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いよいよ大晦日になった。この日と正月三が日は勉強を休んで、再来月の受験に備えないと。毎年迎えている大晦日だが、今年はちょっと違う、奈美恵がいるからだ。奈美恵がいるだけで、こんなに雰囲気が変わるとは。
チャンネルを変えると、紅白歌合戦がやっている。
「今日は紅白歌合戦なんだね」
奈美恵は大晦日、特に紅白歌合戦を楽しみにしているようだ。視聴率が下がっているとはいえ、紅白歌合戦は大晦日の風物詩だ。知也は毎年、家族で見ている。だけど今年は奈美恵と見る。たぶん、今年しかない体験だろうから。
「うん。年末年始だけは勉強を休みたいな」
だが、知也は笑っていない。受験が控えているのに、浮かれ気分であってはならない。気合を入れて受験勉強をしていかないと。
「時には休みも大事だもん」
「そうだね」
奈美恵も休みが大切だと思っていた。勉強ばかりでは、頭が固くなってしまう。たまにはこうやってほぐす事も大切だ。
「いつもはお母さんと見るんだけど、今日は奈美恵先生と見ようかな? いつもと違う年末だからね」
「ふーん」
毎年、紅白歌合戦を見ているのか。今も昔も、それは変わらないんだな。
「奈美恵先生、好きな歌手いたの?」
「うん。FUNKY MONKEY BABYS」
知也はFUNKY MONKEY BABYSが好きなようだ。特に、高校サッカーのテーマ曲だった『明日へ』がお気に入りで、よく聞いているという。
「そっか」
「私、『あとひとつ』って曲が好きだったわ」
奈美恵もそのグループを知っていて、特に『あとひとつ』がお気に入りのようだ。
「ふーん。僕は『明日へ』だね」
「サッカーじゃん!」
奈美恵は感心した。やっぱり知也はサッカーが好きなんだな。だから、中山雅史がジャケットで、高校サッカーのテーマ曲だった『明日へ』が好きなんだな。
「高校サッカーのテーマ曲だもん」
「確かに」
と、奈美恵は2013年の日本シリーズのクライマックスを思い出した。奈美恵はあれをテレビの生中継で見て、感動して鳥肌が立ったという。
「でも、『あとひとつ』もいい曲だね」
「うん」
知也も『あとひとつ』はいい曲だと思っている。これを聞くと、田中将大を思い出してしまうぐらいだ。
「楽天が日本一になった日、エースの田中がこの曲に送られて登場した時は感動したな。私も生で見て、心がジーンとなったわ。歌って、こんなに人の心を動かすんだなって。そして、ファンの思いを受けて投げて勝った田中投手、かっこよかったなー。東日本大震災を乗り越えて、ここまでやって来た楽天、本当に感動した」
奈美恵はあのシーンを思い出した。2013年の日本シリーズは巨人と楽天の対決だった。シリーズは第6戦までもつれ込んだ。昨日行われた第6戦では、去年の途中から全く負けていなかった田中将大が負け、少し絶望感が生まれていた。第7戦は先発の美馬が巨人を完封で抑えて、先発の1人だった則本が中継ぎとして登板していた。そして9回には、昨日負けた田中がマウンドに立った。マウンドに上がる時、『あとひとつ』が流れてきた時、スタジアムが感動の渦に包まれただろう。田中は見事に9回を抑え、楽天イーグルスは9年目で初の日本一になった。それは、東日本大震災を乗り越えての、感動の瞬間だった。
「僕も同感だわ」
知也はその様子を全く見ていない。だけど、想像すると涙が出てきそうだ。スポーツの力って、ここにあるんだろうか? 自分も、何らかの形で人々を感動させたいな。
2人は紅白歌合戦を見ていた。ポップスに、演歌に、様々な歌手やグループが出てくる。そして、その合間にイベントがあって、とても楽しい。
「いろんな歌手が出てくるね」
「うん」
「私、ジャニーズも好き」
奈美恵はジャニーズも好きなようだ。やっぱりかっこいいからだろうか?
「確かに。かっこいいもん」
「その中では、やっぱりSMAPが一番かな?」
SMAPはジャニーズの中でもトップクラスの知名度だ。ミリオンヒットも多くて、活動期間も長い。すでに解散はしてしまったが、ジャニーズといえばSMAPだと知也は思っている。
「僕、このグループの曲、歌ったことがあるんだ」
「本当?」
知也は驚いた。何を歌ったことがあるんだろう。どんな曲が好きなんだろう。
「うん。世界に一つだけの花」
「あれ、僕もいい曲だと思う!」
『世界に一つだけの花』はSMAPの曲の中でも一番のヒット曲で、三百万枚売れたという。知也もその曲が好きで、悩んでいる時によく聞いて、元気を出したという。
「♪世界に一つだけの花 一人一人違う種を持つ その花を咲かせることだけに一生懸命になればいい」
突然、奈美恵は歌い出した。それを聞いて、知也はうっとりしている。いつ聞いても、この曲はとってもいいな。
「SMAPは名曲が多いけど、やっぱりこの曲が好き」
「解散すると聞いた時には、本当にがっくりしたわ」
奈美恵も知也も、SMAPが解散すると聞いた時にはがっかりした。あんなにいい曲を次々と歌ってきたのに。だけど、物語に終わりがあるように、SMAPにも終わりの時が来たんだろうかと考えた。
「僕だもよ」
「私、あの曲が紅白歌合戦の大トリだった時のを見た事あるわ。白組の完勝だったんだって」
奈美恵は2003年の紅白歌合戦を見た事がある。この年は『世界に一つだけの花』のシングルバージョンが発売され、この年だけで200万枚売れる大ヒットになったという。そして、この年の紅白歌合戦の大トリでこの曲が歌われるようになった。大トリはたいてい、演歌だったのでびっくりした。実際、この年の紅組のトリは天童よしみの『美しい昔』だったという。結果は、白組のストレート勝ちだったという。いくらこの曲を大トリに持ってきたとはいえ、こんな結果になるとは。
「本当に?」
「うん」
知也も驚いた。そんなに勝敗が左右されたなんて。改めて『世界に一つだけの花』はすごい曲だなと思った。
「大トリに決まった時には、白組が勝つだろうなと思ったけど、まさか、こんな勝ち方になるとは」
「僕もびっくりしたよ」
やがて、紅白歌合戦が終わり、知也はカウントダウンライブの生中継に切り替えた。たいていこの番組で新年のカウントダウンを見る。
「いよいよ来年が迫って来たね」
だが、知也は楽しそうに見ていない。来年の2月はいよいよ受験だ。自分の未来を決める重要な日だ。頑張らなければ。
「いよいよ受験の年だ。頑張らないと」
「そうだね」
いよいよ新年のカウントダウンが始まった。2人はカウントダウンを真剣に見ている。
「3,2,1,0!」
そして、新年が明けた。いよいよ受験の年が幕を開けた。
「ハッピーニューイヤー!」
「新年おめでとー!」
2人は新年が来るのを喜んだ。この瞬間は共に喜びを分かち合おう。
「今年もよろしくね!」
「こちらこそ」
だが、奈美恵は少し浮かれない表情だ。この子が合格したら、どうなるんだろう。私は天国に帰るんだろうか? その先は、どうなってしまうんだろうか?
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