第15話 出発

 

 最終的に出発許可が下りて、ハマヤと通信をし、小型機真下の格納庫の扉が開いた。小型機グリシーヌの機体が紫花の色からスックのような半透明の白色一色に変化した。スックは興奮気味で僕の顔周辺から離れずフロントモニターを凝視している。小型機のエンジン音と振動が体に伝わり目の前が群青色の宇宙空間でいっぱいになった。小型機が点灯するガイド灯から予定航路の最初のゲートまでの経路が自動航行に移る瞬間ハマヤとイスパハンからの最後の通信が入った。

 フロントモニターに2分割されてまずハマヤが、

「無事の航行を。楽しんでね。スックも」

「今年はちょっと違う感じだ。もし、いつもと少しでも違うと感じたらすぐに連絡だ。言ってる意味分かるな? 」とイスパハン。

「うん心得るよ。ありがとう。行ってきます」と僕は彼らに挨拶をして出発した。

自動航行の間、最初の目的地の太陽系まで僕らは太陽系のグルメ屋台の話や今回の太陽風について話が盛り上がった。


「今、ちょうどお祭り期間だよね? 」僕がスックに聞くと、スックは

「新しい太鼓まんじゅう屋があるぞ!あれは食べてみたい」

「絶対食べよう! 」と僕。それから僕はさらに続けた

「箸巻きも!お好み焼きがホットドッグみたいになってるやつ」

「ソれ!絶対俺も食べる! 」と僕の顔に自分の体が体当たりしそうな勢いで近寄りながら言った。太陽系の屋台グルメの話になると僕らは30分はノンストップで話し続けることが出来る。そして最後のセリフはこれだ。

「イカの姿焼きにお目にかかりたい」


 地球の海洋生物のスックにうり二つの姿のイカ。厳密には彼は体の端の部分が△三角の白いイカではない。スックはサメハダホウズキイカと云われる種類でこの種のイカも地球の海に泳いでいる。その地球の日本と云う国の屋台フードで甘辛いソースをその体につけられ炭火もしくはコンロでじっくり焼かれて串にさされてる幻のグルメフードだ。僕らはその記録画像を学園の視聴覚資料室で目のあたりにしたとき、僕らはフロア中に響き渡る悲鳴を上げた!丁度、その場に居合わせたハマヤの兄さんクマデがものすごく驚いた顔で駆け寄って来たのを覚えている。


 コンテストに参加して2年2回の屋台フードを経験したけどまだイカ焼きのお店はおろか、海鮮焼きのお店でさえ見かけたことがない。

僕らの学園のカフェテリアでも貝類や魚などの料理はあるにはあるのだけど、どれも太陽系外惑星産の加工品で海という場所で泳いでいるままの姿で料理されているものを食べる習慣がない僕らには幻の食べ物だ。


 「滞在時間は3時間でいいの?ジュピターラインは混んでるかもしれないから4時間に増やしたらもっと楽しめるかも」と口調が柔らかく明るくなったスックに、

「予定は5〜6時間木星での燃料補給はいつも時間が過かるから6時間は予定に組んであるよ」とタイムテーブルをミニグラフィックモニターを彼に見せながら僕は答えた。

「今年も燃料補給時にジュピターマン達にも色々聞いたりして情報を入手したいから屋台はある程度のところで切り上げないとね」

「ソうだな」とスック

「ジュピターラインまでの間も混んでいるかも」

「そうだね」と僕は答えながら太陽系火星圏から木星までのルートをグラフィックで確認した。太陽系までのゲートの入り口が近づくと、船内着席とゲートジャンプの用意がアナウンスされた。


「このゲートを見るの久しぶりだね」とコンテストは一年に一度なのだから久しぶりなのは当たり前なのだけど、僕は太陽系へ行ける高揚感からなんともへんな事を言ってしまった。

