第2話  風使いの不思議な女の子

「お前は、レスター侯爵から呼び出しが来ているぞ」


 叔父さんは、俺を憐れむように言った。


「侯爵は、元凶のお前を侯爵家で躾直したいと言って来た。治療院にいるからお宅には伺えませんと断っておるが」


「叔父さんこそ、店は良いの?」


「店は畳む。もう首都での営業も無理だ。ヴィスティンの修行先の店にでも潜り込めば良いさ。おれのことは良いんだ!! ペール。お前のことだ」


「そんなことを言われても……」


 俺は、まだ蹴られた背中が痛かったし、考えもまとまらなかった。

 友人なんていない。

 肉親と呼べるのも叔父さんだけだ。

 俺の情けない、俯いた仕草に心打たれたものがあったのか、叔父さんが急に俺に話しかけた。


「仕方ない、クリフに頼むか……」


「クリフ?」


「クリフ・ロットニー、北へ行く唯一の帆船『テレジア号』の料理長だ。彼に頼んで、テレジア号に乗せてもらうんだ。航海はあちらでの滞在もあわせると約三年になる。……その頃には、侯爵もお前のことも忘れているだろう」


 信じて良いのかなぁ……って思ったけど、実際俺の立場はかなりヤバかったみたいで、治療院を退院する時も裏口から、コッソリ、真夜中に叔父さんの迎えだけで、出て行かなけりゃならなかった。


 その後すぐに、叔父さんの知り合いのクリフさんに紹介されて、事情を知った彼の手配で、その日の内に船上の人になっていた。


 ヴァーレン皇国の最西端の港、スボーブル港に『テレジア号』は停泊していた。

 まだ、マストには帆が張られていなくて、でもこんなに大きくて、壮麗な船を見たのは初めてだ。


「出航が遅れていて、良かったよ」


「遅れてるんですか?」


 クリフさんは、屈託なく笑って俺に言った。


「ああ……この船が特別に山脈の向こうの北の国へ行けるのは、船長に神殿と魔法使いのがあるからなんだ。

 今回、魔法使いの手配に手こずってるらしいな」


 何でも良い。

 生きていられたら……。

 今はそう思うことにしよう……。


 と、俺はデッキから海を眺めた。

 そして叫んでしまった。


「お……女の子が宙に浮いてます~~!!」


 それが彼女にも聞こえたのか、女の子は俺を目掛けて飛んで来た。


 それにしても、見事な銀髪で瞳も銀色なんだ。





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