第4話
クリスティーナの家についた。
家の中に駆け込むとセルゲイの姿はなく、鉄のような匂いが充満していた。部屋は荒らされ、置物が置かれていたであろう場所には何もなくなっていた。俺よりも先に家の奥に駆けていったクリスティーナの悲鳴が聞こえた。
「お母さん!ヨセフ!」
悲痛に満ちた声で叫ぶクリスティーナの視線の先には、頭部と胸部から大量の血を流した女性と六歳ほどの少年が倒れていた。
一瞬時が止まったように思えた。周りの音が全く耳に入らなくなった。
セルゲイのやつクリスティーナの家族を殺したのか。ここまでするとはなんて卑怯なんだ。
少しずつ耳に音が入ってきた。
「おかしい。こんなのおかしいよっ。私たちはただ平穏に暮らしていただけなのに。私たちが何をしたっていうの!」
「返してよ。私の家族を返してよ!」
そう泣き叫ぶ彼女に、俺は声をかけることができなかった。
泣き叫ぶクリスティーナを連れて、俺は家を出た。自分がどこに向かっているのか自分でもわからないほど、無我夢中で歩いた。
戦争とは一体なんなのだろうか。ロシアの戦闘員は国を守るために徴兵されたのに、なぜものを奪ったり、むやみに人を殺すことができるのだろうか。これでは戦闘員ではなく、殺人鬼のようだ。
歩き始めて1時間ほど経った時、今は使われていないような小屋を見つけたので、今日はとりあえずそこで過ごすことにした。
夜も遅かったので、1つだけあったベッドをクリスティーナに譲り、俺は床に布を広げて寝ることにした。何があってもすぐに対応できるようどんな時も油断しないように、と訓練で教わったが、溜まりすぎた疲労のせいで意識が朦朧としてきた。
そんな俺に比べ、クリスティーナは、今日起こったことが大きすぎる恐怖を与えたらしく、うなされていた。当たり前だ。家族を一度に亡くしたのだ。もしも俺の家族が同じようになったら、俺も同じようになってしまうだろう。
俺はなぜ彼女の家族を守ってやれなかったのだろうか。セルゲイが彼女の家に入っていくのをはっきり見ていたはずなのに、なぜ無理矢理でも止めなかったのだろう。
そんなことを考えながら、長い長い夜を過ごした。
この物語はフィクションであり、実在の人物とは必ずしも一致しません。
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