第17話 屋台サテライト


 上階への自動階段で入場者達が登って行く列に僕らも同じように並んで登った。前に立つ親子連れの子供が自分の頭上に浮かぶスックを珍しそうに見上げている。自動階段が一番上に到達する頃、屋台エリア会場の人の喧騒とお腹のすくいい匂いがしてきた。

思わず「わぁ」と僕は声を上げた。


 入り口横の総合案内で、

「今年からデリバリーが金星から木星エリアまで拡大したのは本当ですか? 」と入り口カウンター内にいる女性に声をかけた。

カウンター内の女性以外は2体のプレーンな人形ロボットで胸に来場者の要件の総合案内や関連書類の発券が出来るモニターが装備されていた。


 「はい。金星から木星の太陽側エリア限定となります」受付の女性が笑顔で答えた。彼女は地球人の女性だと顔の皮膚や髪の質感ですぐ分かった。首にはスカーフを巻き一人だけ制服をきている。

「そうですか」と僕は答えた。

「カイヤナイトからですか?」と今度は彼女から質問をしてきたので僕は少し面食らった。

「はい。分かりますか? 」

「ええ、お連れさまとあなたの服装で」笑顔で答えた彼女に、

「僕と同じ服装の来場者は多いですか? 」とコンテスト期間中の立ち寄り生徒が多いのかと聞いてみた。

「今日はこちらの入り口からはお見かけしてませんが、ここ数日ではおひとりお見かけしました」

毎年のルート傾向と出発日を考える僕にピーコックブルーの顔が脳裏を過ぎった。

「髪は黒、紺で髪を結い上げていて首元にスカーフっぽいもの巻いてませんでした?背は僕より高い感じで」

「ああ」といったような表情を一瞬したかと思ったら、受付の彼女は笑顔になり、

「その方ですね。あたなさまと同じキレイな方でした。お連れ様はいらっしゃいませんでしたが」

「キレイ? 」と僕はまた面食らった。

(キレイ。いえ、僕には地球人のあなたの容姿が綺麗という印象ですが、と僕のなかで違和感により思考が一瞬逡巡した。これが星間せいかんギャップ思考というものだとすぐ去年の授業を思いだした。何にせよ。これは先祖種の人との会話からだ。深く受け止めない。

「ありがとう」と僕は手をあげて入場口から離れて人混みに紛れるように進んだ。すぐに先を飛んでいたスックが一旦僕の元に戻ってきた。

「遅いぞ。用事すんだのか? 」

「ピーコックが来てたらしい。何日か前に」

「ソんな事聞いていたのか? 」

「違うよ。デリバリー区域が拡大した事が本当かどうか聞いてたらだよ」

「ソんな事聞いてたのか?」とまたスックは同じ事を聞いた。

「大事な事だよ。こうだろう。こうだ。の情報は当日、現地、現地時間でも適用されているか確認するのは遠方航行の基本だよ」

いぶしがった眉間のシワがとれた表情で

「オまえ、正しい事言った」

「僕はビエクル科だ」


 右手端末に料理が最新版になるように入り口にかざした後、人気屋台店の最新出来上がりメニュー情報が送られてくる。

料理数も前もって予約数の推移で調整して作っているので現地にいる者はその屋台場所へ行くとスムースに購入出来るシステムであり、屋台周辺を航行している者にも出前注文が出来る画期的スタイルだ。僕のようなスケジュールを持つ他星系人グルマンには出直し、2度手間がない重宝システム。

「ピーコックも今年、ここを自分のルート経由に入れて来てるな」

「うん。後でどんな料理食べたか聞かないとね。屋台サテライトの最新システムをチェックしてるね」彼の計画ルートはなんとなく予想がつく。この屋台サテライトは結構ルートの端に位置する筈で本当に短時間で滞在の筈だ。他生徒にしたらそこまでしてと思われる彼の行動だが、僕はここまでする彼に理解と少しのライバル心を覚えた。


