第5話 英雄王の予感
「まさか、この様な場所に湿地帯と河川が入り組んでいたとは……」
サラディンはぼやいた。
しかも不運が重なり、荷馬車が壊れて行軍が機能していない。
何だ? 我々を待ち受ける運命が読めない。
もしや、これまでの敵とは違うのか? 相手は若干十六歳の病王だ。籠城する以外方法がない筈だ。
しかし、いや、まさか。
もし、敵が地形を把握し、万が一攻勢に転ずるとすれば。
「敵襲! 敵襲!」
軍がどよめく。
今、胸騒ぎの予感を理解した。
相手は只者ではない。相応の将、もしくは自分と同格の。
そう考えた瞬間、英雄王の決断は速かった。
「至急速やかに布陣せよ!」
「し、しかし、この地帯では……」
「やむを得ぬ……我々は敵の術中に嵌ったのだ。これは軍の司令である私の慢心である。至急全兵に伝達せよ!」
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