第39話 ブリックとティーローズ

 カニ座宙域の派手な歓迎を受け、スックの活躍でやっとまともな航行が出来るようになった。

リタイヤ回避になった。

だがまだ確認が出来ていないのがこの船の全復旧だ。

早速予備の正方形形状3✕3の動力端末を設置台で取り替えた。

四角形の一点と一点を上下に固定し丁度ダイヤマークになるように設置する。

ボソンの高エネルギー障害を受けてない端末。ちょっと緊張する。リタイヤは間逃れたがこれで全復旧しないと優勝はもう無理だ。

頼む!復旧してくれ!

 僕の願いもあったのかいつもより慎重にソッと設置した。カチっと四角の横向きからダイヤの形状に倒立した動力端末は、コインのような回転をした。

次の瞬間、ブンっという音と共に船内の照明全てが点灯し、後ろのリクライニングソファ上のコンテスト成績モニターも点灯した。

「ヤったな!シー」

「よし!予想通りだ」思わずガッツポーズがでた。

成績表はデータ受信中なのか現在の成績はまだ分からない。

ブロックで確認できなかった。細かい推進部の状態を早速チェックした。このモニターでは画像も見れるのでその状態も確認した。推進部にある一部のエリア、深部の磁石の位置のズレがあるがこれは衝撃波の物理的な影響だろう。小型機だけにダメージがあった証拠だ。幸い推進機能は正常に機能しているようでキセノンガスの漏れもないようだ。

動力伝達回路と推進部のエリアの画像が大きなスクリーンで写し出され、異常なしの文字がデカデカと映し出された。

船内の照明が全点灯となったと同様僕の心も明るくなった。

「スックご苦労さん!大活躍だ」僕は彼をねぎらった。

「オまえの方こそよく船直せたな。俺にはムリだ」腕組しながら彼も僕をねぎらった。

「まぁ。数年飛んでれば対処法も身につくよ。原因の洗い出しも過去の記憶から出来てそれが偶然予想と当たったんだ。でも最後の決めては僕らのコンビネーションだよ」

「マあな!久々にソト飛んだ挙げくクラップフェンまでしたから腹ペコだ。アト、肌が痛い。完璧宙焼けちゅうやだ! 」

「帰ったらすぐクリニック予約だな」と彼に言うと、

スックはブリックベージュからもらった美白フェイシャルのクーポン券どこやったかなぁ。とひとりごちて自分端末をフリックし始めた。

本当に通ってるんだなぁ。と思いながら僕は成績が表示されてるコックピット後部エリアに移動した。


「わあ!スック!ブリックだ、ライヴ中継されてる!」

昨日からのエントリーの彼は、飛んでる宙域でバッチリ外カメラから録られた小型機映像が今年のハント成績表右側全面に映し出されている。ハント中の小型機の近くを取材機が並走航行しているのだろう。どうもカイヤナイト星系の取材ニュース番組のようだ。

「コんな扱い去年までなかったろ? 」 スックが驚きながら僕の横に並んでライヴ中継に釘付けになった。

毎年文字だけの10位までの成績と去年までのポイント。

とにかく文字だけの羅列だったこのコンテストのライヴの成績表は今年から時間帯によってはこのようなニュース番組としてオンエアされているのか?そうするとコンテストの公平性が疑われる。

「あくまでうちの星系のニュース番組取材だよ。数十分で終わるよ」

「マあな。コンテスト規則倫理が絡んでくるし」

僕とスックで納得しながら会話をしていると、出発前に取材を受けたのだろう、変な顔しながら、答えるブリックのインタヴューを見て僕らは吹いた。

インタヴューアーがステキな髪色ですね!お手入れいいですね!と褒めると、

『あっ、はぁあ…』とどこを見ているのか分からない目線になり、インタビュー中には画面下のテロップで名前、学年などが流れ。また去年までのコンテスト成績まで流れている。これらに僕らは面くらいながらブリックの映像に見入っていたら、最後は普段ビエクル科は絶対こんな事言わない、

