第8話 エントリー機の性能

 「コンテストがいよいよ2ヶ月後に迫ってるね。みんな準備は順調? 」話題を切り替えたクマデがみんなに視線を移した。

チラッと全員の目線がクマデに集中した。

これはナーバスな質問だったなと彼は一瞬で悟った。


 「はぁ。そうなんだ。クマデ。今年は3回生でコンテスト最終年度だろ」ため息をしながらブリックベージュが口火を切った。

「3年間の成績を良く終わらすかそうでないかがこのコンテストで決まるんだ」とタネをつまむ手が止まりスナックの袋の上に手を置いた。

「過去2回の経験もあって俺らどの年よりも気合入った計画を立ててるよ」マスタードが腕組みをしながら目をつむり答えた。

「なんとしても4回生にいい成績で進級したいんだ。2ヶ月後の学年末試験と試験後の夏休み中のこのコンテストは3年間の成績に加算されるから」


 「クマデはコンテスト参加しないの? 」と留学生のエタンことガーネットフローがクマデに聞いた。

「僕は整備科でおととし参加したけど、去年から店の手伝いに専念してるよ。なにせコンテスト参加者を送り出す方なんだ」

「送り出す? 」

「僕の家はレンタル小型機の製造と販売をしててね 」

「ウチのライバル会社なの」

「君の家の事業よりウチはずっと小規模だよ」

「彼女の実家の会社はカイヤナイト全域に支店があるよ」と指さしながらクマデは笑った。

「夏休み入る直前と夏休み中はコンテスト関係の仕事と店の通常業務でてんてこ舞いになるんだ」

「コンテストの内情を知ってる僕と妹のハマヤは重宝がられて大忙しだよ。レンタル機準備や荷物の搬入や出発時のオペレーションやもう色々やることがあるんだ」

「妹さんも整備科? 」

「妹はデザイン科だよ」

「僕はイスパハンのお店、クマデのお父さんの会社の小型機で毎年エントリーしているんだ」シーグラスがガーネットフローに告げた。

「あの、停泊球状ビューの新型は君のウチのエントリー機になるの? 」とガーネットフローが目を輝かせて聞いた。

「ガーネットフローも耳が早いわね」と驚いた様子でティーローズが笑った。

「うん。ウワサになってるよ。あの紹介映像は新しい顧客獲得につながるよ。僕だって今年はあの機体で跳びたいよ」

「本気かい? 」とクマデが少し嬉しそうに笑った。


 ハントの参加生徒は1年かけて計画し準備し、コンテストに臨む。学園側も1年かけて安全対策や現場視察をし準備する。他の科からも参加希望者は存在するがビエクル科はコンテスト参加者が多い。どの生徒も初参加の場合は前もって半年かけて授業形式で受講する。学科と実技授業である。この時初めて単独ゲートジャンプや単独航行も経験する。その後、学科と実技の試験を受け、合格すると免許取得となる。


 「ゲートハントの免許はくにで取得したのかい? 」クマデはガーネットの成績を聞いて興味をもったのだろう彼に再度質問した。

「いや、学園ココで取得したんだよ」

「そりゃ。すごい」

「ここのゲートハントの習得レベルはトップクラスだからね。ビエクル科の他の機体の免許習得も。十代でこのレベルを学べて習得できる学園は他にないよ」

「免許取得で受講すると単位ももらえるしね」

「試験は簡単ではないけどね」

「でも妹さんデザイン科でしょ?免許持ってるのすごいね」

「うん。うちはさっきも言ったけど家業が小型船舶製造、小売、レンタルなので習得しておくと経験としてもよいし、家業上なにかと重宝するんだ。

「確かにデザイン科の子はビエクル関係の免許取得に興味もってる子は少ないと思うね」

「コンテストのエントリー機の変更申請は早めにやっておいた方ががいいよ」

「事務処理に時間かかる上に物理的な事も後へ後へ押してしまうから当日バタバタになるよ」クマデが人のいい笑顔でエタンに告げた。


 「物理的?」

「ほら、自分のコンテスト用荷物搬入を業者さんに手配してもらうだろ?その後、荷物自体に不足があったりしても出発数前だと対応が追いつかない」

「当日の自分の手荷物とは別の話だよ」

「無人小型探査機用のペアリング無線機とか僕らのブラックブロックBBとか」

「BB?」

「1回生の時に配られるあれだよ。故障箇所を診る簡易判断ツール」

「ああ、去年の最初の授業でもらったよ。黒い長方形のポケットに入るあの機械」

「BBは個人手荷物だよ」

「はいはい。エントリー機変更申請は出発の1ヶ月前までに」ティーローズがクマデに映像端末を返しながら言った

「重要な機械や道具が足らないで参加になったり、当日出発出来なかったりしたらもう1年計画が台無しだ」

「去年のようにすんなり出発できるかどうかは分からないよ」

「この2週間で今のレンタル機とクマデのとこのレンタル機の細かな違いを総チェックしてから変更申請した方がいいよ」


「そこまで細かくチェックするの?」

「その必要あり? 」

ティーローズとクマデが同時に聞いた。

他のみんなで一瞬目を合わせた。

「まぁ、経験だよ」僕は答えた。

「ああ、段々、小型機が自分の体のように思えてくるよ」

「1回生にはない考えだよ」マスタードが付け加えた。

「2回生から去年の経験を踏まえて、1年計画でハントそのもの手法、探索ルートや時間配分とかをさらに深く考えるようになる」

「まぁ、そうだな」

「2回生から気づくんだよ。去年なんの疑問を持たずにレンタルしていた自分のエントリー機の性能を」

「まぁ、コンテスト自体の全般を見据える事が出来るようになったんだよ」

「機体のほんのちょっとの差だけさ、この気付きを活かせれば長い2週間での成果の差につながるのを経験で学んだんだよ」


「ふーん。いい事聞いたわ」顔色を明るくして頬杖をつきながらティーローズは僕らを見た

「うーん。いい事聞いたぞ」腕組をしながら椅子の背もたれに背をつけ天井を見上げたクマデはほぼ同時にティーと同じ考えの感想を言った。



「開発の観点から機体を見てるね」

「自社製品の売上成績の観点だよ」

僕とマスタードも感想を言い合った。

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