第2話

生まれながらにして病気になっていた五子だったが、1年後には両親と共に家に帰ることが出来た。

3歳になった五子は他の4人の兄弟に甘やかされて、すくすくと育っている。

傍から見て病気など感じさせない程、元気で活発な女の子だ。

兄弟が多いからか、成長も著しく3歳にして様々な言葉を操ることが出来る。


しかし、それは突然きた。


七五三祝いで茨城県にある父方の祖父母の家へ行った帰りのことである。

最初は皆、七五三ではしゃぎすぎて疲れ切ってしまったのかと思っていた。

五子は8人乗りのファミリーカーのど真ん中の席で、当時中学1年生の和人と、幼稚園年少さんの四郎に挟まれて座っていた。

最初に異常を感じたのは四郎だった。

五子のお祖母ちゃんに似た、ふわふわのほっぺたをいつものようにつんつんしようとした四郎が、五子に触れた時に違和感を感じたのだ。


「和人兄ちゃん…、兄ちゃんっ。」

「おうおう、なんだよ。」

「いっちゃん、熱い。」

「えっ?」


和人は直ぐに五子の頬に触れた。

五子の頬は今まで和人が他人に触れた中で一番熱くなっているように感じた。

慌てて五子の顔を覗くと、五子はうなされているような表情で、目をつぶっていた。

既に夜で車内は真っ暗で顔色までは確認できなかったが、『これはまずい』と察した和人は直ぐに助手席でうとうとしていた母寛子に報告した。


「えっ、ちょっとまって。」

「次信号赤だから、」


信号が赤になり、車が一時停止すると寛子は五子を自分の膝の上に乗せて状態を確認した。

救急救命士の仕事をしている寛子は少しだけ医療知識があったので、我が子の状態がいかに大変か理解できた。


「鐙治郎君、病院。今すぐ」

「了解」


病院に着く頃には、五子は息をすることも難しくなっていた。

直ぐに緊急入院が決まり、次の日にはかかりつけの大学病院に移った。

病院で精密検査を受けると新たな病気が発覚した。


「先天性原発性甲状腺機能低下症?」

「聞いたことありますでしょうか…?」

「いえ、どんな病気なのでしょうか。あの高熱はそれは原因ですか?」

「いえ、あの熱は疲れから来るものでしょう。五子ちゃんのような年齢のお子さんには時々見られます。それも珍しいものではありますが…。先天性原発性甲状腺機能低下症とは、先天的、機能的に甲状腺の機能が低い状態のことをさします。」


寛子の方は今の説明で、理解したようだが鐙治郎の頭の中は意味不明な聞いたことのない言葉だらけで真っ白だった。


「あの、先生。無知で申し訳ないのですが…、まず甲状腺とは何なのでしょうか?耳馴染みがなくて。」

「甲状腺は体に必要なありとあらゆるホルモンを産生する臓器です。甲状腺機能低下症になると、成長ホルモンをはじめとするホルモンの酸性が少なくなったり、遅れたり、あるいは全くない状態になり様々な器官の機能に支障を来します。」

「…。」

「…。」

「治療法は、あります。五子ちゃんの場合、甲状腺機能が完全にない状態ではなく、僅かに機能している状態なので、甲状腺機能を亢進してくれる薬を服用することにより治療することが可能です。五子ちゃんはまだ成長しきっていないのでこの病気はまだ様子を伺っていく必要があります。先程は先天性原発性甲状腺機能低下症とお伝え致しましたが、今後この機能が回復していくこともあります。なので、今は薬物療法で様子を見ていくことを薦めます。」

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