第28話 ネリ

  僕らの船のデッキに女の子が居る。名前はネリという。

「ナんであんな所飛んでんだ」とスックが聞きたい事を先に問いかけた。

「バイトの配達の途中に遭難しちやって流れ流れて〜あの場所に」彼女は恥ずかしそうに笑った。

「え?君のような年の女の子に木星まで配達させるの? 」聞けば彼女は地球人で僕らが立ち寄った屋台サテライトからすぐそばにあるスイーツ店でアルバイトをしているそうだ。

ネリは僕らが見てもすぐに地球人と分かる雰囲気を持ち、僕の学園にはあまりいない、胸や腰が目立つちょっとぽっちゃりとした容姿だった。

服装はひと目で分かる昔のニホン映画地球の学校の制服でブレザーにミニスカートに紺ソックスだった。

髪型は胸までの長さで変わった編み方をしているヘアスタイルだった。

やたらと長いまつげも印象的で肌質が太陽の光を毎日浴びてるのが分かる生命力のある感じが好印象だ。ここまで思って僕は何か変な気分というかちょっとギルティな気分になるのが嫌なので彼女の容姿の印象をもうこれ以上考えないようにした。


 「今日、配達の男の店員さん休みだったんで私が代わりに配達に。でも女の子だからって云うのはなんで? 」彼女がこちらを見て答えている間、僕はちょっと目線を外した。

「…いや。そうか。別に意味はないんだ。」僕は彼女の疑問にここは太陽系なんだとすぐ気づいた。

僕らカイヤナイト人みたいに未成年が他星系間を往来航行している訳ではないんだとも思い当たった。と同時にティーローズが話してたカフェテリアの話題で未成年の女の子の防犯アームシステムは着用着から携帯品はたまた防犯カメラ機能までひとりでも用心棒連れのような充実ぶりなのを聞いたことがある。僕は話題を変えた。

「で太陽風が厳しくてバイクが操作不能に? 」と飲み物を渡しながら聞いた。

「まあそんなところです」

「救助したのが僕らで良かったよ」

「それは選びますよ。この辺は色んな船舶の往来が多いとこだし、色んな星の人がいるから、安全そうな人を吟味して救助要請したんです」と彼女は得意顔になった。

 「その船体はカイヤナイト星系のものだとひと目で分かるし、今、例のコンテスト中でしょ。もしかしたら同じ年頃の人だと思って声かけたら大当たりでした」

「ぼくらのコンテストってそんなに有名? 」

「んー毎年同じ時期にこんな感じの船体が太陽系を飛んでるとそりゃね」

「そうだ。木星の警護官に連絡する? 」

 「いえ、お手間ですが、あなた達のあの花の補給所まで送って下さい」

「ああ、それは簡単なことだけど、そこからどうするんだい? 」

「あそこのコンビニ売店にウチのスイーツ卸してる配達トラック船、確か午後便がもうじきやってくるのでお店に連絡して拾ってもらいます。バイクも載せてもらえるし」

君がそれでいいならならお安いご用だよ。


 僕らはもときた方角に舵を切りあのグラジオスに向かった。デッキの後ろのソファに座った彼女を何度もチラ見してはこちらを見るスックは何か言いたげな様子だった。がやがてこう話した。

「『一緒に写真取りたい』」

彼女に聞かれないように直接脳に言ってきた。僕は返事をせず彼女に声をかけた。


 「スイーツ配達してたの? 」

「モンテールのカスタードたい焼きを」

「モンテールでアルバイトしてるの? 」

「ええ、モンテール知ってるんですか? 」

「うん、古いニホンのスィーツブランドなのは分かるよ」

僕は学園の記録媒体フィルムを思い出した。

「見たとこ地球の人だけど」

「うん、地球の家から、屋台サテライト通りのモンテール月支店に週3、放課後働いてるの」


 「地球から? 」

「エ? 」と僕とスックは同時に彼女に振り向いた。

「ええ、通える距離よ。月エレベーターを利用したらもっと早いけど、最寄りのサテライトから交通手段は定期バスになってバイト先まで逆に遠回りだから、私はあのバイクで通ってる、小型だけど強力で20分で着くよ」


 「あのバイク、君のなの? 」

「エ? 」とスックと再び彼女に振り返った。

「バイト先のバイクじゃないんだ? 」

「そう、さっきも言ったけど配達の男の人今日お休みして、無人配達ポッドも出払ってて、今、屋台サテライト配達区域が広がって注文殺到してるでしょ。月支店も見習うべきという本店からの命令でね。ウチも最近配達エリア拡大になったの」

