10
そして今年も12月24日が巡ってきた。今日はクリスマス・イブ。多くの子供たちはクリスマスプレゼントとして、いろんな物をもらう。クリスマスの楽しみ方は様々だが、クリスマスケーキやローストチキンなどの鶏肉料理を食べる事が多い。
すでに冬休みが始まっているが、知也は油断をせずに、勉強をしていた。もっと頑張らなければ、共進学園に行けないかもしれない。みんな、もっと頑張ってくるだろう。もし、自分が遅れていたら、不合格になるだろう。不合格になったら、丸坊主にされてしまう。
「いよいよ再来月だね」
奈美恵もそれを気にしていた。夏休みから歩み続けた2人の真価が問われる時が近づいてきた。そのためには、油断などできない。
「うん」
「受験勉強、頑張ろうね」
と、知也は笑みを浮かべた。何を考えているんだろう。奈美恵は首を傾げた。
「わかったよ。奈美恵先生との友情パワーで絶対に合格してみせるよ!」
「そうだね! 知也くん、けっこう頑張ってるから」
奈美恵も笑顔だ。私と出会ってから頑張り屋になった知也に、奈美恵は期待していた。知也なら、必ず共進学園に合格する。だから前を向いて頑張って。
「でも、もっと頑張らなくっちゃ」
「頑張ってね!」
「知也ー、クリスマスプレゼントよー!」
突然、下から麻里子の声がした。今日はクリスマス・イブだった。受験勉強ばかりで、知也は全く気にしていなかった。今年はどんなクリスマスプレゼントがあるんだろう。
「はーい!」
知也は1階のリビングにやって来た。そこには麻里子と丈二郎がいる。丈二郎はソファに座って、テレビを見ている。そういえば、ここ最近全くテレビを見ていない。受験勉強ばかりだ。大好きなサッカー番組も見ていない。そのため、世界のサッカーの最新情報を全く耳にしていない。
「お母さん、何?」
「ジャーン!」
その声とともに、麻里子は好きなサッカー選手のユニフォームのレプリカを出した。
「わっ、好きなサッカー選手のユニフォーム!」
「そうよ。頑張ってほしいから、好きな選手のユニフォームを買ったの」
知也は喜んだ。まさか、ユニフォームのレプリカがもらえるとは。これは早く着たい。奈美恵にも見せたいな。
「知也、受験、頑張れよ。来年の春は、専願の高校に行けるようにな!」
丈二郎も期待していた。この子なら必ず共進学園に行くだろう。そして、立派な大人になるだろうな。
「うん! じゃあ、また部屋に戻って頑張ってくるね」
だが、喜ぶのもつかの間、知也は再び2階に向かった。また受験勉強に向かったようだ。
「もう、頑張り屋さんなんだから」
「いいじゃないか! 受験なんだもの」
「そうだね」
両親は、受験勉強の事で頭がいっぱいの知也を温かく見守っていた。あんなに不真面目だったのに。夏休みを境に、どうしてあんなにあんなに変わってしまったんだろう。まぁ、受験勉強だからだろうけど。何はともあれ、知也がこんなに成長したのはいい事だ。
「ただいまー」
知也は部屋に戻ってきた。そこにはやっぱり奈美恵がいる。奈美恵は、知也が戻ってくるのを待っていたようだ。
「クリスマスプレゼント、何だった?」
「ユニフォーム!」
知也はユニフォームのレプリカを見せた。奈美恵は驚いた。こんなのをもらうとは。知也は本当にサッカーが好きなんだな。
「そっか。私の最後のクリスマスプレゼント、すごかったなー」
と、奈美恵は最後にもらったクリスマスプレゼントを思い出した。今でもその事を忘れていない。それまでで一番大きなクリスマスプレゼントだったからだ。
「何?」
「マイカー」
最後のクリスマスプレゼントはマイカーだった。それは、来年の春から教員になる奈美恵への最高のプレゼントだった。これに乗って、学校に、そして家庭訪問などに使ってほしいなという思いで買ってきたという。だが、それを奈美恵が教員として使う事がなかった。教員になる前に事故死したからだ。
それを聞いて、知也は驚いた。まさか、マイカーがもらえたとは。本当に嬉しかっただろうな。だけど、それを教員として使う前に死んでしまった。無念で仕方なかっただろうな。
「本当? でもどうして?」
「来年の春から教員だという事で、これで通勤してほしいって事で」
「すごいなー」
知也は感心していた。自分も就職するまでに、こんなクリスマスプレゼントが欲しいな。そのためには、もっと頑張らないと。
「だけど、乗れないまま、死んじゃった。結局それは、親戚がもらっていったんだ」
「そうだったんだ」
だが、その車は奈美恵が死んだ後、親戚がもらっていったという。その様子を、幽霊となった奈美恵は見ていた。私のために買ったのに、まさか親戚が使うなんて。どうしてこんな事になったんだろう。
「私のために買ったのに、どうして・・・」
奈美恵は泣いてしまった。それを見て、知也は奈美恵の頭を撫でる。
「その気持ち、わかるよ。自分のために買ったのに、使われる事がなく死んでしまうなんて」
「ひどいよね・・・」
そして、奈美恵はクリスマスプレゼントをもらった日の事を思い出した。
それは、大学4年生の時、実家に帰省していた頃の事だ。東京の大学にいた頃は、クリスマス・イブを一緒に迎えられなくて、年末に帰省した時にもらっていた。
「奈美恵、クリスマスプレゼント買ったんだけど、何かわかる?」
「わからない・・・」
と、向こうからヘッドライトを点灯させて、軽自動車がやって来た。その軽自動車を運転しているのは父だ。まさか、これがクリスマスプレゼントだろうか?
「ジャーン!」
「ま、マイカー?」
父は軽自動車から出てきた。奈美恵は驚いた。自分で買おうと思っていたが、まさかもらえるとは。
「うん。来年の春から教員でしょ? だから、この車で通勤して、頑張ってほしいなって」
「本当? ありがとう。来年の春からこれで通勤するね」
奈美恵は笑みを浮かべた。こんな大きなクリスマスプレゼントをもらったんだから、来年の春から教員としてもっと頑張らないと。
「来年からの奈美恵に期待しているぞ!」
「ありがとう。私、頑張るね!」
母は奈美恵の頭を撫でた。やっぱり私たちの子だ。いい教員になってくれるはずだ。
「これからは奈美恵の時代だ!」
「そんな大げさな・・・」
車から降りた父の言葉に、奈美恵は少し照れた。大げさだけど、そういわれるようにもっと頑張らないと。
「まぁ、何はともあれ、来年の4月から頑張れよ」
「うん!」
だが、それがかなう事はなかった。
知也は真剣にその話を聞いていた。
「そうだったんだ」
「あの時、私のために買ってくれた車、どうなってるんだろう」
奈美恵はそれから、あの車がどうなったのか、見た事がない。自分が乗るつもりで買ってもらったものなのに、別の人が乗っているからだ。
「今頃、新しい人が運転してるだろうな」
「末永くは知ってほしいね」
奈美恵は再び泣いてしまった。どうして私のクリスマスプレゼントを他人が使っているんだろう。それを見て、知也はまた奈美恵の頭を撫でた。
「うん。でも、私の車なのに・・・」
「つらいよね・・・」
奈美恵は次第に知也が好きになり始めた。どうしてだろう。自分は家庭教師としてここにやって来たのに。家庭教師を飛び越えて、恋人になってしまったんだろうか?
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