 船内で着席やジャンプ時間、到着先の宙域天気状況と予報を聞いている間に、手元のグラフィックモニターにおおよその予定時間をセットした。ここのゲートのデザインもうちの学園の卒業生のもので発見者も学園の関係者だった記憶がある。そのクラスの受講風景が頭を過った。大きな金色の輪はその中を通る宇宙船の入り口でその輪の頂上にゴールドピンク色のトランプのダイアのような形をした飾りがある。ダイアの中には金色の花模様のような装飾があり入り口でジャンプを待つ船にそのダイアの色がピンクからブルーに変わるとゲートを通過して良い合図になる。丁度タイミングよくジャンプ待ちの船体も全くなく、ジャンプ準備先導ガイド灯のラインが僕らの機体の前に点灯し始め、その二本の灯りはゲート入り口まで続いた。


 「イよいよだな」

とスックがこちらをみて言った。

大きな金の輪が船体の目の前に現れたと同時に船内はオレンジ色の照明となりジャンプ直前に移行したのが知らされる。機体も通過時刻ももともと申請してあるから入り口通過もスムーズだった。


 大きな金の輪が真横に見えるとその大きさから金色の柱のように船を挟んで両脇に位置した。小さい船体がいよいよゲート侵入するその瞬間、体に決して軽くない圧力がかかった。

次に小型機前方の景色がジャンプ中を示す景色に変わった光が後方にどんどん流れた。

軽くない圧力も数十秒で軽めの圧力に変わり、太陽系への正常なジャンプ運行に入ったのが体感でわかった。

これからものの数分で太陽系入り口に到着する。


 木星までのジャンプの間に地球上空エリアの立ち寄りのルートを確認され、認証ボタンを押すだけだが変更なしで申請した。

僕らの船はシグナルも外観も学園用の船だと安易の想像できるので太陽系では割とすんなり航行できるし、へんな取り調べ等も全くない。このクラス船では学生の乗り物か小型運搬の配達用船しかないからだ。


 「もう出口だ、太陽系にでるぞ」僕は太陽系にやってこれた高揚感で顔が笑顔いっぱいになるのを感じながら前方の景色から目を逸らさずにスックに告げた。

太陽系はここ数日太陽風が激しく通年にはない激しい電磁波で注意報が出ているが屋台マーケットは予定通り変わらず出店されているようだ。ゲートの出口の水星位置からすぐ地球方面に進んだ。途中の金星を左手に通り抜ける太陽系名物ハイウェイパイプラインにのり数分で地球に近づいた。


 電磁波シールドサテライトのいくつかが肉眼で操縦室から確認できた頃、スックは屋台サテライトの建造物出店の位置を確認した。そこで効率良く回れる太陽サイドのパーキングエリアに小型機を停め入場しようと云う事になった。

「という事だからこの先の5番出口を左に進んで屋台ドライブスルーエリアの下のパーキングエリアに停めるぞ」


 屋台サテライト会場に入場すると、僕らはウォーキングエリアで立ち並ぶ屋台の間を往来して料理が実際作られてるところを見たり、料理を購入して歩きながら食べたりできる。地球の地上と同じ感覚で屋台を体感できるようになっている。

「今回も混んでるかな? 」とスックが聞いてくる。

「うん。そりゃ多いよ。地球人と太陽系人、土星付近なんかの外太陽系人がほとんどだね。トラブルに巻き込まれないようにもしなきゃ。食料調達という名目で立ち寄るのが目的だから。あくまでコンテスト中だということを忘れないように」と僕は少しニヤけ顔で答えた。


 小型機は出口を降りて会場方面へ進むと太陽風避けのシールドの先に開催中を告げる宇宙花火が色鮮やかに見えた。しばらくしてウォーキングエリアに立ち並ぶ屋台の一角が目視できると、パーキングエリアへの誘導看板とネオンサインがあちこちに見え始め、太陽系にやってきた!という実感がますます湧いた。

 このネオンカラーの看板は僕たち学生の地球への憧れののシンボルの一つだ。今ここに他の生徒達と一緒だったらみんな肉眼で見るこの光景に大歓声を揚げながら見入っているだろう。

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