第17話
ドニプロ川を渡ることになり、約1週間がたった。
途中、通りすがった車に乗せてもらったおかげで予想していたよりも早く進むことができた。
そして今、俺たちは橋を目前にしている。
「よし、行こう。」
「うん。」
『ここを渡れば、目的地に近づくことができる。』
その事だけを頭の中で唱えた。
この戦争という状況の中、アントノフスキー橋は静まり返っていた。
この戦争が始まったばかりの時は逃げようとする人々の車で渋滞になっていたが、始まってからかなり時間の経った今では車どころか俺たち以外の人影すら無くなっている。
...少し、怖いくらいだ。
「静か...だね。」
聞こえるか聞こえないかギリギリな、振り絞るような小さな声でクリスティーナが言った。何かを喋らないと恐怖で足が竦むのだろう。俺だってそうだ。
「だな。何か喋りながら行こう。」
「そうだね。じゃあ、聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「?ああ。」
「アルティオムはさ、この戦争のことをどう思ってるの?」
突然の質問に、足が止まった。
「それは...どういう」
「ごめん。そんなに大した意味があるってわけじゃないの。アルティオムにとって私は敵。私にとってもそう。それなのに、あなたはどうして私を助けてくれるの?」
それは、あの日同じことを疑問に思った俺が君に尋ねた時、笑顔で返してくれたから。君の心が、誰よりも美しかったから。
答えはいくつもあった。けど、
「戦争への考え方が同じだったんだ。ただそれだけさ。」
「そう。」
少し疑問が残った顔をしていたが、納得はしてくれたようだ。
「クリスティーナはさ、ロシア人をどうしたい?」
引きつった顔をしたのが見えた。
しまった、と思った時、クリスティーナは口を開いた。
「私は別にね、ロシアを滅亡させたいってわけでも、家族を殺した奴に仇を討ちたいってわけでもないの。
ロシア人はいい人たちだよ。だってアルティオムみたいな人が育つ国だもん。戦争に反対する人だってたくさんいる。みんな怖いだけなんだ。
戦争もすぐ終わるよ。きっとね。」
そう言って微笑む彼女の顔は、眩しかった。まるで、ウクライナの国花であるひまわりのように。
この物語はフィクションであり、実在の人物とは必ずしも一致しません。
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