第9話 ゲートハントコンテスト

 それからあっと云う間に2ヶ月が過ぎた。

僕らは学年末試験をバタバタとこなし、試験中の廊下移動時の生徒の表情で試験の善し悪しが分かる季節となった。


 各生徒の主要科目試験の他に第二選択科目の試験もあり、僕は古典楽器演奏のピアノ試験も受けた。これも約1年過けて練習した。

ビエクル科の生徒も古典楽器演奏の受験者は多い。チェロやバイオリンといった弦楽器を受験している者もいる。3回生の試験なので過去の課題曲よりもレベルが上がり僕も気合を入れて準備し、練習した。早朝練習で毎日の早起きが辛い時期もあった。かなりのテクニックを要する難題曲に最初僕は途方にくれた。最初は曲をなぞらえてざっと流すだけが精一杯だったが練習すればしただけ1音1音丁寧に演奏できるようになった。そこからが早くて楽しかった。


 練習室にある古典楽器用の自動採点機で音階とピッチの狂いがない事を確認すると、また僕はテンションが上がった。

さらに練習に熱が入り、音に自分の気持ちを入れる演奏に入っていった。ここまでくると毎日の練習が楽しくて、朝の時間が特別なものになった。練習日程の最終に差し掛かると、選択科目授業後に担当の先生に演奏の確認をしてもらい。先生の高評価に僕は内心ニヤけた。他の受験生徒の演奏もなかなかのレベルだった。でもここからだった。一番の難関は試験当日までの気持ちの持って行きようの難しさだった。他のテストの準備もある。毎日の授業とビエクルの実技試験も3科目もありピアノへの気持ちの途切れを懸念した。しかしそこはそこ、学生のスキマ時間は以外とある。自分の演奏と好きな演奏家の演奏を交互に聞いたり、ピアノの前でなくても聞きながら集中して指を動かしたり他生徒の目線は気にせず試験日まで集中した。

試験日当日はさすがに緊張はしたけど、トラブルもなく良い演奏が出来た。その日、話しかけてきたティーローズに少し無愛想になった。メイグリーンがチェロの試験を受けていた。試験会場から出てきて楽器を運ぶ姿を目撃した。彼の長い手足が大きなチェロを小さく見せた。5回生も同じ試験日だったようだ。


 僕は古典楽器演奏の試験得点を知らないまま、明後日外宇宙へ行く。

これは僕の学年末の毎年のスケジュールだ。


 ゲートハントコンテストとは? 


 ゲートは宇宙空間の高速道路の入り口みたいなもの。

この広ーい宇宙を移動するのに必要不可欠。

このゲートを通過しないと僕らの星系から太陽系にやってくるのにも大変な時間がかかる。

普通に外洋宇宙船でゲートを通らずに星系間の移動は難しい。

 まあ。広い宇宙空間を短時間で移動できるポイント、場所。というわけ。この宇宙空間においてまだ未発見のゲートは数多く、これらを発見、探査、報告することがこのコンテストの目的。

 まず発見は、まあ見つけることだけど探査は簡易的なもの、つまりはこのゲートの入り口の先には出口があるのか、それはどこへ繋がっているか、どのくらいの質量の船舶が飛べるレベルか、色々調べる項目がある。

見つけたゲートの質でポイントが加算される。

もちろんゲートの数と見つけたゲートの品質。


さらにゲート空間が安定した大型船舶が飛べるレベルだと高得点につながる。

みんなこれを狙って跳んでる。だけどこのレベルのポイントはなかなか見つからない。

その一方で発見数が多くても上位入賞は狙えるので、数を競って跳ぶ生徒も中にいる。

数にこだわる発見ノウハウまで存在するんだ。


 それから報告。これらが小型機船舶で跳んで、コンテスト期間内にゴール地点に設定した場所に到着するまでにする項目全般になる。

僕らは毎年のルートで外太陽系の木星にある補給所に行くけど、地球からこの木星までもジャンプが必要な距離だ。


 当然ジャンプポイント探索発見、その整備は各星系の発展の要にもなる。またこれらは必要な交通手段なのでこのゲートに関しての事業はかなりの経済力を持ち、発見整備、そして実際の交通ポイントとして銀河団に登録されればお金がもらえる。


