第37話 クラップツェンとフォンデル
「デ?おれが?この小型機にクラップフェンをして浮遊自由惑星にフォンデルってこの宙域を出ると? 」
「そっ」僕は力強く彼にうなずいた。
こういう環境での船体不具合はもうこの宙域を脱出するのが一番手っとり早い。
故障の原因はボソンの強力電磁波だ。これは数日続く、動力部と推進部の深部の構造に影響があり、航行困難である。
動力と推進部の連結部分に影響を及ぼす結果となった。動力燃料部分に何らかの影響が出てしまった。これは僕の経験値で分かるのだがおそらく、予備の動力を新しくセットすれば推進可能になる。電磁波の影響を受けた燃料と電磁波の影響を受けてない燃料を交換するという単純な物理的対処だ。
「今この用意のある予備の動力をセットしたら確実に航行できるようになるけど、まだこのボソンの強力電磁波の圏内を何時間も航行して次のゲートにたどり着きジャンプしてまた探索できるか、かなり怪しくなるんだ」
「イやだね」腕組して眉間にシワを寄せたスックがそっぽを向いて答えた。
僕の予想通りの答えだった。
「優勝…できないかも」僕はつぶやいた。
「この嵐の電磁波全て身を晒して、デキるのは木星のような大きなシミだ! 」
これも予想通りの答えだった。
もうこれしかない。天井を見上げてそう思った。そして僕はうつむいてボソッと彼に告げた。
「……グレイが、今年も優勝だ」
「イイだろう!」
即答だった。
スックが承知してくれたおかげでこの船内は急に息を吹き替えした。
おそらく一時間以内にこの宙域近辺を通過するという僕の勘は当たった。
スックが周囲探索をマッピング検索してレーダーに引っかかったのだ。
40分後ボソンと同じ方向に横切る。時速はおよそ200キロ ここから一番短距離の通過予想時刻は42.2分後。
すごい速さでどんどん計算していって、なんだかイケる気がどんどんしてきて僕らは暗い船内で明るく盛り上がってきた。
「良くコレが通過するって分かったな! 」
スックが僕のワクワクに釣られて明るい声になりながらいった。
「昔これと同じような経験をした事あるっていっただろ? その時、2時間内でこの手の惑星が横切ったんだ おそらくセットで見れるものだよ」
「スックは目撃経験あるかい? 」
移動するボソン星の事やその後やってくる浮遊自由惑星は彼に聞かず
「アあ、何度もあるよ。この手のものは引き逢うんだ。だが飛んでる俺にはタダの悪天候で終わる」
「分かるよ。遭遇する前に回避だろ? 」
「この手の惑星は時速数万キロから数百キロのもまである。大型、小型色々だ。形も様々だが後ろにぴったり貼り付いて有害電磁波を少しでも回避してシミ対策だ」
やはり彼の重要事項はシミ対策だ。僕は彼の気が変わらないうちに説明をした
「物理的にはアンカーワイヤーみたいなものを惑星に照射してって考えがちだこの船にはそんな装備ない。でもスックがいる! 」僕は本気で彼を持ち上げた。
「マあな!俺を頼るのも無理はない 俺はウルトラ宙域生命体だ」
「ここを乗り越えたら絶対僕らが優勝だ そのためにはここでスックにクラップフェンしてもらわないと」
クラップフェンとは。
彼が宙域を浮遊する時にデキる技の一つ。体を何倍にも膨張させることが出来、そのまま宇宙船を呑み込む事が出来る。
地球の海洋にいるイカやタコ類と同じで体積の色を一瞬で変化させたり、海洋での食料捕手のために触手を自由に操作したり、スミを吐いたり。似たような機能が彼にもある。
宙域には同種に良く遭遇するので、縄張り争いではないが体の誇張をする。
また野生種の彼らは実際に往来の宇宙船に危害は加えない。
「サングラスかけて行きたいけど、クラップフェンするんだったら意味ないな」
「うん。そうだね。移行時間はどのくらい? 」
「クラップフェンして、小型機飲み込んで、スタンバイして一瞬で張り付く。まあ数分だな」
などといいながら、階下へ移動し始めた彼は、
「帰ったら美白スペシャルメニュー頼まないと…」僕の座る操縦席の後ろを横切りながらつぶやく彼は、
「はぁソト行きたくね」ため息つきながらゴニョゴニョと小さくなって行く愚痴とともに階下へ姿を消した。
ややあって
「スぐ出るぞ」スックからのコールがあった。
「了解」
手動で階下のスックが自らハッチを開け、そのまま宙域へ出た。
モニターでディスプレイにはいつもの大きさで映っていた。
わずか2秒後、目の前のウインドシールドの底辺より白い半透明のスックが地球の日の出のシーンのように大きく上昇した。
ウインドシールド全面にスックの後ろ姿が現れ視界が彼一色になった。
彼はそのまま前進して行き、数百メートル進んだかと思うと振り返りそのままこちらに向って前進してきた。彼の口がだんだんと大きく開かれスックの顔がウインドシールドいっぱいになったと思ったらそのまま視界が真っ白になり、こちらの目がなれたのか半透明の外宇宙の景色が彼の体を通して見えた。
今、小型機は彼に丸呑みにされ僕は船ごとスックの体内に居る。
「こちらのモニターではもう見えないんだ。浮遊の姿が見えたら教えて」
「まだ、ヤツは見えん。でもこちらに向ってきてる。かなり近い」
初めての脳内ダイレクト発言だった。いつもは彼の姿が身近にいるか、目の前にいるかとにかく視野に入っている事が多いから意識しなかった。通信機等も通さず、目の前のウィンドシールドはスックのお腹の中の内側だ。本当に奇妙な会話である。
また、見えた時点では通り過ぎてるよな。どうフォンデルワールスするんだろう?と思うか思わないうちにググっと体内の中の小型機体が揺れ、ソトの景色が移動しているのが見えた。
今彼が猛スピードで進んでいるのが分かった。軽い前後揺れがあってのち、
「シー。後ろにつけたぞ」
言うが早いかもう彼は
彼の言葉に遅れて機体がグン!と横に動いた。猛スピードから停止した状態になって浮遊の推進で進み、30分後のこの浮遊自由惑星の軌道ではボソンの右舷に孤を描くようになる。その時点で離脱。小型機を吐き出してもらってから、元のサイズに戻ったスックに小型機に帰還してもらう。
その後自力で数キロ先のゲートを目指す。
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