第22話 宙域で流暢になる白い彼

 木星行きのゲート付近に後、数十分の処で、宅配のアラートが鳴った。本当に約30分程であった。単純にゲートを文字通りくぐってしまったら無人宅配ポッドも跳ぶのかなと思った僕は思わずこの事を美白の相棒に言いたくなったが、すぐにやめた。

彼も忙しく船内を飛び回り担当の業務をこなしているからだ。

ポッドがこの機体に近づいてくる映像をカメラで見たかったのでメインのモニター画面に切り替えてみた、船底のカメラは見慣れてるし船の往来や地球産特有の宇宙ゴミも沢山見てきた。でも出前の無人宅配ポッドの受け入れは初めてでサブやサブサブモニター画面でなく、少しでも大きい画面で見たかった。


 「ヲ、来たな」とスックが操縦席前の画面に近づいてきた。

船底からポッド回収になる団子串のように3段の円球が排出され宅配ポッドと自動ドッキングになるまで数十センチの映像を白い彼と一緒に見守った。僕らはテンションが上がって、「ご注文ありがとうございました。良い旅を」という自動音声についお礼を言ってしまった。一番下の円球が宅配ポッドを回収し、そのまま3団の団子ポッドが船底から回収された。


 僕らはウキウキで操縦席フロアの真下の乗降ハッチフロア兼小形探査機収納庫まで階段を駆け下りた。ポッドの回収時に真空で異物混入やら宅配物以外の混入をチェックしているけど、実際格納されてから数分間待たなければならないのは、船内のシステムからのダブルチェックがあるからである。これが長く感じられて僕らはウキウキもどかしい状態でポッド前で棒立ちになった。


異状なしのサインが点滅するとすぐさまロック解除ボタンを押した。

「ヲ、あるある」

「これ、結構な量だね」

「アあ、明日以降の分を選別したり、保存食にし易いものから分けていこう。とりあえずゲート運行が先だから軽めの飲み物だけ持ち込もう」

 僕らはウキウキと冷やし飴ジュースと牡蠣フライを持って階段を登り、改めて階下から操縦席フロアに帰って来てから外の見える地球をみた。自然と笑顔になってしまう。本物の地球を自分で操縦する小形外洋船フネが実際に横切って観るのは何度体験してもやはり興奮する。地球は僕ら星系人には憧れの惑星だ。


 「あれが、本当の雲と海だ」フロアで操縦席に近寄りながら彼に言った。

「アぁ、本当の雨が降る。海にも嵐が起きる。地震も起こる岩石惑星だ。キレイだな」

「キミから何かを見てきれいという単語が聞けるなんて今日は本当にいい日だ」

「間違いなくな。ゲートまで間もなくだ、さっさと食べちまおうぜ」そう言いながら彼は後ろのソファの前に置いてあるテーブル上に移動した。なんとなく操縦席に座ってもっと間近でこれらを食べようと思っていた僕はSUQQUにソファに促された。いくら軽食とはいえ、精密機器とかサーモパネルが間近にある操縦席で食べようとしていた。

 「ヲまえ、ウカレてるだろ。操縦席に座ろうとした」と白い彼はテーブルの上に直に座ってチラっと僕を見た。

「うん」とちょっと自分に驚いて、ソファ用のスクリーンモニターを最大画面にして操縦席からのと同じ角度で見れる様にした。こうすると、手前の画面と奥の操縦席から見えるメインの外洋太陽系惑星そとの景色が重なって2パネルで見てる感じになる。最初、手前の画面の地球を見ながらおとなしく飲食していた僕らはそのうち、体をずらして後ろに見える迫力の地球をチラ見するようになった。

 やがて立ち上がって操縦席付近でこの岩石惑星を見つめ続けた。成層圏付近に漂うデブリの中に僕の曽々祖父の時代のハッブルとかいう宇宙望遠鏡を見つけた。見た目かなりのダメージを受けてるがデブリとして回収もされず、モニュメント的に管理してあるらしい。その近くに太陽系名物のデコトラ運搬船シップの派手なネオンカラー小さく確認出来る。白の君が「あれは花の輸送便だ」と小さく囁いた。


