3

 その夜、知也は2階の部屋で悩んでいた。勉強してもなかなかわからない。だが、合格するためには頑張らなければ。外からは花火の音が聞こえる。どこかで花火大会が行われているんだろう。だが、知也は全く興味を持たない。今は勉強に集中しなければならない。


「うーん、どうしよう。全然わかんないよ・・・」


 そこに麻里子がやって来た。麻里子はアイスクリームを持っている。知也はほっとした。差し入れはなぜかほっとする。


「大丈夫?」

「なかなかわからなくて」


 知也は心配そうな表情だ。麻里子にもその理由がわかった。何もできないけれど、為せば成ると信じろと言うしかない。


「大丈夫? 食べる?」

「ありがとう」


 知也はアイスクリームを食べ始めた。知也はホッとした。甘いものを食べるとホッとする。どうしてだろう。知也にはわからない。


「悩んだ時にはリラックスするといいわよ」

「本当?」

「うん」


 麻里子は笑みを浮かべている。もっと頑張ってほしいと応援しているようだ。麻里子の期待に応えないと。


「じゃあ、頑張ってね」

「うん!」


 麻里子は部屋を出ていった。知也はアイスを食べている。その間、知也は花火を見ていた。とてもきれいだな。来年の夏は家族そろって笑顔で見られるように、受験を頑張らないと。


 知也はあっという間にアイスを食べ終えた。知也は1階のごみ箱にアイスの箱を捨てた。分別になっていて、紙は1回に捨てる。リビングでは両親がテレビを見ている。だが、知也はそんなのを見ている暇なんてない。今は受験を頑張らなければならない。テレビより勉強だ。


 知也は足取り重く2階に上がっていった。また頑張らなければならない。そう思うだけで、足取りが重くなる。みんなの期待だけが知也を後押ししていた。


 知也は2階に戻ってきた。2階はとても静かだ。リビングのテレビの声が全く聞こえない。勉強をするには絶好の環境だ。


「勉強しろ、勉強しろと言われても、なかなかわからないんだよなー」


 知也は勉強机に座った。目の前には問題集があるが、なかなか進んでいない。この夏で頑張らなければ、受験はうまくいかない。


「うーん・・・」

「大丈夫?」


 と、誰かの声が聞こえた。知也は辺りを見渡した。その声は麻里子じゃない。誰だろう。勝手に誰かが入って来たんだろうか?不法侵入なら、警察に通報しなければ。


 と、知也は自分の後ろに紺のノースリーブの女性がいるのに気が付いた。どうやって入って来たんだろう。誰だろう。麻里子ではない。


「き、君、誰?」


 知也は戸惑っている。初めて会う人だ。


「私、家庭教師。勉強、助けようか?」


 知也は驚いた。家庭教師だとは。まさか、両親が呼んだんだろうか? いや、そんな事、両親は話していない。考えた事すらないのに。


 だが、知也は大歓迎だ。受験のためなら、どんな手段でもしなければ、合格は見えないと思っていた。この人に教えてもらったら、うまくいくかもしれない。とりあえず、教えてもらおう。


「い、いいですけど、お金は?」

「いらないの。私、幽霊だから」


 知也は驚いた。まさか、この女性は幽霊だったとは。なるほど、だからここに入る事ができたんだ。知也はおびえている。怨念なんてないのに。どうして幽霊が目の前にいるんだろう。全く悪い事をしなさそうに見えるが、やはり怖い。


「えっ、幽霊?」

「うん。だけど、全然怖くないよ」


 幽霊は笑みを浮かべた。幽霊と思えないほど、とても可愛い。それに、勉強を手伝ってくれるなんて。とても優しい幽霊だな。


「本当に?」

「うん。知也くんの役に立ちたいから」


 知也はほっとした。この人となら、受験がうまくいくかもしれない。この人についていこう。


「そうなんだ」


 と、幽霊は目の前の問題集を見た。問題集はあんまり進んでいない。知也は苦労しているようだ。


「あっ、そうそう。これは、こうするのよ」


 だが、知也は頭を抱えた。わからない事ばかりだ。本当にうまくいくんだろうか?


「うーん、わからないよ」

「諦めないで!」


 幽霊は知也を応援しながら、問題を的確に教えた。それでも、知也は頭を抱えている。だが、幽霊は諦めない。きっとできるようになるさ。そして、いい成績を収める事ができるさ。




 結局、知也は徹夜で勉強をした。これほど勉強したのは初めてだ。こんなに真剣になれたのは、あの幽霊が来たからだろう。また来てほしいな。そして、一緒に勉強をしよう。


「朝か・・・」


 知也は目を覚ました。あの幽霊は何だったんだろう。今日もいるんだろうか? 