「でも、ジャンプは?どうやって月支店エリアからここまであのバイクでジャンプしてきたの? 」

「えっ?」僕は驚きのあまりに彼女を凝視しながら聞いた。

「そう、あのバイク最新型でジャンプ出来るんだ、あのバイクでゲートジャンプまだやった事なくてね。配達先の木星の保育施設はゲート付近で迷わないし、安全だし。配達を引き受けたの」

「どうりでバイクにお店の名前がないなと思ったんだ」

彼女は飲み物のカップを机に置きながら話を続けた。

「で人手がないので、私のバイト時間が終わってから私服に着替えて、帰りに自分のバイクで届けるということになったの。」

「それで配達が終わったら、また木星から地球へゲートジャンプしてそのまま家へ帰る計画だったんだ? 」


「そう、念願ジャンプがあのバイクで試せて感動でしたんだ。ジャンプ中は遭難した時と同じでポッドの型枠が出てきてその後、エアと同時に液状で瞬間にバイク全体を覆う球体になる仕組みよ。バイクを買う時、お店の人と一緒に説明動画も見たけど、あの通りにバイクに機能したから」彼女は両手のひらを胸の高さで合わせて話した。


 「うん、だいたいの体がむき出しの乗り物はポッドが出る仕組みを採用しているよ。地球産も同じ規格みたいだね」

「カイヤナイト星系でも?

「そうだよ」と僕は笑って答えた。

「そっかー」

「それはそうとあなたたちに気づいてもらえてよかったよー。浮遊モードになった時は内心ヒヤヒヤしたの。バイク操作不能になった場所はゲート付近だから、誰かしらに早目に救助要請が出来るのは分かってたけどなにせここ木星だし、人選んで時間かけすぎてたら帰る時間がどんどん遅れて家帰るのが遅くなった上にバイク壊してかえったらママにぶっ飛ばされるところだった」


 「それはよかったよ」

「ナあ、あんた」

「わあ、喋った! 」

「ああ、彼は宙域生命体だけど、喋れるんだ」と僕は彼を見ながら彼女に振り返った。彼女の前で声を出すなんて意外なので僕も内心驚いた。

 「カイヤナイト星系の人って時々変わったバディ連れてる人見るけど色んな種類のバディがいるのね」とこのおなじみの太陽系の人の感想を聞いた。

「そのお店の配達船のクルーにどうやって連絡取るんだ? 」とスックは彼女に聞いた。

「グラジオスの補給所ステーションにコンビニがあってウチのスイーツも搬入しているから、まずコンビニに事情を説明して月支店に連絡を入れて、お店の人から午後便のクルーに私のピックアップを頼んでもらうつもりでいるの」

 「わぁ、宙域生命体にもこんなカワイイサイズのタイプがいるのね。私、見るの初めて」

「ここから前もってお店の人に連絡取ってみたら」

(「俺は、外洋ソトを飛ぶ時はもっとデカイんだぞ」「え?そうなの? 」となにやら親しげに話しだした。)

「え?今なんて 」と彼と談笑を初めた彼女が答えた。

 「ここから連絡取ってみたら? 」

「ああ、お店に?いいわよ。今コンテスト中でしょ。ルール違反になったら迷惑だもの」

「僕らのルール規定を知ってるの? 」

スックも驚いた様子で彼女を見入った。

「ええ、もちろん詳しいルールは知らないけど、カイヤナイト星系のコンテストは有名だし、ウチのお店にもコンテストの学生さん時々この時期に買いにくるもの。みんなおおっぴらにはスイーツ買いに来ないし、雰囲気でね。バディ連れの人もお店に来るわよ」

 「サっきから月支店っていってるけど、地球の衛星付近にあんたの店ないだろ? 」

「ああ?それ? 」彼女はスックに見直って笑った。

「屋台サテライト付近のお店ははだいたい月支店って名乗るのよ。分かりやすいし、屋台サテライト自体が名物住所みたいなものだから。ウチも地球外のお店はあの1店舗のみだから、月支店」

 「ハッブル宇宙望遠鏡保存区の近くだもんな」

「それとなんでバディを連れてる人とそうでない人がいるの? 」

「ああ、僕ら学生に限って言うとあまり外洋宙域に出ないのでバディ連れてる連れてないは意識した事ないんだ。僕ら寮暮らしで色んな学生がいてね。彼みたいなバディ的存在を連れてるのも数パーセント。バディではないお供連れもいたり、バトラーみたいな人もいる。そんな人がバディに見えたりすることもあるみたいだよ」

 「それって大金持ちの学生ってこと? 」

「うーん…まあそうだね」

外洋宙域ソトの人からみると俺はどう見える? 」スックがネリに聞いた。

「ファームから逃げてきた喋るイカ」

「………」


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