第19話
「セルゲイ。お前に友と呼ばれる義理はない。早くクリスティーナを返せ。」
今までにないほどの憎しみを込めて睨んだ。
「おいおいそんな怖い顔するなよ。言っておくが、こちらには人質がいるんだから。まあ、ゆっくり話そうぜ。奥に来いよ。」
気持ち悪い。蛇のようなねちっこさがある。これがこいつの本性だったのか?
店の奥に行くとクリスティーナが手と足を縄で縛り付けられていた。見たところ、ケガはないようだったのでひとまず安心した。だが、彼女は家族を殺された怒りを露わにしていたので、精神的に大丈夫なのかは不安なところだ。
「俺はよお、お前が女を連れて逃げた時、すっごくイラついたんだ。だからあの家の貴重品でも荒らして、気を紛らわそうとしていたんだ。そしたらあの家の住民が止めやがったんだ。俺に逆らったんだぜ?だから殺してやったさ。あいつらの死に顔と言ったら...。」
セルゲイは話終えた途端、大笑いし始めた。クリスティーナの方を見ると、涙を流しながらプルプル震えていた。
その時、俺の中で何かがぷつりと切れる音がした。
「お前は、人を殺して気持ちいいのか?!命をなんだと思っている?失ったら戻って来ないんだぞ!それなのに...それなのにお前に家族の命を奪われたクリスティーナの前で、どうして笑っていられるんだ?!謝れ!!」
怒りのままに叫んだが、セルゲイは顔色ひとつ変えないどころか、冷酷な笑みを浮かべた。
「お前がなぜそんなことを言ったのか、教えてやろうか?自己満足だ!綺麗事を言って自分は正しいと思いたいんだ!お前は訓練で何を教わった?この戦争の目的はなんだ?『敵を滅ぼす』だろうが!!軍はもうお前を味方として見ていない。すでに見つけたら捕まえろとの命令も出ている。さあ、大人しくついてこい。」
「くっそ、殺されてたまるか」
セルゲイに向かって行こうとすると、あいつはサッと拳銃の銃口のみをクリスティーナに向け、言った。
「いいのか?こいつを殺すぞ?」
威嚇するような目でそう言われ、体が固まり、動けなくなった。
しかし、彼女はその、アルティオムにのみ集中した視線を見逃さなかった。
いけるっ、今なら!と彼女の声が聞こえた気がした。
ガッとセルゲイの足にクリスティーナが足をかけ、彼のバランスを崩した。そして、アルティオムがその崩れかけている足元を思いっきり蹴り、放り出された拳銃をキャッチした。
「お、お前ら!」
「おっと、いいのか?立場は逆転したぞ?よくもあんなにも俺たちを侮辱してくれたな。さあ、次は俺たちの番だ。」
憎しみを込めて、銃口を向けた。しかし、撃つことができなかった。正確に言うと、引き金を引くことができなかったのだ。俺の手に、彼女の手が重なっていたから...
「だめ。だめだよ、アルティオム。殺すのは、だめ。絶対に犯してはいけない大罪だから。」
「けど、こいつは罪のない人を何人も殺した。生きている価値なんて...」
「それ以上言わないで。人の価値は他人が決める物じゃないし、ひとつに定まらないんだよ。たとえそれが泥棒だろうが、人殺しだろうが、きっときれいな一面を持っている。だって、生きてるんだから。」
この中で一番つらいはずなのに、なぜこんなにも優しい顔をしていられるんだ。
そんなことを思ったけれど、心がきれいに洗われるのを感じた。
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