第21話 小型機の新機能
小型機の入り口をくぐってしまえば、また練ってきた一年計画のこれらを今から試せるのだというワクワク感が強く僕のゼラに関する引っ掛かりは薄れていった。ルート計画を可視化したホログラムが目の前に表示された操縦席にスックが浮かんでいた。その場所に座った瞬間、船内の明かりが全灯となり出口への誘導灯がコックピットから確認出来た。
「料理のお届けはおよそ三十分後です。だってよ」と頭上左上画面のメッセージを読んだスックは船内自動受け取りポット準備操作を始めた。
「イスパハンのオヤジさん、このポッドも新しくして、レンタル機体販路を増やす予定だって前から言ってたぜ。見ろよ。これ」
スックが
「ポッドの位置って側面じゃなく「底」部分にしたんだ。いいね!切り離しも簡単そう。ポッドからの映像はどこ? 」
「コっちだ。オートシグナル採用だ、あと、これ、
「フフッ。確かに用途たくさんありそうな機能だよね」
「物資到着時のアラート機能やら何やら後で報告する様に言われた」
「あっ、あと、停船球状ビュー! 」と僕らは同時に声を上げた。
この景観機能導入は数年越しの楽しみの一つだった。いわゆる船内からの外の映像が球状に透けて見える機能だ。
これは探索、観光用機体なので空間停泊時にしか機能しない仕様になっているけど、ゆくゆくは航行時にもと云う希望が多い機体だ。
このサイズだから開発出来た機能ではあったけどおじさんの話ではレンタル機に豪華仕様は盛り込み過ぎたらトラブルの元だそうで停船時のみの採用となったという経緯を教えてもらった。
楽しみなのは停泊探査の時だ。期間中にずっと移動ばかりをして生徒を事故に繋げないためにも1週間のうち最低3回の停泊探査すなわち船内で寝る時間を設けて休む時間を捻出するルールだ。
探査、調査のコンテストにこんな悠長な規定があるなんて驚くが僕らの年齢では仕方なくこの規定に違反すると減点になる。この時間を当然探査にあてて他生徒に差をつけたい者は枚挙にとわなく歴代の参加者達もこのジレンマに挑んできた。当然規定をぶっちしてチートに走るものも居る。また、船内カメラ監視のみの頃は[ベッドで寝てる]をカモフラージュして別の小形探査機を用意し乗り換えて探索するという安易な規定違反者も続発した。
これが逆に別件事故をもたらすという事でトレース、トラッキングシステムまで採用になり。審査委員会、学園と参加生徒達のイタチごっこになった。ただこれらをやらかすのは大抵上位入賞出来ない生徒がほとんどで好成績を毎年残す生徒は必ずと言ってもいいほど停泊探査違反者はいない。ただ、ここ2年の優勝者グレイティントは要注意人物視されている。
「グレイはちゃんと停泊探査やってるものか怪しいもんだ」とイヤミをいいながら球体ビュー、船内360℃景観はどの停泊機能で外観を見れるかをチェックしていた。機体の上部だけ、屋根の部分範囲や足元のみの範囲や停泊時のみの船内全体のオール外観が映し出されたモニター動画を見ていた。彼の触手が何本もパネルの上で動いている。なんだかこの機能を僕と同様かなり楽しみにしている様子だ。
「はっ! 」とここで僕は気づいた。彼はあの姿で真空を泳げる。つまり跳べるのに
「ねぇスック…キミ、その姿で
「ンあ? 」となにをいまさらというような目線を僕に投げかけ答えた。
「ヲまえ、何言ってんだ?ソトはUVだのなんだのすごいんだぞ、
「外洋宇宙って確かに有害光線はすごいけど、宙域海洋生物って、宇宙焼けイヤなの?それはスックだけ?まぁ…うすうす分かってたけど…」
「アあ、人類種のフネは最高だね。跳びながらにしてUVケア対策だ。後、料理も楽しめる。色んな他の事が同時に出来る。」
「俺らの種族は基本、遊永種族だ。だが俺ほどのレア種は人類種と共存し生活出来るレベルだ。俺は毎日が進化の連続だ。」と薄い体にあるんだか分からない胸を張り、動作が人類ナイズされたイカが言った。
「で、容姿のケアも怠らない…と? 」
「ああ俺の体は純白スノースキンだ。ブリックのねえちゃんの美容クリニックにまで通って美白に努めているのにワザワザ宙域を飛んでシミを作りたくない」
「ええ‼ブリックベージュのトコのクリニックに通ってるの⁉なんで?いつのまに⁉ 」
「学園に回診月一来るんだ。まあ男はあんまり通わないけどヘアケアから肌悩みまですべて診てくれるから女生徒や職員には人気なんだ。一度ブリックに誘われて行ってみたんだ」
「費用はどうなってるの?そんな支払い知らないけど? 」と自分の寮生活費の明細を頭にめぐらしていると
「ブリックのねえちゃんがモニタリングさせてくれたらタダでいいと言ってくれた」
「モニタリング? 」
「アあ、最初は
「どうして? 」
「コれはニュービジネスに繋がるとかなんとかで」
美白、ブリックんとこのクリニック。この様子では少なくとも数カ月以上は通ってる様子で、この同居の相棒が僕の知らないトコで…沢山の知らない情報が僕の脳で処理しきれないが、コンテストには差し支えない事実と判断した僕はもう質問するのをやめた。
自分のルックスを気にする外洋海洋生物…心の中でこれを唱えたあとは、届く料理と小型機の新機能を楽しみにすることにした。
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