 「…来季の修学旅行計画はもう始まってるんだ。」なんの気なしに彼に目線を移さず話した。僕らの学園履修中に地球に行けるチャンスは2回。他の科の全生徒は一般的に修学旅行のみの地球訪問で僕らビエクル科はその他に大気と自然重力がある場所での乗り物の履修のためだ。 


 なんと約半年。ガソリンという化石燃料を使用したエンジンがある乗り物や大気の気流のみでのる飛行機!陸上、空、海。色んな種類の乗り物を履修して単位を習得する地球での授業。何度想像してもテンション爆上がりの授業だ。

この履修シーズンは僕らの学園生活のハイライトなのは間違いない。実際の授業は相当の根性要求これに耐えうるには準備、体力、気力と神経の太さ。先輩やコーチや医師や授業監督色んな話を聞かされて、想像したり興奮したり焦ったり僕らはそりゃあ忙しいメンタルになるのは毎度のことで中でもメイグリーンから聞いてるのはとても単純、メンタルと体力の準備、準備、準備。 これを持たずして地球に降りてはならない。あんないい経験を持って再び宇宙ソラへ戻れない。

「…楽しみなんだ。すごく。」


 食べ終わって、修学旅行の話題をしていたら程なくアラート音がして地球からやっと意識がそれた。操縦席に座ると目の前のスクリーンが本当の方角に変わり、何もない太陽系内の外洋宇宙を写した、ゲート進入区域サインと誘導ライトエリアに入った。このフライト2度目のゲート進入だ。

 ようやく木星エリア。ここから僕らは本格的にコンテスト始動だ。

誘導ライトレーンに僕らの小型船の首船を合わせゲートの入り口に向かった。今度の突入時間は長いのでトイレを済ませて、再び操縦席に座った。

 木星は太陽系のメインジャンクションだけあっていつもどこのゲートも混んでいる。船の燃料補給、いわゆる動力補給とメンテナンスはもちろん、木星古来の衛星さながらに、各他星系産のサテライト建造物が毎年、すごいスピードで増え、それに伴い各星系の文化の持ち込みがあり、当然犯罪も増えつつある。

 僕らのような他星系の学生もまた標的になりかねないエリアであるから、ここがコンテストエリアに入る場合は昔から学園よりの厳格なルールが定められている。長い学園歴史の中でも木星界隈の生徒の事件、事故はない。木星エリアでの僕らの使用する施設は限りがあり、また私服警護官もコンテスト中は各施設、その付近に常駐している。

 「ナぁ、ゼラは木星経由であそこにいたんじゃないのか? 」とふと思い出したようにスックは言った。

「コンテストのことでなら僕も分かるけど…あれは…いや、いい」ゼラのことは今は考えないようにした。


 ゲート突入時には去年からのスックのリクエストに答えたイスパハンが、特注のミニ操縦席をこの船に設置してくれた。そのおかげで白い彼は去年より4割り増しに機嫌がいい。ゲート進入時、つまりゲートでジャンプ中は彼にも体の圧があり船内での空停止困難らしい。また、去年まで僕の膝上だったのも不満があったようだ。

 「操縦席はどう? 」と僕は彼の方向を見、感想を聞いた。

「ア?いいぜ」とサングラス(!)をかけたスックが僕に向き直って答えた。

「あ、ずるい。僕もかけるんだった」とポケットからサングラスを取り出して地球人ぽくかけてみた。 


 僕ら学生はメガネといわれる代物はおしゃれアイテムで実際にその機能を持たない。目は生後まもなく宇宙空間の有害光線対策で目にレンズを施すので必要ないのだ。視力も悪い者はいない。だからなおさら憧れの地球文化のファッションにあるこのサングラスも流行している。

メガネはクラスで一時期、半数近くはかけていた。地球産フィルムや映画媒体でみたものに僕ら学生は一様に憧れ、またさまざまなアイテムが流行っている。このサングラスは去年、次回のコンテストで太陽系を跳ぶ時はかけるのだ!と意気込んで太陽系ショップから取り寄せた。念願のサングラス飛行。ここに叶う。

「……」

「……」

腕組みをし外を見つめてみた。数分後、日中、本当の地球の太陽の光の下でかけてみたくなった。

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