第4話 マスタードのオノマトペ
「ゲッ」と驚き顔を歪めるマスタード。
「まつげ色変えてる」とティーローズが彼を見て目を細めながら言った。
「なぁ、みんなエントリー機に仕様変更がある場合、どこから申請になる?レンタル会社?生徒から? 」
僕は気を取り直すようにここ数日保留していた疑問をクラスメイトにぶつけた。
みんなグレイティントの方を数秒無言で凝視していて我に帰ったように
「え?なんか言った? 」とティーローズが僕に目線を戻した。
「エントリー機が去年の仕様のままじゃない場合は、どちら側から申請するのかってことだよ」僕は質問を繰り返した。
「
「僕はイスパハンの所だから、やはり聞かないとだめだな」
「大体レンタル会社が代行してやってくれてるよ。そこまで生徒管理で書類管理できないよ」
「そうだよ。コンテスト自体に集中できない」
「聞いたよ、イスパハンの
「そうなんだ。僕も楽しみなんだよ。やはり休息時間の間、常にハントの事の考えたまま義務的に休んでしまう」
「でも、頭は常にハントの事だ。切り替えができないんだよ。経験としてね」
「あら、私5秒で寝れるわ。後半、気力体力が続かなくなるもの」
「だからさぁ。ノってくるんだよ。全身が頭が!次のポイント、小型機の調子、計画ルートと今の宙域環境…」
「分かるわよ。そりゃ軽い興奮状態というか。ハイになってるもの」ブリックの話しを遮るように話しだしたティーローズは続けた。
「でもそこを切り替えるのが賢い戦略よ。楽しいんだものもっといいコンディションで続けたいじゃない? 」
「それだよ。頭を切り替えるきっかけが球状ビューだよ!」
「……」横目で意味ありげにティーを見るブリックに
「なに? 」と答えた
「お父さんに停泊球状ビュー機能追加頼んでよ」
「あんな高機能仕様2ヶ月で機体改造できないわよ」
「ここにクマデがいたらな。色々聞けるのに」ピーコックブルーは今日何度目かの同じセリフを呟いた。
「整備科と接点がある授業は午前中ないわよ」
「昼休みかぁ」ブリックはためいき混じりに横を向いた。
13才のビエクル科初年度1回生から15才の三回生まで学年末の夏休み中にゲートハントコンテストは開催される。
コンテストは自由参加だがビエクル科の生徒はかなり成績加算が期待できること。専門的な知識を参加前に履修できる事、そしてなにより。発見したポイントの種類によっては宙域社会貢献、経済効果が期待できるという。大ボーナス効果が絡む特殊な課外授業である。
タンポポ先生は終業ベルに間に合わず、僕らは次の授業のために教室を移動した。
廊下は両端が重力コントロールで軽い歩幅で歩ける仕様、それ以外の中央部分は自分の足か、移動式の車輪がついたボードみたいなもので移動できるようになっている。
学園は宙域の中にポンとその姿を一見無防備に晒しているように位置する。
大きな球状の建造物でそれを覆うように指輪が三連重ねっている。このリングの中も、教室や学生達の寮の部屋がある。
がしかし実際は、学園関係者以外にはその宙域は立ち入り禁止で建造物自体が見えないようになっている。
財閥グループやなんらかの会社を興している家の子息子女が通う学園らしい
とにかく学園内は結構広いので履修している科によって移動方法が違い、この生徒はどの科をとっているか大体推察できる。
デザイン科は画材等荷物が多いのでボード使用者が多く。ビエクル科は基本徒歩でボードは使わない。整備科は両端重力コントロール出来ている端を使って移動する事が多い。
この学園の主要教室が集まっている場所は球状の建築構造だ。よって廊下は基本リング状でまっすぐ道なりに進める。
上階への移動は「
またその柱ベータには扉がない。
どうやって乗降するかというと。手のひらをかざして体内元素反応を得てそのまま体ごと柱表面を通り抜ける。手荷物程度も持ち込み可能。柱内内観は上下に伸びるチューブ状に見える。上昇する時はチューブ内部は点灯し、ずっと手のひらを内側側面に接触させて上昇移動する。なんとも奇妙な乗り方をするのだ。
最初違和感がすごいがこれに慣れると楽で大荷物がない場合の教室移動はこれを利用する。
また多くのデザイン科の生徒は別の荷物搬入等も出来る古典的なエレベーターを利用する。
柱は乳白色で使用中は乗降者達のシルエットが上下しているのが外観から良く見える。
一度に載る人数は多くて4、5人程度。もっと乗れると聞くが生徒が大人数で上下している光景はみたことがない。
毎年この柱ベータを初体感するビエクル科初回生の生徒に
「俺、生身でもギーコ力発揮できる」発言をする者がひとりふたりいるのだが、僕らの学年では予想通りマスタードだった。
全学年を通して生徒は主とする
また、生徒個人のバックグラウンドや将来の夢や生徒が希望する職種に就ける計画を持って選択したりする。
ペールイエローはビエクル科の教官の甥で将来はこの学園の教官職に就く予定だがそれらを踏まえもっと掘り下げた知識を得るためにも整備科にも就学する予定、よって卒業は僕らより1、2年後になる。彼の口癖は「超金持ち子息子女学園に俺だけ中流」とみんなを笑わせているが
この学園には財団級の子息子女から何らかの事業を興している会社を持つ子息子女が大多数であるけど、学園関係者の子息子女または親戚も一定数通っている。
このセリフを耳にする度、ティーローズは、
「(あなた)だけじゃなぁい」と優しさからの言葉か現実からの言葉かなんだか微妙に取れる返答をした回答会話をしている。
次の授業は学内建物施設のシュミレーションポッドでのレーダー読みと、緊急着陸対応テストだ。
学期末テストのスキル検査も兼ねている。先週からこれに向けて放課後補習を受けていた生徒も何人かいた。
マスタードは「俺、準備不足だから」と教官に頼み込んで補習を受けた。
実技練習は悪くなかったのを知る教官は「その時間あればゲートハントの準備すれば?」と困惑していた。
今回、練習用とは違う本試験用の大型ポッドは、ドーム型で外側から試験中の生徒はどんな様子か伺えない。
受験生徒が5人ずつドームの扉前に並び、その他生徒は向かいのベンチシートで個人が持ち寄った端末で予想試験内容をさらってイメージングするものがほとんどだ。
準備万端なのか、ひとりマスタードだけ目がランランとしている。
彼は初等科の1年からギーコの飛行授業は人一倍熱心で、その腕前は
ただ、あまり自分に関してはよく分かららないけど
良く言えば熱血と言えなくもない…が、まあ、うるさい。スキル練習時の彼はにぎやかなのだ。
実技授業中の己の動作を『こう、グリップを片手で持ちぃ…目線は目標対象物よりやや遠く』すべて口で発し、
またニホン語授業の影響か、『グン!としてす~っと…機体接触ぅ』と自身の動作とオノマトペまで口から飛び出るのである。
その目立つ授業態度は名物で実技でペアを組まされた他生徒は最初吹き出すのだが、授業が終わる頃はみんな遠い目になっている。
また、マスタードとティーローズが実技ペアの時は、2人が合唱で
『グンっ!としてぇす~っと…機体接触ぅ』
『このままぁ〜このままぁ〜位置保持ぃ』とギーコ力飛行の
この合唱が教官のヘッドフォンに40分ずっと届くので教官は授業中に吹いてしまう。
技術を会得したい情熱は理解するが何も口に出して操作練習しなくてもと誰もが思うのだ。
ティーローズはマスタードとペアになる時以外は静かである。
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