第29話 2機建てと波動散乱

 グラジオス補給所までの短い時間の間に僕らは色んな話をしたけどスックがレア種で喋るのは内密になどという大げさな事は言わないでおいた。彼の能力など彼女からは全く分からないのだ。

僕らはほぼ彼女が住む地球での生活について質問がいっぱいあった。

台風の日は通学や通勤はどうしているのか?

四つ季節があって着ている服装を変えること

突然の雨ってどんな感じ?

化石燃料の乗り物は日常で使用する?

成層圏の飛行機に一人で操縦する事は可能?

海で泳ぐってどんな感じ?

山登りの山頂から見る空の景色は?

山の空気は違うって本当?

これらをトーンを落として興味深く聞いた。


 後、スックの念願通り、僕らは記念写真を撮った。「地球人そんなに珍しいの?」と彼女は不思議がって笑ったが最後には納得して写真撮影に応じた。太陽系外のお客さんでお店の制服で働いている時にたまに記念写真を頼まれるからだ、ただ彼女はこの時お店で制服姿ではなかったから笑っていた。


 グラジオス補給所の商品搬入入り口前に到着した。彼女もスタッフIDを持っていたのですんなり入り口の受付スタッフに笑顔で通された。ただ入り口脇に壊れたバイクを一時置かせてくれと頼んだ時意外は終始和やかでモンテール月支店にもトラブルなく連絡でた。

 「じゃあ、お世話さまでした。これ、お店の割引券。帰りに寄ってくれたら、これ使わなくてもスイーツサービスするよ。色々ありがとう! 」

「オう!もう遭難すんなよ! 」

「それ、言わないでよ」

「じゃ、僕たちこれで」

「ええ、ありがとうございました。コンテストがんばって! 」と彼女は手を振った。


 またカニ座宙域に向けて再出発した僕らは再びスックと去年から練っていた新しい発見方法をさらに詳しく説明しながら移動した。いわゆるマイクロ波と近赤外線とエックス線を応用した2機での波動散乱での方法だ。去年のポイントに到着までの間、簡易的なシュミレーションマップを作ってみた。ここのエリアに到着したらこの座標値から無人探査機を出そう。この無人探査機はいつでもすぐ出せて使えるようにもうメンテナンス済みになっていてボタンを押すのみ。とかMAPを指しながらスックと作戦を練った。



 ゲートポイントをどう発見するか簡単に説明するとゲートホールの穴の一番小さい部分底の底の部分、いわゆる点に値するほどの体積が一番小さい部分の熱量反応による方法がある。この方法は何世紀も前からある古典的な方法であるけど、惑星の化石燃料などと違って、ある一部分を試し堀りするという確率的な直接方法と違い、空間熱反応を電波や他の方法各種で調べて位置特定する。

 僕は海を知らない世代の人類種で地球の文献や映像のみだけど、海の魚の漁にも似ている。授業でもそのイメージで教えられる。ゲートホール自体は移動はしないんだけど、海の中を移動する魚の漁と同じくある範囲の位置特定からも難しく、闇雲に探すだけでは時間と根気のいる作業になる。僕らはだいたいの発見のポイント場所を探す統計を導きだし、その範囲を特定して実際の計画を練るのが通常。先輩や他の参加者からのアドバイスや情報をもらい、自分でも経験して、次の年もまた計画し、実行する。

 経験を積むと見つける感覚もまた冴えてくる。変な話、僕はビエクル科だから宙域での方向感覚は養われているがこのハントを毎年経験してると、ただただ広い同じ景色に見える衛星から衛星までの距離、途中大小かつての惑星や衛星のかけらも自分には目印のように見え、記憶し、方向が分かる感覚がある。もちろん、船体のナビゲーションの方向もあり、普段の航行中は意識しないけどやはり行きたい方向やイメージする方向に引っ張られるような感じが分かる、あの感覚。

 僕らの科の生徒同士でもこの話題はあまり出ず、僕だけに限っての感覚か、また脳波を補助にして運転する船体のためか分かりかねている。上級生のメイグリーンも僕が覚えている限りこの話題はしていなかった。同じ宙域やその中の特定座標やそれに似た座標を飛ぶと実家の裏庭の森の中を迷うことなく行きたい方向に進め、散策し、場所を覚え、事故なく帰って来れるあの感覚がこの広い宙域でもある。

 まだ今年3年目の授業経験しかないからか、僕の年齢によるものなのか。沢山色んな種類の機体や船体に乗ればそんな感覚を意識していられなくなるので上級生の話す話題にこの感覚はやはりないのかなと予想した。またこの1年くらい考えているこの感覚が僕の頭を一瞬逡巡した。そう考えているうち、このコンテストが終われば、すぐ新学年に上がれて念願の上位成績者が選ばれる、高速機授業『別名7セブン』の授業を選択出来る。あの機体に乗れる。それを思い出して少し興奮したが、今このハントに集中しなければ。

今年は優勝を狙う。



 未申請の去年見つけたポイント付近に到着した。座標を確認する。停泊モードにし、改めてポイントを中心としておおよそどのくらいの距離からかを簡単に見積もり階下の探査機とこの機体の2機で探査する。電波、近赤外線、エックス線を用いる。この座標からゲートポイントまでの座標を確認し距離を入力、誤差修正分を無人探査機にも転送し、いよいよ階下のハッチを開け無人探査機を飛ばす。静かにハッチが開く振動がして、新型の小型機はさらにハッチ開閉が微振でちょっと驚いた。新機体の進化の体感を頭の端っこに過ぎった。この作業が一区切りついたらイスパハンへのメッセージノートにメモしておこう。

さて、集中。

 「ハッチから出たぞ」とスックが僕に告げた。

探査機はこの数年使っているもので、外観が地球産のビワという果物に似た形状と色でその鮮やなオレンジ色の頭部分がウィンドシールドから見えた。そのまままっすぐ前進して行く。まず、探査機がウェーブ探査を始め、本機も船底のウェーブ探査を開始。物理的な距離と範囲が前もって分かっているのでこのデータは重要になる。解析する事で今までのハントの方法のムダな部分など見えるのは簡単に予想できる。まず2機建てでデータ収集。そして1機で。時間にしておよそ二十分程で終了。解析にかかる。


 波動散乱でポイントまでの計測と熱反応、色々な欲しいデータがあった。僕らは食い入るようにモニターを10分程凝視した。

そして改めて思ったやはり2基建ては効率がいい。時間にして約半分は短縮できる。

「…グレイが2基建てしてるのが良く分かるな」とスックがつぶやいた。

「3基だよ」と彼に苦笑いしながら顔を向けた。





 

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