第19話 岩石惑星とゼラニウムレッド 赤い閃光

 僕らは念願の姿焼きを食べ進めながら、屋台歩行者の進行方向に歩きだした。屋台散策前半部分でこれを堪能出来たので、散策開始当初の興奮度が落ち着き、廻りの光景が良く見えて来て、往来する人々やこの空間の設備、空調、天井を見上げると外宇宙ソトも見えることに気づいてきた。屋台と食べ物だけに行く目線から少し落ち着いてきた。次の食べ物を探しながらも、天井から見える宇宙花火に見とれていると、足元に緑の光が見えた。目線を下に移すと緑の王冠をもした岩石惑星がいた。


 「アれ、オーロラか?すごいな。地場が惑星にあるなんて想像つかないな」と彼にしてはめずらしくワントーン声が高くなった。

「うん」目線をおろしたその先に地球が目に飛び込んで来た時の衝撃がすごく言葉を失う程だった。

この屋台の簡易ファシリティ構造のウィンドウパネルのせいか、あまりに近く美しく見えた。


ガツン!と脳天にくるこの静かなる衝撃。


 「こんな近くに肉眼で見ることができるなんてこんな機会だけだね。前回は移動中の小型宇宙船フネからしか見てなかったので趣が違って感動するよ。記録とっとこ」

宇宙屋台の連結部分の間から見える地球に感動しながらレトロなカメラを取り出して記録ボタンを押した。太陽風がひどい本日は屋台施設の周りに結構な数のスターシェードが色鮮やかに点在している。太陽風による放射線やら磁気線の流れがシェードに当たると磁気線は着色されて横へ流れて行く。これが真空に流れる色の波風のように視えるので目に楽しいのだ。僕はそれらを撮り終えてから屋台の人混みの流れに戻って好みの食べ物を探していると見慣れた赤い髪の女性が歩いていた。最初は気のせいと思い再びお店に目線を戻し、しばらくしてまた赤い髪の女性が目に飛び込んできた。さっきより距離が近づいていたので、頭だけの後ろ姿だったのが今度は肩や背中のラインが良く見えた。

「あっ」驚きと同時に気づいたのは彼女の髪の色がさっきの真っ赤から色が変化していたことだった。

「あれ!あの髪の色、あの背の高さ! 」その赤髪の女性から目を離さず僕はスックに声を掛けた。

「エ?あ…グレイの姉さん」

「ゼラニウムだ! 」と驚きで思わず呼び捨ててしまった。

「ナんでココに? 」と当然の疑問を口にしたスックに

「ちょっと。声掛けてみよう」と言い終わらなうちに早足で赤髪の女性に近寄って行った。最初は背中までしか見えなかった彼女の後ろ姿が足まで見え、距離が近づいて行くほど赤から白くまた薄いピンク色に変化して見えた!やっぱり!と心で声を上げると

「オい!ゼラニウム! 」と僕より先にスックが声をかけた。

赤髪から薄ピンク色の髪に変化している彼女がゆっくりと振り返った。

「ああ、やっぱり」数秒遅れて追いついた僕は

「なんでここに? 」と声をかけたとほぼ同時に彼女とスックも同じ言葉を放ち、みんなで目を丸くしてお互いを見合った。

ゼラニウムレッド、グレイティントの姉であり学園の伝説の卒業生である。学園在籍時の彼女の人気はすごくて主席で卒業、複数の事業を興し今や財団化しつつある父親の事業を継がずして家を出て独立をした。

この変わった髪の色は僕の同期生のブリックベージュのお姉さんによるもので当時から名物の髪だった。

僕の見慣れたあの7セブンの白のつなぎ、腰にライラックニシブッポウソウの丸いエンブレム、エンブレムが左右に揺れる彼女の後ろ姿は下級生の羨望の眼差しだった。


 「…シー。そうか今はゲートハントコンテストの季節だな。久しぶりだ元気だったか? 」演習着や制服姿ではない彼女がとても目新しい。

薄手の光沢のあるいかにも特注した感じのある宇宙服はとても仕立てが良く、初めて見るデザインだった。そこで、ああこの人はやはりグレイの姉さんファンデルウェイデングループなんだと改めて思った。彼女はこの宇宙服の上に丈の短いジャケットを羽織っていた。


