六章 旅の終わり

第24話

 俺たちの旅の目的は、戦争から逃げること。目的地と言ってもロシアから逃げることができればそれでいい。ポーランドやその先にあるドイツへ逃げることが出来たら旅は終了だ。


 今俺たちはウクライナの北西の端の方にいる。ここが安全なのかはわからないが、あと数日耐えれば地獄から抜け出せる。そう思い、胸を躍らせていた。


 はずだった。



 「キャアーーーッ!誰か!誰か助けて!!」


 「うわああぁぁ!倒れるぞ!逃げろ!!!」


 目の前では突如として始まった空襲により、何十人もの人が逃げ惑い、悲鳴を上げていた。

 建物には大きな穴が空き、高いものはすでに倒れているものもある。


 「クリスティーナ!逃げるぞ!」


 「うん。」


 その場から離れようとしたその瞬間だった。

 俺たちから数十メートル後ろにある、大きな建物が鈍い音を立て、崩れていった。


 今俺たちがいる場所にはあの建物が崩れ込んでくることはないだろう。しかし、クリスティーナは何を思ったのか、突然飛び出した。


 「ッ!?待て!そっちは危ない!」


 俺の声も聞かずに飛び出した彼女の視線の先には、幼い男の子がいた。母親とはぐれたのか、1人で泣いている。そんな小さな子供に現状が理解できるはずがなく、逃げ惑う人々を見て不安を募らせているようだ。

 

 (まさか...彼女はその子を助けようとしているのか?間に合わない!)


 咄嗟に彼女を追いかけたが追いつけなかった。


 俺にはその直後に起きた光景が、時の流れが止まったように見えた。


 彼女が男の子の腕を掴んだ時には、建物がすでに彼女の頭上の数十センチメートルに迫っていた。

 それに気づき、彼女は力いっぱいに男の子を外へ押した。


 ガラガラガラッ!


 「クリスティーナ!!!」


 彼女は、1人の男の子の命を救った直後、瓦礫の下敷きとなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る