 まずすぐに太鼓まんじゅうなるものを発見して、すぐに一つ購入して店の前で食べながら、そのまんじゅうが出来上がるところを僕らは凝視していた。甘〜い香りがあたりいっぱいにひろがるこの場所にもっといたかったがスックが録画しながら飛んでいてくれるのですぐ僕らは他のお店を物色し始めに移動した。


 「去年俺がこの場所を録画する事を考えたから今年はスムーズに見て回れるな」とスック。

「もう、ずっーっとここに居たい。全部のお店を見て回りたいという欲求は抑えられるよ。僕ら」と笑って僕は答えた。


 「たこ焼き!たこ焼き屋がある!と数件先の看板を見つけ、僕は歩みを速めた。近づくに連れ僕の鼓動が早まりお店の前には数人の行列があったのですぐ後ろに並ぶ。


 スックは最前列で録画しながら飛んでいた。その後ろ姿の薄いオレンジ色から白透明に白透明からまた薄いオレンジにほんのり変わって行くのを見え、今彼は、軽い興奮状態なのが分かって面白かった。

ソースの甘辛い香りの中、彼の後ろ姿越しにから見える鉄板の上に並んだ球状の食べ物を鉄製のピックで焦げないようにクルクルと回す屋台の人の手元と共に見入った。自分達の買う番までずっと見ていたがこの丸い食べ物を鉄のピックで刺して一つ一つ容器に入れていく作業とかこのソースを絵筆のようなもので塗る過程とかもうずーっと見てられる。

いつまでも興味が尽きないこの夢のような光景から我に返ったのはスックの、

「アの白いソースみたいなのもかけてもらおうよ」の声が聞こえたからだ。

顔を上げて自分たちのたこ焼きを注文し、渡された容器を受け取り代金を払って、その場でまず一口を食べる。

「あっ! 」

この白いソースは僕らの学園のカフェテリアにもあるマヨネーズだという事に食べ始めるまで気づかなかった。

これがこの甘辛い不思議な濃い味のソースにとても合うのだ。

ちなみに、ああこの客は地球人だなというひとは大体この白いソースをかけるように別途注文しているので、僕たちはあれはなんだろう?と去年思っていたので気になっていたのだった。

「マヨネーズだ!味に深みが出る! 」と興奮気味の彼の体がまたワントーンオレンジが濃くなった。

 「うっうん。甘くて辛いだけじゃない味になってる!これもうまい!」と僕はこの味に感動した。

良く地球の映画媒体でみるホットドッグ屋台の辛子が入っている容器みたいのにこのマヨネーズが入っていた。容器外見は白。

内容液状がちょっとペースト状ではないドレッシング状でもない、本来のマヨネーズ状でもない硬さの見た目なために分からなかった。

一口食べる度に口の中がヤケドしそうに熱いので苦労したが美味しいのでその熱さがどこか気にならない。出来立てを完食したのち口の中の上顎の皮がめくれてるのを初体験した時には感動した。こんな美味しくて衝撃的な食べ物他にない!


 僕らはこのものすごく熱くて美味しいヤツを頬ばりながらまた歩きだした。美味しさを堪能しながら、また別の美味しいもの探しで僕らの目と頭(口も!)は忙しい。2件先くらいの近い距離に飲み物で甘い生姜味のドリンク屋台を発見した。前回は名前が分からなかったけど、看板に「冷やしあめ」と書いてあった。口の中を冷やしながら食べすすめたいのもあり僕らは吸い寄せられるようにそのお店に近づいた。ここではあまり並ばずものの数十秒で飲み物が買えた。甘くて濃い不思議な味だった。

 「この味クセになるね!2度目に飲んだほうがより美味しく感じるよ」と僕。

「ダな! 」とスック。


 飲み物を飲みながら次の食べ物を探していると前を歩く親子連れの子供が風船を持って歩いていた。

その子供がスックに気づいて振り返り、振り返り彼を見ては、自分の持つ風船を眺めていた。

お目当てのかき氷屋さんも見つかったがまだまだ胃袋に余裕がある僕らは食事的なものを探して目が泳いでいた。


 かき氷屋を通り過ぎて数歩進むと少し焦げ臭い匂いがしてきたと思ってその匂いの方向を見た。

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