第34話 航行不能


 ビエクル科の高速機の授業はやはり人気の授業だ。実機に乗れるパイロットに選ばれると自分専用の高速機が用意される。ここから2年、みっちり高速機の飛行訓練がある。上位3人、5人、7人、ピラミッド型になっているパイロット成績ランクで授業評価となり、このヒエラルキー成績がビエクル科生徒の裏の力関係を左右する。もっとも学生なのであくまで授業とスキル取得。

 ここに重点が置かれるが、これまでのその他の授業とは違った重圧やプレッシャーがある。加え選出7人に対し補欠2名が選ばれるので、授業に気を抜くとこの2人にパイロットの席をリプレイスされることもある。みんな乗りたいのだ。その科の授業が4年生の新学期からスタートする。3年間のゲートハントの成績は他生徒との差を出せるボーナスポイントとして評価対象だ。どちらにしてもビエクル科の多くの学生が参加するのがこのゲートハントコンテストである。


 次のゲートが肉眼でも見えてきた頃、恒星風がジャンプ先に吹いている宙域リポートを受信した。

「ナんか変な天気らしいぞ。」

「出口で封鎖するくらい? 」

「ソの心配はない」

「出口封鎖がないのなら跳んで様子をみる。宙域にどのくらいの恒星風と銀河線があるか測定して宙域滞在の可否を決めよう。」

 「ヨし、ジャンプだ」僕ら以外の船舶はなくゲートジャンプ申請もゲートジャンプ許可も数分で済んだ。


 ドン!と出口に出た途端衝撃波があった。

船内の照明が一瞬消え、また点灯したと思ったらすぐにまた照明が落ちた。

スーっと小型機の横すべりが始まった。船から見た外宇宙の景色も同じく横にスライドしていく、航行不能か動力系推進トラブルか一気に僕の顔から血の気が引いた。このパターンはまずい。と一瞬で悟った。色んな原因想定と対処法が一気に僕の脳内

をめぐり、手がすぐ船内確認と、外の様子をモニタースクリーンを操作するパネルに伸びた。

 障害物にぶつかったわけでもなく、外の様子を見ると銀河線の電磁波の数値が桁違いに高いこれは初めて見る数字でさらに焦った、船外塗装が一発で溶けるレベルだ。シールドを再度作動したいが動力が作動しない。船自体が流されているのもヘンだがゲートの出口で船体が立ち往生しているのはマズイ。2次事故を回避したいので出口付近から離脱したかった。

 座標確認は船内のサブ動力がすぐ使えるので確認できた。やはり出口方向から右舷数百メートルの位置だ。座標を確認しながらサブ動力を推進系統に繋ぐ試みをした、対処法としては想定内で何度も経験があるからスムーズに行える。ただ、安全な場所までの推進力をサブ動力からいかに少なく抑えて次の対応に回すかである。冷静な操作と的確な状況判断がいる。

僕は緊張しながら緊急時マニュアル航行のハンドルを操縦席下から搬出させた。

操縦桿を握ったところでスックが座標確認の地図から航行表示想定のパネルに切り替えてきた。

 「オれ、これくらいマニュアルでできるようになった」

白い触覚を空にあげた白い相棒の顔が照明の落ちた船内でパネルのみからの光源反射で浮かびその顔がニヒルに笑っている。

俺の相棒はかなり成長している。と思いながらうなずいてそのまま右舷方向に舵を取った。

 この出口に数千メートル級の船舶がゲートアウトしてくる可能性はかなり低いがすぐにここから数キロの距離まで移動するのが望ましい。

宇宙安全航行法で、ゲート出口付近の事故はすぐに移動できる船舶は数千メートルから数キロのまでの移動しなければならない。

およそ3キロ弱の距離をマニュアルで移動する。

「スック、顔コワイよ」と緊張感をとこうと話かけてみた。

「オまえは顔がマガオだ」

「うん。でも対処できる」とこの3キロをゆっくりとしたスピードで推進した。

3キロ地点付近になっても当然この状況ではマガオから抜け出れなかった。移動しながら主動力からの供給の復帰を試みた。

分かってはいたけど移動の数分では主動力は復帰しない。船内の照明が戻らないから少しナーバスになってくる。照明は動力節約で復帰させない仕様になっているからだ。無論マニュアルで変更可能だけど、節約のためにガマンだ、まずは小型機の被害状況の確認から。


 数分して、ゲート出口付近から3キロ地点に移動してきた。この間も後方に見える出口の映像からゲートアウトしてくる船舶はなかった。もう反対側の入り口だったゲートは封鎖されてる状況だろう。

小型機も停止を試みた。ゆっくりと停止できた。アンカーマークがモニターに写った。僕は少しほっとした。被害のレベルによったら小型機停止もできなかったりするからだ。そうなると即、救助要請。コンテストリタイアになる。

すぐ小型機を停泊モードにし、小型機の被害状況と付近の状況確認だ。

停泊と同時に僕は操縦席から飛び出て動力カプセル設置台の下の電子パネルにを開いた。「断裂」の文字が点滅している。簡易的に故障箇所判断出来る手のひらサイズギアをすぐ装着。これはビエクル科実技授業で最初に配られるギアでこの3年凄く重宝している。船舶内の電子構造不良や動力循環不良等、すばやく検出判断できる。通称ブラックブロック。またこの程度の小型機なら船全体をこのギアでマッピング検出もできるスグレモノだ。これでスックのところの航行表示パネルにも転送できるようにした。

小さいホログラムが暗い船内を明るく照らす。今はこの少しの明りでも僕の緊張感を和らげてくれる。

動力系統の箇所から推進エンジン部までの断裂が確認できた、おかしいなと思うこの箇所はいわば心臓部であるから機体の深部にある。

基本、航行中に外部の影響を受けにくい場所であるし、簡単にダメージは受けない箇所だ。機体外傷の確認はまだだが、物理的にぶつかっただけでこのような故障原因はちょっと考えにくい。

だとするとこの大量の電磁波レベルである、この宙域の嵐模様の原因は純粋に宇宙台風並みなのか他に別の原因があるのかを調査しなければならない。


「ナんか分かったか? 」しゃがみこんで電子パネル前でホログラムの表示を眺めながら、これからの対策を考えていた僕はふと顔を上げるとスックが空から僕を見下ろしていた。

「うん。故障個所はマッピングの通りだ。これはマズイ」と2、3の想定の原因が頭をかすめてギアをパネルから外しながら思案した。

「でお前の見立ては? 」とスックが仄暗い船内で自ら体を発光させながら聞いてきた。

「…発光している」初めて暗い場所で発光するスックを見たのでつい見たままの感想が口からこぼれた。

「アあ?何この状況で言ってる?俺イカだぞ。発光するし、体表だって変色する」

僕は言葉を失った。

「(…宙域海洋生命体が自らイカと名乗った) 」説明が面倒くさいのか地球海洋への憧れか?

「ナに口あけたままなんだ? 」と白い発光するイカに問い詰められるような格好になった僕は数秒頭が今の状況を忘れてしまった。自分の顔が引きつるのを自覚しながら、(深海イカかなんか?)という言葉が頭によぎったが次の瞬間。

「ポーズ粒子の値は? 」とスック質問した。

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