第42話 グレイティントの失格

 僕はオレンジ色の探査機が入り口から出てくるのを確認すると、舵から手を離してスックの元に駆け寄った、彼はもう興奮がMAXで体表は赤茶色になっていた。僕らは後部エリアの成績順位モニターの前でハイファイヴをして喜びあった。

船内は探査機が帰還したアナウンスが流れ自動でハッチが開き、オート回収が開始された事を告げた。

僕らの耳にはこれが遠く聞こえていた。

他エントリー者の成績を今一度確認した。

ブリックベージュが6位ティーローズが5位にランクインしていた。

「ブリックはともかく、ティーローズは大健闘だ。ヲタクの勘がポイントを嗅ぎ分けてるんだ」

「彼女、高速機クラスにエントリーするよ。今年は彼女も本気だ」

「まあ。彼女はいつでも本気だ」と僕らはハモってしまった。

僕らがコンテストシーズンを終えると他のヴィエクル科生徒が入れ替わりでエントリーだ。始業式が楽しみだ。そう思いながら、すっかり忘れていたあの…

「グレイテイントが暫定1位に返りさいているのはまぁ…分かるんだけど」

僕らがカニ座宙域ゲート出口での一件があったからだが。

「彼だけ、得点更新記録の日付が昨日のままだ」

「ナんか、あったね」スックが嬉しそうに笑っている。

僕たちの成績結果はこの数十分後に出る予定だ。

「オ前気づいてるか? 」

「何が? 」

「コの偶然はプロのゲートハンターの上等手段のひとつだぞ」

「お前のヴィエクル科の先輩で卒業後プロになった先輩いただろ? 」

「トープストロー先輩だ」

あの先輩は腕はいいのに単位ギリギリで卒業した名物先輩だ。ゼラと同期だった筈。

「ハまったんだよ。コツを覚えて。お前と一緒で飛ぶセンスがあるんだ。だが飛びとハントは根本的に違うぞ」

どういう事?とこの状況で言われて一瞬混乱したが一瞬だった。

「飛ぶセンスを履き違えると人生が狂うんだ。ハントは魅力だ金になる。けど本来学園が教えているのはヴィエクル乗りの技術だ。金に直結するハントではない。」

「あの先輩インディアナジョーンズファンだったなぁ。十代で無精ひげ生やして」

その内、腰に鞭携帯して授業受けるんじゃね?と学園でウワサになっていたっけと思い出した。

「お前らの地球カブれどうにかしろ」

なんか今の状況を釘さされた僕はふと気づく、ヴィエクル科の先輩でゲートハントにのめり込み過ぎて休学届け出して留年した先輩。他星系からの留学生で何年かに一度ゲートハントで大金を手にして一度に奨学金返した先輩が何人かいる。これのウワサは先輩から聞いた話しだ。

でもってこの運でこの状況に遭遇した?運?

「この手段は現役の学生参加者には禁忌の技として決して口外しない。」

「つまりは本人が遭遇して気づくしかない?」

「まぁそうだな」

「スックは学園で僕と暮らすようになって知ったの?これが反則技だと」

「イヤ。俺は自分のもともとの能力と経験とお前ら人類種の能力と学生の立場から見ての見解だ」

「この高得点は絶対調べが入る。入念にな。お前は合格だ。提出していた計画書。ルート計画書。コンテスト中の撮影記録。全てをチェックして最後はレポート提出。本人に口外秘遭遇のこの一件の誓約書を書かせて終了だ」

「僕が出くわした状況は10代のエントリー者には知られたくないんだ」

「人生が狂いかねない」

「あ!」と僕は気づいてスックに目線を合わせた。

「あぁ!グレイも怪しい。3機建ての船だけでは毎年優秀は出来ない。俺あ帰ったらあいつの3年間のハントルート調べるぜ。

もし嵐区域を追っていたらクロだ」

「誰情報?」

「ゼラは教えないだろう。他生徒の情報だ」

「もし彼自身も遭遇していたら?」

「そんなわけないだろう?」

あきれたなこれだから青春学生野郎はとブツブツつぶやいて順位の発表を待っていた。

僕も成績表に向き直り。彼の最近の語彙習得は独特なセンスを醸し出してきたと思った。

「あっそうだあのイワシのような大群どうなった?」

僕は足早に外を見に行ったあの波の様な旋回をしていた彼らはウソのようにいなくなっていて、代わりに少し大きな鱗がしっかりしているような魚が集まってきていた。

「あの種の魚類は船乗りにはあまり馴染みがないよ」

僕は話しながら父さんの超巨載カーゴ船で暮らしていた時にも見たことないのを思い出した。

「懐かしいな!」とスックは笑った。

僕らの最初の出会いの船だ。グレイティントがスタッフを連れて乗り込んできたあの船。



 「リフレクチンだ」彼が話し出すと僕の脳裏に浮かんだ父さんの船が消えた。

「ファンデルワールス力飛行授業の? 」

「マだまだだな。俺ら宙域海洋生命体の頭足類はリフレクチンを持ち、瞬間的に体表の色も変えることもできれば表体を透けさせることが出来る。」

「あの種の群れる魚も表体にリフレクチンがありシーの種族は可視では確認出来ない。でも簡単に見える時がある」

「この手の嵐の湧昇時だ」僕は納得して答えた。

「彼らは群れをなし回避回遊をする。ゲート入り口は避ける。」スックは説明を続けた。

全ての条件が整えば簡単に発見出来るんだ。

うーん。

「出たぞ!」

「一位だ!」

当然なのだが、やっぱり衝撃的に嬉しい。

スックはあちこち飛び回ってガッツポーズをとっている。

僕も3年間の集大成の結果が出て嬉しい。なんか嬉しさで震えがくる。

はぁついに優勝だ。とソファに腰をかけた。


「オい!グレイが失格になったぞ」


「エエッ」僕は急いで振り返って立ち上がった。

昨夜のニュース速報放送撮影時において、規定違反改良船舶使用により以下のエントリー生徒を失格とする。ヴィエクル科3回生 グレイティントと成績表の下にテロップが流れた。

「ハはーん。バカだねー。インタビュー受けてて、航行中のライヴ配信で発覚かぁ」

「昨日途中からニュース番組見てたから、時間的に3人はインタヴュー受けてたと思ってたけどベージュブリックの前はグレイだったのか」

僕も納得した。

彼のカメラや学園管理のカメラはなんとか誤魔化せても、ニュース社のカメラ映像はごまかせない。しかもカイヤ人がほぼ同時に見るものだ。

「ズルしてるのに。こんな事すぐ分かるだろ、いつもの自分の行動なのに。ヤツの性格が出てるよ。うかつに取材受けるとは」

「でも、良かったよ。いずれは発覚する事だったんだ」

「アア。俺たちもヤツの事で時間をかける事もなくなった」


 新学期前の3年間のハントの総合成績はどうなるんだ?まぁ彼の事だから退学にはならないけど。

僕自身の総合成績の方が気になるし。グレイの事を考えてもしょうがない。

「3回生の総合成績1位を考えてるだろ? 」

「うん。分かるの? 」

「アぁ。顔がニヤけてる」

うん。僕は少し赤くなって答えた。

「希望の選択クラスが受けれる」

「オれも高速機のパイロットかぁ」スックは触手を頭上に伸ばして大きく伸びをした。

高速機の複座では?


彼はまたなんかすごい事言った。




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