 「ゼラさん痩せました? 」と久しぶりに会ったのでやはり嬉しかったのかいきなり年上女性に不躾だったかもとすぐ思ったりもした。

「お前が大きくなったんだ。背が伸びたな。シー。グレイが一年の時だから2年ぶりくらいか」とゼラは少し微笑みながら顔を傾けて薄ピンクの毛先が横に揺れた。

そうなのだ以前の彼女はもっと背が高く大きい印象だったのでつい勢いでこんな言葉を掛けてしまった。


 「実際痩せましたよゼラさんは」と背の高い僕も幾分見慣れてる背の高い髪色がダークな男性がいた。

グレイティントの家、特有の子息付きのバトラーみたいな存在のような人でグレイのバトラーみたいに学園内でしょっちゅう見かけなかったけど、卒業時に少しの間滞在していたので、僕の記憶に残っていた人だ。

「ええと、あなたは… 」名前が分からないので挨拶の言葉に困っていると、

「ああ、彼は家業上ウチのバトラー、ジンクだ」と彼女は面白そうに目と頭の向きを彼の方向に向けながら僕に紹介してくれた。

ゼラと同じ宇宙服は色違いでジンクという彼はその上に長いジャケットを着ていた。背がとても高い。

「初めましてジンクです。確かグレの同期生の方ですね」と少し僕に顔を近づけながら挨拶をしてくれた。


 「初めまして、シーグラスです」僕らの星系では珍しく挨拶時に握手をしない風習がある。

「俺、スック」と僕とジンクの間に体をねじり込んできたスックに一瞬ジンクは…エっと云う顔した。

その顔が可笑しかったのか、ゼラは声を上げて笑いながら

「おお、そうだ、ジンク、こっちはスックだ」

「初めまして、スック。グレが以前だいぶ迷惑をおかけしたのは聞き及んでます。

「マあ、俺の様な海洋生体レアだからなアイツがちょっかい出してくるのは分かるよ。俺はアイツが大嫌いだがゼラは好ましいと思ってる」後、アイツのヒョロい女みたいなルックスのバトラーもなんとなく好きじゃない。と続けるスックの言葉に被せるように

「それは良かった」とスックに顔を向けながらジンクは答えた。

「ゼラさん、なんでここに? 」と僕がようやく話が聞ける番になり、つい声のトーンが明るくなった。


 「独立して学園からの仕事の依頼を受けてるからなまあ、その、視察みたいなものだ」

ゲートハントコンテストのことで? 」と僕が聞き返すと

「イヤ、違うぞ。そうだ!お前ずいぶんと余裕じゃないか!こんなとこで呑気に飲み食いして」

「あ、これらも僕らのゲートハントコンテストの戦略のひとつで食料調達を兼ねたモチベーションのためと… 」なんだか同じ科の男まさりの豪傑ウラ伝の先輩に男らしくない言い訳をしてしまったと男女差別がないこの星系学園の中でビエクル科の男子生徒はなぜか彼女の前ではこのような気分になりがちなのも豪傑伝説のなせる技かといろんな考えが一気に僕の脳裏に駆け巡った。


 「グレイの連勝を止めるのは俺らだ! 」スックは自分の体積をオレンジから赤にしながら声を上げた。

「良く言った!必ず優勝しろ!アイツは今年もゲートハントコンテスト家業ウチ特注で小型外洋船フネを発注しやがった。しかも2年連続で!私がアイツくらいの年にはイスパハンのトコでレンタルしたのを整備してつかったり、ウチのを使うんでもせいぜい旧式をカスタマイズして使ってた。ヌルい!おまえらビエクル科の基本精神でコテンパンにしろ。私もアイツのああいうところが好かない。」

「アぁ!ゼッテエ負けねえぇ。」と触手で腕組しながら答えるスック。

こちらに顔を向けるゼラに無言でうなずく僕。

ゲートハントコンテストの基本は準備と操縦と己のセンスだ、あと入念な計画と決断力。授業の機体操縦のセンスとはまた全く違うぞ。そこが魅力だ。2週間根性入れて跳べ」言い終わらないうちにゼラは僕らに踵を返して手の平を振り先程の彼女らの進行方向に去っていった。

                        


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