第13話 ローザイスパハン

 「シーグラス、変更…なし。だな」とエントリーシートの僕のページにタイプしたイスパハンは、僕が質問する前に対面エントリー申込者に毎年恒例の情報を教えてくれた。今年は恒星風の当たり年で各星系に跳ぶヤツに十分に注意をうながしている。グレイティントとブリックベージュはもう跳んでいて今日で5日目に入るグレイティントは2位、ブリックベージュは6位の位置にいる。恒星風のせいであろう。

そのため予定の飛行ルートも探索だけでも時間がかかるので小型機の動力も消費が早い。

補給するにも補給ポイントへの移動で時間がかかる。また探索場所までの移動にもこれまた時間がかかり動力も2個用意しているとハント計画もスムーズであろう。これは去年からの僕の計画想定内でいざという時に予備を去年の賞金で新調購入した。

「動力持ち込みも申請済み」とさらにエントリーシートにタイプした。

スックはグレイティントが2位だということに大喜びで興奮状態ですぐにでも出発したい勢いだ。

今朝の体調データも本部に渡っているので特にこちらからの申請はなく、計画した時刻に出発許可が降りるのを待つだけである。

イスパハンは

「仮眠室も新調したんだぞ。オリンピアンクラブ並みの設備だ。酸素濃度も体温回復も自動調整のベッドと酸素入りウォーター、エナジードリンク、食べ物も用意してる。良く休めるし、元気になるどうだ仮眠してかないか?」ウインクした。


 オリンピアンクラブとは我が星系カイヤナイトのオリンピック衛星デルポイにある施設である。

地球時代のオリンピック大会と同じく、競技の数は少なくなったが、スポーツ競技全般が行われる小さな衛星がある。また学生の公式競技大会はそこの会場を使用する。

この衛星は特殊で学生や一般市民が使用する日とこれらのスポーツ競技とは別の賭け事のスポーツ競技、(乗り物の競技も含む)の日は別に開催される。

 この衛星そのものが緑に発光している日は賭け事のスポーツではない日。赤く発光している日は賭け事スポーツ競技が開催されている日。僕ら学生は緑色に光る衛星の時しかそこへ降り立った事はなく、賭け事が開催されてない日でも賭け事の行われている会場には近寄る事が出来ない。


イスパハンは毎年この話をして、僕ら学生の飛行時の安全を心配している。特に年少の学年には出発手続き中に2、3回は聞いている。


 「僕と飛行ルートが似てる学生はいた? 」

イスパハンは僕の計画書の画面を一瞥すると、

「2人、何ヵ所か重なる航路になるだけだ。日にちは違う…な。この航路だと…シーグラス、お前さんが一番乗りだな 」

「よっし! 」カウンター前で軽くガッツポーズになった僕は早く出発ゲートで準備を始めたい衝動にかられながらもイスパハンに質問を続けた。

 「もしも、去年未申請だったホワイトホールを今年再申請する場合…

イスパハンは手元の資料と画面チェックしながら…僕の質問を聞き返した、

「去年の未申請のなんだって? 」

僕はイスパハンへの質問を変えた

「うん、このまま出発希望。体調いいよ」

「うん?そうか?準備中に気分が悪くなったらすぐ申し出るんだぞ、とにかく無理はしない、もちろん飛行中もだ。すぐ連絡するんだぞ。自分の意志とは無関係で体調不良があるのが人類種だ」

「うん」

この毎年のやりとりは通年行事だ。早く出発を望むなら、根気よく、「うん。体調はすごくいいんだ」で決まりである。実際ぼくは体調万全、この日のために体調とメンタルを調整して惑星デルポイにやってきたオリンピック選手の気分だ。


 「好成績に繋がるハント中でも、緊急シグナルには必ず従うこと!おまえさんの命に関わる、良いパイロットの技量は好成績だけにこだわらないんだ。これはまずい状況だと判断ができることだ。減点だの、格好悪いからと救難信号を発信するのをためらったり迷ったりは禁物だ。分かるね? 」

「うん。心得るよ。」

「グレイティントの姉さん、ゼラニウムレッドはその判断がすぐできるタイプであれだけの好成績を残した。迷わず救難信号を打てたよ。ごまかしやは迷いはなかったよ。不思議なことにそのようなパイロットには良い気運、良い波とでもいうかな。それを引き寄せる。豪胆な腕も備えているから次の機会を必ず辛抱強く待てて勝負に出れる。おまえさんも良い気運を引き寄せれる良いパイロットを目指すことだ」

イスパハンは最後にゆっくりと僕に言った。

「これらの判断は不思議と良い成績にもつながるものなんだ」

「アイツ、今、腹痛いんだろう? 」

スックはイスパハンの話題が彼に及んだので口をはさんできた。

「グレイのお姉さんの話だよ」

と僕が返した。

「弟は今回はどうかな?ちょっと要注意だ、みんな見てる」

と言葉を濁したイスパハンに

「アイツはッ、いつだってッ、グレイだ! 」

彼の体調不良で嬉しくて興奮気味のスックはいつもは白い体がオレンジに染まっていたが、グレイティントへの積年の恨みがあるため怒気がこもり、今の自分の言葉でさらにオレンジに、そして茶紫色になった。僕らの大好物のアジアンフードのイカ焼きそばの中のイカを見てるみたいで、面白い。

イスパハンはスックに、

「まあ、そう言うな、グレイティントはあの姉さんの弟で、同じヴィエクル科で学ぶ、まあ相当やりにくいだろう。プレッシャーは相当だ、ましてや男で…いや、これは性差別発言だな。古い地球産人型の考えだ、君らの世代にはふさわしくない言い方になる。うーんなんと言うか姉が家業を継がないのが確定したんだ」

と彼の立場を説明した。


「彼はコンテストに単独参加だ。姉さんとは違う形での準備もしてる風だ。学校側も監視てるね」とまた書類に目を通しながらイスパハンは言った。

 「それは一昨年くらいから言われてる例のウワサ?グレイが脳に手を入れてるってヤツ?でも検査では何もなかったんだよね? 」とグレイの顔を思い出しながらクラスのウワサの話題を思い出た。

 「毎年彼の身体検査でも異常はないし」と僕は更にイスパハンに答えた。

そうなんだ。周りも追求出来ない。学校の先生や実技の教官も特にこのウワサには言及しない。

「ダからといってズルは許されない! 」スックは茶紫な体表なまま言った。

スックのアンチグレイティント発言は毎回なので、カウンター付近でざわついてる僕らをハマヤが苦笑いしながらこちらを見た。


 スックがカウンターから奥のホログラフィディスプレイに映る、現在航行中の生徒の画像に近づきグレイが映し出されると飛んで行き、

「今年こそ俺様が優勝だ! 」と叫んだ。

「僕ら、だろ?」とグレイを凝視する空飛ぶイカの後ろ姿に僕は言った。

「すぐ出発するんだろ。シーグラス。イスパハン、出発だ」とイスパハンの頭の上から言い放ったスックはカウンターから小型機のあるフロアへ行くエレベーターの方向へ飛んで行った。

「じゃ、機内で準備するよ」と手を上げてイスパハンとハマヤに挨拶して僕もエレベーターに走った。

〈F1ー422〉イスパハンに渡された端末キー番号を頭で復唱する。

僕は小型機のナンバーを確認して、小型機があるフロアの専用エレベーターにスックと乗り込んだ。


 今年は宇宙模様そらもようが違う。


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