第4話  突然の嵐――俺投げ出された~~!!

 俺の住んでたタナトス大陸には、大陸を南北に分ける大山脈が存在した。

 空をくような山々が大陸の西の端から、東の海岸連まで連なり、人の足では越えられぬ地として、近年まで交易さえなかったんだ。


 魔族がこの世から消えたことと、帆船の技術の発達、それに魔法使いの力を借りれば、こちらからの訪問が、可能になった。

 もちろん、交易を申し込むのは並大抵ではなかったと思う。

 珍しい豆を使った加工品が、ヴァーレンでも手に入る様になったのは最近だ。


 アウグステは、東方の神の一族の直系の姫君だとか……。

 それで、高位の風の精霊の加護を持っており、船長も「どこの魔法使いに頼むよりも安心だ。今回の旅は、楽勝だよ」

 と、にやけ顔が止まらない。


 アウグステのおかげか、最初の数日は、船は滑るように大海原を行った。

 微かに霞んで見えるが大陸の海岸線なのだろう。


 船の中の生活には、意外に早く慣れることが出来た。

 俺以外の船員は、みんなベテランで、気さくな海の男たちだった。


 10日経った頃__

 アウグステが船長に、雨雲が近付いている事を知らせた。


「何とか、回避は出来ませんか?」


「最初に言ったはずです。自然現象には、対処出来ないと。私に出来るのは、風に行き先を指示することだけです。この雨雲は大きいです。嵐になるかもしれません」


 船長は、力なくうな垂れた。

 魔法使いがいれば何でも出来ると思ってたみたいだ。

 俺みたいに、魔法なんて物に縁のない人間には、今から嵐に備えて食料品を食料箱に纏めて、ロープに船体に括り付けておくしか出来ない。


 夜から、だんだん風が強くなってきた。

 俺は、船底で嵐が通り過ぎるのを他の船員とただ待つだけだ。

 あれ?

 アウグステの姿が無い。


嘘だろ?こんな嵐の夜に、デッキに行ったのか?


 俺の予感は的中!

 彼女は、船首で頭上を見上げて独り言を言っていた。


「風の奥方、船が流されてるぞ、元の海路に戻ってくれ」


 <これは、わたくしの以外の力が働いておりますわ。アウグステ様もご用心あそばして>


「風の奥方に制御出来ない力があるのか……」


 俺は船首に佇むアウグステに声をかけた。


「アウグステ!」


「ぺール?」


 その時に大きな横波が船を襲った。

 わわわっ……


 俺は、船を転がって、そのまま海に「バシャーーン!!」と落ちた。

 海水は、思ったほど冷たくは無かったけど、落ちた時に海水を飲んでしまった。何とか浮き上がると、船が傾きかけているのが見えた。


「ペール!!」


 アウグステの叫ぶ声と俺の近くに何か、投げ込まれる音がした。

 俺はこの嵐で死ぬのかなぁ……



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