 また個人のハンターはポイント位置報告だけで後はお金もらっておしまい。という本当のゲートハンターを家業にしている人も存在する。


 でも僕らの学園のゲートハントはここから。

僕らの学園は僕らの星系の技術で発見した後のさらに詳しい調査とゲートの整備、ゲートの侵入口の設備設置をする技術がある。それを専門とする事業会社が沢山あるから独自で発見したゲートをそのまま商用転換できることができる。


 ここまでできるハントで銀河団に登録すると、その後の交通料の何パーセントかを毎年もらうことができる。つまりこの学園はこのコンテストで発見したゲートポイント(ホワイトホールの場所)でカイヤナイト星系の事業者を含め、大きな収入源を得る。

このことも手伝ってこのコンテスト自体、学園の歴史上、重要視される授業のひとつなんだ。


 古典楽器の試験の終わったビエクル科の生徒は、だいたいすぐ分かる。ちょっと緊張が溶けた表情になぜか早足で廊下を歩く。

頭の中はコンテスト参加日程と計画航行ルートが頭に浮かび、試験の間チェックを控えていた、最新の近宙域の海賊情報や宙域天気予報をチェックする。

次の大きな学校行事、ゲートハントコンテストで頭がいっぱいになるからだ。


 ブリックベージュと僕は毎年終業式後に出発。

僕は毎年明日の終業式の次の日に跳び、ブリックは大体僕に1日後くらい。

グレイティントはもう今はどこかのゲートに入り口付近にむかい、彼の計画ルートを航行中だ。彼は毎年終業式には参加しない。

ゲートハントは僕らの夏休み6月の第3周目から8月の第2周目までのいずれかの2週間を選び飛ぶ。

毎年の傾向としては、ピーコックブルーとマスタードは6月の第3周目後半か4周目から参加。ペールイエローとティーローズは6月の終わりくらいか、7月の最終週と月末出発参加。


 あれ?ティーローズって今年参加するんだっけ?なんか今年、彼女の具体的な話しは聞いてなかった気がする。


 ライトプラチナとピーチブリス、ライムは8月のいずれかの週に参加すると僕は睨んでる。参加生徒全員、自分の航行ルートの関係や自分の他の学校行事なんかの関係で参加時期がズレる。

夏休み初日から僕がコンテスト参加するのは理由がいくつかある。

一、学園のかつての大人気ルート。太陽系を一番に通って、あの地球名物、屋台サテライトに寄り道する。

二、木星補給所で現地情報を収集する。

三、太陽系からの移動ルート道中でまだ未申請のポイントの探査をする。


一は毎年の楽しみの恒例寄り道。本当は禁止事項類行動になるけど、食料調達目的と現地情報収集の目的と称して入場する。

憧れの地球を目下に太陽系の名物風景を愛でながら航行するのはやっぱり気持ちのいいスタートだから。


二は木星補給所と木星近辺での宙域情報の収集、これはコンテストシーズン一番のりとはあまり関係ないけど、道中質問がし易い環境かつ腕のいい補給所のクルーを道中苦労なく確保できる場所が木星エリアだから。


三は今回はハント用の新しい技を考えた。その方法の立証を試したいから。

 そもそも太陽系近辺は歴代の学生達にハントしつくされた感のあるエリアだ。憧れの惑星地球を望み、屋台サテライトもあり、木星補給所とコンテスト学生にはおいしいエリア過ぎてみんなが殺到。

 獲得するゲートポイントがもうほぼ見つからなくなっている。ここ数年は学生の計画ルートにはほとんど記されない超不人気エリアとなった。



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