第16話

 チュン、チュンと小鳥のさえずりが聞こえてきた。明るい朝の日差しも入り込んできて、ついこの前に起きたことが嘘のようだ。


 「おはよう、アルティオム。」


 「ああ、おはよう。今日ここを出よう。」


 3日前、ここの近くの病院に爆弾を落とされた。それが原因で、ここにはわずかな人しか残っていない。

 

 「あら、2人とももういなくなってしまうのね。寂しくなるわぁ。」


 「はい。私たちには目的地があるので。」


 「元気でね。何かあったら、すぐ戻ってきていいのよ。」


 戦争で身も心も疲れ果てている俺たちにとって、帰ってくる場所があるというのは、とても心強いことだった。

 クリスティーナは俺と目を合わせて、子供のような笑みを浮かべた。


 「はい!」


 そう言って避難所を後にした。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 「さて、目的地があると言っても、ドニプロ川を渡らないことには...」

 

 ドニプロ川周辺は、ロシア軍に支配された場所が多い。

 アルティオムはロシア軍との衝突を避けたかった。


 「それなら多分大丈夫だよ。」


 「え?」


 「えっとね。ドニプロ川にはアントノフスキー橋がかかっているから、それを渡ればいいと思う。」


 少し間を置いた後、クリスティーナは気まずそうな顔をして言った。


 「本当にごめん!もっと早く言うべきだった。橋は、ドニプロ川のかなり南の方にあるの!」


 「それはつまり...」


 「逆戻り...するしかない。」

 

 数分の間、沈黙が続いた。


 その沈黙を破ったのはアルティオムだった。


 「じゃあ行くか。」


 「え、いいの?私を怒らないの?」


 「別にいいじゃないか。焦らず、ゆっくり行ったっていいと思うぞ。」


 「ありがとう。ごめんね。」


 「気にするなって。ほら、行くぞ。」

 

 「うん。」

 

 

 この物語はフィクションであり、実在の人物とは必ずしも一致しません。

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