第3話
2年後、2006年夏。
五子、5歳と6カ月超。
これまでで五子は10回以上の入退院をし、手術も3回受けた。
薬は4種類飲んでいる。
一つはクレチン病(先天性原発性甲状腺機能低下症)の薬、他3つはアレルギー性鼻炎の薬。
5歳にして毎食後に薬を飲む生活をしているがしれでも、人一倍元気で活発で明るい女の子に育っている。
五子のことをよく知らない他所の人から見れば、他の健康的な子供と何ら変わりがないように見える。
「いつこちゃん、ボール取って。」
運動の時間で、縁側で見学していた五子の足元に子供用の小さなサッカーボールが転がってきた。
五子には運動制限がかけられていて、激しい運動は禁じられている。
両親が聞いた話では、階段の上り下りまでと言うことになっている。
恐らく、自転車を軽く漕ぐくらいならば問題ないだろうが幼稚園に『これはダメ』『これは大丈夫』などと、細かく話すのはかなり手間である。
それに仮に、解釈に齟齬が生じてしまい、五子の許容範囲を超えた運動をしてしまった場合の事を考えると恐ろしいので、園内での運動は一切禁止と言うことになったのである。
五子は活発な性格であるので、本当は皆と共にサッカーを楽しみたかったがそれは誰も許してくれなかった。
五子は、一人で、あるいは風邪か何かで見学になってしまった園児と共に見学するしかなかった。
「いつこちゃん、今日も見学なんだね。」
「うん、私、皆みたいにサッカーとかしちゃいけないんだって。」
「そうなの?なんで?」
「分からない。」
これはお決まりのくだりである。
いつもは一人で見学をしているところに、誰かが風邪か何かで見学になると暇潰しに五子へ心のない質問をする。
五子だって、皆と共に活動的に遊びたい。
でも、外での運動は禁止なので五子は参加することが出来ない。
元々活発な性格をしているのもあり、五子的にはかなり厳しい。
それを想像もできないのであろう。
五子と共に見学をすると大体の子供が同じことを聞くのだ。
五子だって、何で自分だけ足っちゃいけないのか聞きたい。
何で自分だけ、禁止されているのか意味不明である。
「母ちゃん、なんでいつこだけ、さっかーできないの?」
「五子はね、体が弱いの。皆と同じように遊びたい気持ちは母ちゃんも分かっているつもりだけど、これだけは許してあげることが出来ないんだよね。」
「いつこ、体弱いの?でも、そんなにお風邪ひかないよ?」
「うん、でも五子はここが弱いから。家の中でも沢山動くとちょっと苦しくなるでしょ?」
「うん」
「それはあまり体に良くないから、五子はお休みしないといけないんだよ。分かったかな?」
「うん…」
五子は母ちゃんの悲しそうに話す顔を忘れられなかった。
その次の朝も、そのまた次の日の朝も悲しそうな顔を思い出してしまう。
五子は母ちゃんにその質問をしたことを少し後悔した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます