第14話 ポケットの中の3✕3

 エレベーターが小型機格納フロアに到着するとスックは猛スピードで飛び出した。フロアの床も壁も天井も白色で明るい照明が眩しいくらいなのはいつも変わらない。その中に色鮮やかな紫色の藤の花グリシーヌを模した小型機がずらりと列び、天井から藤のつるが伸びて何台も小型機が縦に連なる。レンタルの小型機の端末機キーがフロアに到着すると誘導灯がナンバーまで続く、僕もスックの後に続いて駆け出した。


 白い真っ直ぐのフロアを一直線に走りながらこれから出発するんだという高揚感で笑顔になってる自分を意識した。毎年経験しているがこの瞬間と出発までの準備。この時間はハント期間中でも大好きな時間のひとつ。スックがもうすぐナンバー423の前に到着するのが見えて僕の両足はダッシュに切り替わった。


 搭乗口の扉にある小さなゴールドの円に指の爪に貼ってある端末キーをかざすと扉が開いた。スックは自分が通れる隙間が開いたところで体を滑り込ませ中に入った。僕は扉が足元に開いて降りてくるのを眺めながら頭の端でこれから準備する手順を考えた。扉を入るとすぐ目に飛び込んでくるのがオレンジ色の探索機で小型機の格納庫、その横の階段を上がって行くと小型機のメインデッキに入った。動力端末をセットしていないのでまだ小型船内は薄暗いオレンジ色の間接照明が所々を照らしていて、その明かりがなんとか船内全体を薄くぼんやりと見渡せる。


 動力端末を置く小さな透明の皿に僕の白つなぎパンツのポケットから出した動力を置く。この手のひらサイズ(3✕3)の正方形のクリスタルのようなこの動力端末は中が透明で光にかざすと液体のように見えるけど中身は液体じゃない、可視的に分かる小型機を動かす燃料で減って行く量が確認し易い。


 「シーグラス遅い、速く」とスック。

僕はこの正方形の動力端末を円形の台へ置いた。

正方形からダイアのマークに立ち上がり、ダイヤの一辺の点の部分で倒立して回転し始めた。この動力端末は小型機を目覚めさせ、すぐに船内全体が明るくなった。

スックは動力端末の場所で待ち構えて置かれるの見守ると、デッキ後方のソファの上にあるディスプレイ画面に現在のエントリー者の成績がリアルタイムで表示されるのを待って飛んでいき、グレイティントをチェックする。

因みにこれは成績以外にも本人の大体の航行ルート、使っている小型機、前回の成績、前々回の成績等見る事ができる。


 スックはフムフムと小さく息を吐きながらそれらを読み僕のところへゆっくりと飛んでやってきた。顔はいつものように眉間に薄くシワがよっているように見え(彼は普段はだいたいこの表情なのだ)体表もいつもと同じ半透明の白色に戻った。

「グレイティントはどうだった? 」と僕が笑いをこらえながら聞くと、

「ヤツは今腹が痛い! 」

としたり顔。

「うん。それは聞いたよ。他には? 」

宇宙そらが荒れてる。ヤツはいつもの調子が出ない、小型機もいつものじゃない。勝てる」

右へ左へ飛びながらひと言ひと言目線が左右にしながら彼は答えた。

「うん。今年はかなり違う展開になるかもしれない。みんなのレース展開も僕らも」

さあ、計器のチェックに入るよ。と告げながら僕はメインデッキ(と言ってもここ一つだけど)の大きな椅子に座り 自分の航路を設定し最終身体チェックのために呼吸を整えて5分椅子に座って計測終了の合図のシグナルを待った。

 その後小型機運転のために脳波計測と手のひらからの(計測)採集をして航路図チェックと行き先の順番を脳と手のひらの(体内微粒電磁)を使って本人の相違などを確認する。


 これらのデータはハマヤのデスクと学園側のコンテスト委員会本部に転送され、出発の許可が下りるの待ちつつ、僕は次々に小型機出発前のチェックをこなしていく。

緊急時運転用のハンドルの位置も確認した。足元のパネルの下にある。


 スックも小型機の外装部や機体の真下を飛びながらチェックしていく。

スックは生身(!)でも宇宙の真空を飛べるのだ。外装部にあるカメラの位置や録画機能も確認。


 録画は出発から帰還までの間録り続け、コンテストの審査判断の材料の一つともなる。コンテスト中に好成績を残しても最終的に大きな減点や失格にもなりうる。

この審査委員会の判断材料のカメラ録画機能の停止自体が失格となるので航路中にも何度も確認する。これはスックの役目。


 この小型機はもともとカメラが船内と船外に何箇所も装備されている。

これらの記録はもちろん審査委員会から提出を求められるが、いわゆる探索中のズル防止のために学園から指定の船外用カメラ2個と船内用1個が規定により、参加者の小型機に設置が義務付けられている。


 エントリー者使用の小型機全機につけられ探索中も、コンテスト終了後、成績発表の判断材料はもちろん、後のゲートの正規設置化のための整備の判断材料にもされるので重要な記録になりこのコンテストの趣旨ゲートになるホワイトホールの発見、探査と同様大事な調査データになる。


 「グレイはまた実家に手配してもらった特注の小型機だぜ! 」

とスックが点検準備中の船外のカメラチェックから戻って来て恒例のグレイいじり発言をした。

「参加規定に引っかからない同じ規格のはずだよ、彼のお姉さんと同じエントリーの仕方だ。学内では認められてる。」僕は太陽系までの航路の現在の太陽風などの状況を最新情報をチェックしながら答えた。

「そのお姉さんと同じエントリー方法でなんであんなに同じ学年や学部から嫌われてるんだ?みんなも気づいてるんだよ!」スックは船外カメラからの映像とカメラの動きをチェックしている。さらに続けた

「航路計画書だって外部の人間と相談して提出してるフシがある、絶対プロに手伝ってもらってるんだ」

 「そうだねそうかもしれない。でも証拠がないから失格にはならない。もしグレイが本当にズルをしていたら後で本当に苦しむのは本人なんだ」

「毎年優勝してほくそ笑んでるのになんで苦しむんだ?そんなのおかしい」スックの体表がほんのり赤みを帯びたオレンジになっている。

「うん。彼が本当にズルをしていてもそうでなくても僕らはズルをしない。それで彼に勝てたら最高じゃないか」

「………まあな」とまた白透明な体表に戻っていくスックを見つめながら、

「これから出発だよ。スック、頼りにしているよ。僕は今年はいけそうな気がするんだグレイの頭を見下ろせそうなんだ」

「シー俺も予感がするんだ、グレイの髪の上で浮かんでゴールドメダルもらう気がする」

「こういう空気感は大事だよ。グレイの話題ばかりで準備がおろそになったら僕はイヤだ。スックもだろ? 」

と彼めがけて片手を上げた。


 スックがすばやく僕の手のひら目掛けて飛んできて、彼の触手とハイタッチした。


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