第6話
コートを着て、お母さんとヨセフに、
「ちょっとだけ待ってて。みてくるから。」
「気をつけなさいね。」
外に出ると、人だかりができていて、騒がしくなっていた。
その中の1人に話を聞くと、この建物にミサイルが落ちてここの住人が犠牲になったというのだ。男の人たちが中に入って救助活動をしているというけれど、おそらく命を落とした人もいるかもしれない、と。
しばらくして、担架を持った2人の男性が外に出てきた。その担架の上には、10歳くらいの男の子が寝かされていた。腕や足にはガラスの破片が刺さっていて、頭からも血が出ていた。意識も失っている。窓の近くのベッドで寝ていたらしい。ミサイルが着弾した時窓が割れ、あたりに飛び散り刺さったのだろう。
人だかりの中から悲鳴が上がった。被害を受けた建物から遺体が運ばれてきたのだ。出血もひどく、止血もできなかったという。
「もう、ダメよ。ここにいては危ない!逃げるのよ!早く逃げないと!」
パニックを起こした女性が叫んだ。
家から出てきたお母さんは、その状況を見て、私を落ちつかせるために言った。
「落ち着きなさい、クリスティーナ。こんな状況だからこそ心を落ち着かせることが大切なのよ。今ここを離れて行動するより、ここでおとなしくしている方が安全かもしれない。」
「う、うん。わかった。」
そう言って私達は家の中に戻った。
テレビをつけると、ロシア軍がウクライナに攻撃を始めたと言っていた。
「お母さん、これ...」
横を見ると、お母さんが震えていた。様子のおかしいお母さんを見て、ヨセフもつられて怯えていた。
「大丈夫。大丈夫だから。2人はお母さんが守るからね。」
声が震えるのを無理矢理抑えているのが伝わってきた。
ここまで私達を守ろうとしてくれているなんて感謝しても仕切れない。
日が登ってきた朝7時ごろ。
外が明るくなって、人の声も聞こえてきた。
それが、ウクライナ人のものなのか、ロシア軍のものなのか。恐怖に襲われて何も信じることができなくなってしまっている私達は、カーテンを開けて確認することすらできないのだ。
「お母さん。お腹空いたよ。」
ヨセフが言った。それもそうだろう。いつもなら今頃、朝食を食べ終えているはずなんだから。
「そうよね。今用意するからちょっと待っててね。」
そう言ってお母さんは冷蔵庫を開けた。
中には、ほとんど何も入っていなかった。
今日の分は足りるだろう。けれど、外に出ることができない間の食糧はどうすればいいのだろうか。
「ええっと、ヨセフ。ごめんね。ご飯が足りないから少なめにするね。」
冷蔵庫に入っていた少量の野菜を切り、蕎麦の実でできたカーシャをテーブルに並べてくれた。
それを食べながら、ヨセフが言った。
「お母さん、お姉ちゃん。僕たちこれからどうなっちゃうの?」
そんなの誰にもわからない。わかるわけないんだ。
この物語はフィクションであり、実在の人物とは必ずしも一致しません。
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