第5話

お使いに出た時のことだった。

桜並木町の右端にあるカレン達の孤児院から、町中央の市場は遠い。

院に一つしかない自転車でささやかな風を感じながら、進む。

鼻歌でも歌いたくなる陽気な朝は、まるで心に作用する魔法だ。


「はい、じゃあお釣りね!」

最後に魚屋で今晩のイワシを買って、院に戻ろうという時だった。


「泥棒だーーー!!!」


鍛冶屋の主人の叫びの直後、カレンの目の前を黒い影がひゅっと通り過ぎた。

一瞬のことだったが、その影は血を流していた。

「捕まえろーーー!!」

騒ぎ出す衆を振り切って、カレンは自転車で影を追いかけた。


地に落ちている血を辿っていくのは訳なかった。

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