第33話 スレイベル

 ぶどうの房にしっぽが生えたような宙域の海洋生命体が良く飛んでいるのを見かけたらそれは太陽風注意報が発令中である。

彼らはとてもよく働く。故障した機体や動力切れなどの航行不能となった機体をそのしっぽで牽引し、最寄りのステーションまで送ってくれるのだ。体長はだいたい約1メートルほどでその長さのほとんどはしっぽ部分だ。宙域を泳ぐ時はぶどうの実のような部分が紫、オレンジ、赤、白色に順に発光して飛んでいる。そのぶどうの実のような部分はベル状のような形をしており、それぞれのベルがバラバラに動くことによって左右へや前後斜め前、斜め後ろと自在に動きをコントロールして自分の何百倍の重さのものをしっぽを機体のフック部分に絡めて牽引できるというすごい能力を持つ。

 太陽系の人類種はこの宙域生命体をスレイベルと呼び、おそらく宇宙で一番有名で真空の宙域を泳いでいるのを目にする。彼らは大人しい性格で地球出身の人々はその生体や性格をイルカに例える。野生のイルカのように群れをなして泳いでいるのは、人類種に飼われてない個体達で、単体で泳いでいるのはほぼこの牽引の仕事をするために人に飼われて仕事をしている個体だ。スレイベル専用のファーム惑星も存在し、そこで訓練され各要請機関のステーション等に卸している。そこでの牽引の依頼や その他、事故、遭難で緊急要請がある場合の非常時対応もする。

 「スレイベルだ。ほら、あそこもここも。みんな」僕がスックに告げると、

「電磁波がキツイんだ。野生種と人口種が入り混じってる。人口種のタグがついている個体は一様に同じ方向に泳でいる。」

「救助要請か機体故障の牽引依頼で向かってるんだ。でもこんなに? 」

「珍しいことではないけど、野生種の方は本能でこの宙域にいるんだよ、彼らは他の別種の海洋生命体の救出みたいな事をする生態がある。俺ガキの頃、助けられた事あるぜ」

「ガキ!スックのガキの頃?すごい言葉覚えたね! 」

僕は彼の発言に驚いて叫んだ。

「ネクトフォア種だ!」

スックも僕のツッコミを遮るように大声になった。

「イわゆる自分の体の袋状部分を使ってあらゆる方向にゆっくり進行して動いたり、袋状の動きをすべて同期させてすごいスピードをだして泳ぐことも出来るコントロール力を持ってる種さ。やつらは袋をいくつも持ってるが俺は1つだ」

 「ネクトフォア種は知ってるよ。君たちのことさ。ガキの頃から袋の力を持ってるんだろ?」僕はニヤニヤが止まらない顔で言った。

 「地球の海に生息するイカやタコやクラゲも同じ能力があるよね。でも君たちの種族とは違うけど、おそらく進化の過程においては凄く類似点がある。宙域に飛び出したネクトフォア種は少なくとも太陽系出身じゃない。流れ流れて天の川銀河団まで飛んで来てさらに種を増やしたんだよ。まあ宇宙にあるすべての生命体は同じ元素を持つんだ。みんな星の生命体だ」僕はスックに話しているうちにニヤニヤは治まったけど、笑顔のままでこう続けた。

「僕のとってる課目授業の内容良く覚えてるね」

「めぼしいのはな。大体覚えた」

 「恒星風が伴う電磁波が強いときは宙域で泳ぐ場合の不利益というか危険は? 」

「小さい個体の時に浮遊してると、影響を受けやすい、防衛本能でだいたい遊泳中の大きい個体の影で沿い泳ぎをしたり。浮遊している惑星のかけら等の影に避難する。スレイベルはこれらの影響を受けた遭難しかかった他の個体を安全な場所まで運んだりする習性がある」

「ソうか荒れてきているんだな」

「木星の人達はこの恒星風で機体故障を騒いでいたけど、ウチの機体は他の星系の機体より電磁波に強いし、小型機体なのでシールドを張って2重航行しても動力が不安定になりにくい。対策は取れてるよ」

