ずっとおいしい。母の愛情も相まって、おいしいんだろうか?


「お母さん、最近頑張ってるから、合格できると信じてるわ」

「そっか。僕はまだまだだと思うけど」


 だが、知也は全く油断していない。もっと頑張らないと、共進学園に合格できないと思っているようだ。


「頑張ってるじゃないの。だって夏休み明けから急に成績が良くなったんだもの」

「そ、そうだね」


 知也は焦っている。これほど期待されているんだ。母のためにも、そして何より奈美恵のためにも頑張らなければ。

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