「昨日のあの幽霊は何だったんだろう。夢だろうか?」

「おはよう」


 その声で、知也は振り向いた。そこにはあの幽霊がいる。まさか、今日もいるとは。普通、家庭教師は週1回だろう。だけど、今日も来てくれるとは。とても嬉しいな。


「うわっ、まだいたの?」

「うん。いつでも私はいるから」


 幽霊は嬉しそうだ。まるで知也を教えるのを楽しんでいるようだ。知也は嬉しそうだ。


「いつまでいるつもりなの?」

「知也くんの受験が終わるまで。私、頑張るから、知也くんも頑張ってね」


 自分の受験が終わるまでいてくれるとは。とても嬉しいな。ぜひ、僕を志望校合格まで導いてほしいな。


「う、うん・・・」


 とりあえず朝食を食べに行こう。知也は部屋を出て、1階のダイニングに向かった。朝食を食べなければ、頭が働かないだろう。


 知也はダイニングにやって来た。すでに丈二郎は朝食を食べ終えてリビングでくつろいでいる。ダイニングには麻里子がいるだけだ。


「おはよう」

「おはよう。どうしたの?」


 麻里子は何かに気が付いた。あれだけ受験で悩んでいたのに、どうしたんだろう。


「い、いや。何でもないよ」

「そう」


 知也は椅子に座り、朝食を食べ始めた。今日はご飯とみそ汁の他に、目玉焼きだ。知也は目玉焼きにケチャップをかけて、食べ始めた。いつもはご飯とみそ汁なのに、今日は目玉焼きもある。休みだからだろうか? 受験を応援しているんだろうか?


「どう、受験勉強進んでる?」

「まぁまぁ」


 だが、知也は厳しい表情だ。まだまだ進んでいない。家庭教師が来てくれたとはいえ、まだまだ効果が出るには早い。これから継続していけば、必ず成績が良くなるだろう。


「頑張ってね。お母さん、応援してるから」

「ありがとう」


 知也はあっという間に食べ終えると、歯を磨きに行った。リビングには行こうとしない。受験に集中しているのだ。そう思うと、麻里子は嬉しくなった。


 歯を磨き終えると、知也はすぐに2階に上がった。猛勉強をしに行ったんだろう。いよいよ本気になって来たようだ。頑張って、志望校に合格してほしいな。そして、いい大学に行って、いい企業に就職して、この家を支えてほしいな。


 と、そこに丈二郎がやって来た。そろそろ歯を磨いて出勤するようだ。


「また2階に行くのね」

「最近多いのよ。受験勉強だとわかってるのに。どうしたんだろうね」

「ああ」


 麻里子と丈二郎は天井を見ている。2階には知也がいて、一生懸命勉強をしている。果たして来年の今頃はどうしているんだろう。


 その頃、2階では知也が勉強を始めようとしていた。その横には、幽霊がいる。


「はぁ・・・。今日も始めないと。行かないと坊主だもんな」

「私がいるの、嫌?」


 突然、幽霊は聞いた。知也が嫌がっていないかどうか、心配になったようだ。幽霊と聞いて、怖いというイメージが浮かぶかもしれない。それでも大丈夫だろうか?


「嫌じゃないよ」


 知也は大歓迎だ。勉強を手伝ってくれるのなら、幽霊だって大歓迎だ。


「よかった。これからも役に立てて嬉しい」

「そっか」


 知也は問題集を出した。幽霊はその様子を見ている。幽霊も教える準備万端だ。


「さて、始めよっか」


 知也は問題集を解き始めた。幽霊はじっと見ている。知也が悩まないか。悩んでいたら、知也の力にならないと。


「頑張ってるね」

「そりゃあ、合格したいもん!」


 知也は熱い気持ちだ。志望校に合格しなければ、坊主になれと言われているんだ。


「ならば、全力で応援するわ」

「ありがとう」


 だが、進んでいくと、すぐに詰まってしまった。知也はまたもや頭を抱えてしまった。


「うーん、全くわからないな」


 だが、幽霊はすぐに教えた。あっさりとわかったようだ。この幽霊はかなり賢いし、優しい。それに、教え方が上手だな。まるで本物の教師のようだ。


「ここ? ここはこうやってするの」

「わかった! ありがとう!」


 知也は再び筆が進んだ。若干ではあるが、昨日よりは進みがいい。ひょっとして幽霊のおかげだろうか? これからもこの幽霊が一緒にいれば、ひょっとしたら志望校に合格できるかもしれないな。

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