「ダがこの宙域はそろそろ脱出したほうがいい」

「どのくらいこの恒星風が続くとか危険度とかキミらは分かったりするの? 」

「方向や規模はすぐ感知できるけど、どのくらいの規模がいつまでというのは分からないよ」

「じゃ、この一帯の宙域は?」と彼の目線をマップに促せようと声をかけると、即答された。

「機体に乗船しているのに分かるわけないだろ!この電磁波検出マップ画像の画の通りだよッ。人類種の文明バンザイだね。」

「全く感知出来ない?」

「サっきも言ったろ?ぼんやりだよ。」

「じゃ、…」と船外に目線を移した僕に

 「コんな嵐の中飛びたかないねッ大シミができるよ!」これまた彼は即答だった。

スックの新たな能力が僕らの間で露呈してこの2週間は似たような会話が続くと予想した。


 次のポイント目的地までの距離は中距離を飛び、もう一度超長距離を飛ぶ予定だ。懸念材料はこの恒星風。もはや宇宙台風の中を航路を選んで航海して進んだ。機体の受ける電磁波のレベルは見たこともない数値だった。シェードを出して進んでいるので、このクラスの小型機でもゆっくりとしたスピードになった。

 前方にゲートが見えてきた誘導ランプの入り口前の列に故障機体があった。スレイベルが今から牽引し丁度列を離れようとしているところで、列がスムーズに進みだすのは後、数分といった感じだった。このゲートを抜けたら恒星風からは逃れられるのでシェードをジャンプ直前で格納する。予想通り列は数分で動き出し、僕たちのジャンプの番になった。今回もスムーズにジャンプ出来た。太陽系外惑星のさらにカニ座方向数百光年先に出た。


 「うん、恒星風の心配はない。通常速度に戻そう」あんなにいたスレイベルの姿も全く見えなくなった。

「コこから次のゲートまで三十分だ」

「機体のダメージ状況と残りの動力の確認。周囲他、航行状況確認。進行先の現在の天気図確認」

僕らはこの間のやるべき作業を確認し、それぞれ作業を分担した。

 「機体ダメージ航行可能範囲内、船外カメラ目視確認よし。船内カメラ目視確認よし」十分程かけて機体ダメージ確認をし報告をした。小型機なので目視確認もあっという間だった。後、船底の格納エリアにある、無人探査機を階下に降りて確認をする。

 「周囲の未登録と思われる機体、航行ナシ。海賊情報確認よし。それ関連の過去報告例もなし」モニターの前で何枚の画面をスライドしてそれぞれの情報を次々読み上げて言った。

 「僕、下の探査機のダメージ状況確認してくるよ。手袋どこだったかな?シールド作業服は…」下への階段のすぐ横のクロゼットにあるのを思い出しながら席を立った。階下にほのかにデリバリーしてもらった食料品の残り香がした。そういえば小腹空いたなと思い出しながらクロゼットから防護作業服と手袋を取り出して身につけ、ゴーグルも身につけ、探査機に近寄った。

ゴーグルは目の防護も兼ねているが、目視のダメージ箇所の点検を兼ねている。外部のパネルを開け、電気系統の[正常]の文字を確認した。ビワを模した鮮やかなオレンジ色が目に眩しい。泳遊中の宙域生命体ぶつかったのか外装にいくつかひっかき傷のようなモノがあった。長く数本…。その先をたどって目線を移動するように探査機の周りを数歩移動した。恒星風のダメージか外装溶けのような箇所もあった。ひっかき傷のような数本の傷の後は船底に伸びていた。手袋をした手で機体を触りながら僕は座り体重移動をして船底を覗きこんだ。

「(なんだこれ)」

 白い付着物のようなものが見えた。これは無人探査機なのでポイント自体に突入する機体だからむやみに触って人体に影響あるものに触れる結果にならないことに考慮しなければならない。

ゴーグルでそれらを簡易的に判断して、格納庫に危険物混入を避けることができればよしとした。

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