第35話 ボソン星

 ボース粒子の値は桁違いだった。

移動するボソン星と体当たりの状況になったと予想された。

出た先で高速移動しているボソンと衝突という形と考えたらいい。


この船体の故障状況での理由が全て合致するのがこれだ。だが他も考えられる。

今年はこの高電磁波レベルの中、ゲートジャンプも数回行った。入り口以前も出口以降も高レベル宙域がいくつかあった。

ただ原因がこのボソンだと厄介だ。まずボソンの通過方角がつかめない。結構近いからだ。

これからこの停止した船体に一番近距離で近づいて通過するのか、それとも今が近距離でこれから遠ざかるのか。

数分、数十分の数値変化を観察する。


 目視で外の変化も観察する。時々船体が外環境影響で揺れている感覚がある。船体の傾きを注視する。

質量の軽い小さい船体が停泊状態なのでボソン星が移動している方角、または近づいてくるボソン星に吸い寄せられる形で傾いていると予想した。マガオで思案していると

「数値は変わらない」スックが航行表示パネルを見ながら言った。

「どっちの方角に抜けてくか分かるか?」と僕が尋ねると

「近すぎるな、後、数十分での方角性はつかめると思う」

「その数十分が惜しい。まさにこっちに近づいていたら?正しい方向に避けなきゃ」

僕は言葉を発すると同時にますますマガオで思案になった。

 探索用のライトビームで分かる!この機体のライトは動力関係なしにライト灯火できる!この機体は今年新型になった。観光用にハイビーム仕様で10キロ単位のロングビーム搭載だ。先月、去年の乗った機体と違う細かな改良点にも目を通して準備した。この改良点が頭をよぎった。

出発時にイスパハンのおやじさんがカウンターで簡単に説明もしていたのがこれだ!

僕はマガオから笑顔になり急にマニュアル操作のスイッチパネルに手を伸ばした。あったこれだ!


 「シーなにやってる」

「ハイビームを何箇所かに向けてボソンの位置を特定する」

銀のつまみを上げてライトを灯火した。グンと一筋の光が機体から放たれる。

ボソン星は可視確認できない。そして光を吸い込むけどブラックホールのように吸い込むのみで終わらない。光が通り抜ける性質がある。そしてボソン星自身の形によって光が曲がって通り抜ける。

ハイビームが曲がって通り抜ける場所を確認してどの方角に移動しているか確認ができる!


 方角を変えながらビームを何度も照射した。機体のフロントカメラモニターをズームにして数キロ先の光の折れ具合を見る。

「別にハイビームを灯火したまま、方角を変えて確認してもいいんだぞ」

「こっちの方が確認し易いんだ」

一回一回、この方角は光がまっすぐに伸びた。と可視確認が容易い。右舷から左舷へ180度、カチカチと点灯と消灯を繰り返しながら扇状に孤を描くように。

もう左舷側も10度分で確認が終わるぐらいで直線ハイビームが曲がったように見えた。

「左舷十時9キロ地点」

「よし」ついに見つけた。どっちの方角に移動しているか確認のためその付近を重点的に何度も角度を変えて点灯消灯を繰り返す。対象物を捉えたハイビームがどんどんボソンの中心に吸い込まれ、変な角度で折れ曲がり突き抜けて行く様子をモニターを見ながら確認して行く。

「どっちだ?」

左のダイヤルでビームの角度調整をしながら右手でハイビーム照射を繰り返す。どんどんハイビームがその全容を捉えるように形を縁取る。急に背筋に寒くなるような、全身に鳥肌がたつような不思議な感覚が走った。

「この高速移動しているボソン星、まるで生きているみたいだ」

こちらに向かって今にも襲いかかってくるのではないかと思った。

ただの高速で移動する浮遊惑星なのに、この不気味な異様さはなんだ?

何度も照射を繰り返してこの生きているかのような惑星が左舷の方向に進んでいるのが分かってきた。

「確実に左舷9時の方向だ」

実際にはすごいスピードだが、その移動がこの位置からはゆっくり感じる。左へ左へとその大きな体躯を進める生き物のように。

「ウん、左だな!」

僕のマニュアルでの判断方法の結果と彼の宙域生命体としての判断が同タイムである。

彼の能力は万能ではないけど、僕らはいいコンビだ。


それから二十分ほどしてこの小型機のウィンドシールドから目視できないエリアに移動して行った。

船内の緊張感が一気に溶けた。けどあのボソン星の不気味さが僕の中に戻った。

「電磁波その他、以前高いレベルだけど少しづつ減少してきている」

「ナんでボソン星とすぐ分かったんだ」

「子供の頃、父さんの船に乗ってた時、乗組員と一緒に船低のチェックをやってたんだ。その時ポッド式の検査用機に2人で乗ってて、遭難しかかった時あった」

「遭難?」

僕はちょうどポッドから出て船低にロープづたいで移動している時に体が熱くなってね。急に船体から離れて流されそうになったんだよ。ロープがあるから急いでポッドに引き入れてくれたから良かったけど

「今、考えればあれはボソンだったなぁと学校に入って気づいたんだよ」

「ソんな授業があったのか? 」

「ボソン星の特徴とか、航行時の出会う確率とかサラッとは授業には出てくるよ。でもボソンに出会う確率は本当にまれで、あの時の乗り組員の人も最後までボソンとは気づいていなかった。僕もね」

あの頃の自分の記憶を呼び起こしながら、スックに話していると、ふとこんな疑問が湧いた。

「スックもボソンに遭遇したことがある?」

「宙域をずーと遊泳してりゃ、あの手の類はよくある。けど、人類種みたいに分析して区別しちゃいないのが俺らだよ。危険か危険じゃないか。どう回避するか」

「もともと本能的に避けて通る。最初から近づかない」

「あの手の類とは?超高速で移動する目視できないものとか? 」種族を超えた未知の宙域情報交換はワクワクするがちょっとだけ恐れも頭の端によぎる不思議な感覚になった。

「いろいろあるよ。移動しながら大きくなるものや。停止したまま巨大になって行くものや」

ボソン星やブラックホールのことだろうと僕は推測した。

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