彼の『一生懸命がんばります!』で笑いをこらえきれなくなり大爆笑になった。

驚きはこれに終わらず、次のエントリー者ですという紹介に僕らは相当驚いた。

ティローズさんですというインタビュアーの紹介に今度は彼女の小型機が映し出された。

「わぁ。ティーローズがエントリーしている」

『彼女のお父様は小型レンタル機製造社を経営されていて、今回のコンテストでの参加も自社製品艇とお聞きしました』

というインタヴューアーの質問に

『えー、確かに自社製品で飛びますし、操縦は子供の頃から慣れた設計艇です。そういう意味では私には有利になりますが。コンテストの評価規定を考えますと、運と計画性がこのコンテストの要であるのでエントリー者全員と同条件と考えてます』

ティーローズがに答えてる。と僕らは同時に思ってお互い無言で顔を見合わせた。

画面下は彼女が今飛んでいる宙域、ペガスス座が映っている。丸みを帯びた卵型の彼女の小型機|<フローラ>が映し出されていた。

それを見ながら僕は古典楽器演奏テスト前、廊下で話した会話を思い出していた。

彼女、これも言いたかったんだな。まぁテスト前で愛想できなかったけど。と逡巡していると彼女のインタヴューが進み、最後の今大会の意気込みをお教えくださいの下りになると、

『私の年代での外宇宙飛行は稀の経験であるので今回ステキなプリンクトン星人と出会えたらいいなと思ってます☆』

と答えた彼女にスックは、

「ワぁ。ティーローズだ」と小さくつぶやいた。

僕はコレを聞きながら、異星人オタクの彼女節はともかくある事に気づいた。

彼女、100%高速機授業セブンにエントリー申請してる。彼女は本気だ。瞬時に気づいてしまった。

7人枠にひとり増えたなと腕組をしながら天井を眺めた。

番組は程なくして終わり、

「アぁ笑った。ボソンの事がウソみたいだ」とボソっと呟いて、階下の食料を取りに行った。

飲み物はこちらもここ数年のヒットドリンクレモン味のゼリードリンク。名前は忘れてもこのカエル印のカップの画ですぐ見つけることが出来る。のどごし良く。今のような緊張したり笑ったりで忙しく火照った体に丁度いい。

食事のお供はこの2種。大学イモとベーコンちくわ。大学イモは甘いポテトでこれを油で揚げて砂糖をカラメリゼしている。たまに黒ごまがかけてあり、甘く、糖質たっぷりでエネルギー源になる。外側がカラメリゼしていて中がほくほくしている食感も良い。

 また、ベーコンちくわは魚のたらをすりつぶして練状にして蒸して固めたもの、棒状で中に穴が通っている。

僕の学園のカフェテリアでもあるチュロスのような形状をしていたため、

甘いのかな?と最初思ったが甘くなく。この棒状なものにベーコンが巻き付けて揚げてあり、去年は揚げたてを店の前で立ったまま食べた。味は目の覚めるような美味しさで僕にもおなじみのベーコンの肉質とその脂身甘み、とこれに未体験のちくわの白身は、これらを全て絡めて揚げた油を重くする事なく淡白な味わいでまさに油分を補正する味!

ベーコン、ちくわのベストマッチな味にノックアウトだった。これはデザートではなくホットスナック類。

 「ベーコンちくわは揚げたてが一番おいしいね。冷めても美味しいけど」

「*※*★」

スックはもぐもぐと食べながら何かを言ってたが良く聞き取れななかった。よほどお腹が空いていたようだ。

 僕らは腹ごしらえをしながら、航行移動を試みた。足止めになった時間は休息日に匹敵しているからそこまで響かないがまだあまり余談を許さない。グレイは相変わらず2位だったためだ。 丁度ポイントから離れるが一回最寄りのゲートを目指す。

その間、高電磁波レベルの確認をし。電磁波がより少ない中域ゾーンを選んで通り、やがていつもの安定した航行域に僕らは達した。

「はぁ。やっとだ」心底僕はホッとした。

 「正直これでだめなら今年の上位ランクは怪しくなってたよ」

「今年はハント最後の年だしな」

「うん。悔いなく終わりたい」 

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