第3話 授業とゲートハントコンテスト
次の授業は実技に続き、3回生学年末試験要項と3年間続いた課外授業ゲートハントコンテストの最終年度の説明内容となった。
「今度のハントの成績によっては4回生の選択科目の高速機授業への申請が出来ます」
ビエクル科座学講師、タンポポ先生が説明を始めた。
元ビエクル科実技講師、実技教官定年後、ビエクル科に関わる事務事項等も把握しコンテスト実行の監督者のひとり。初老で禿頭おだやかな口調。110才。
顔色は日焼けのブラウンスキン。まつげは白く名前の通りタンポポの綿毛のようだ。
笑うと目元に大きな長いシワが3本。くっきりと出る。
「タンポポ先生、私のノート端末に高速機授業の申請書のシートが転送されてません」ティーローズが手を揚げた。
ティーローズはビエクル科女子。身長163センチ程で小柄、ボブヘアで大きな瞳と長いまつげが印象に残る。
最近流行りの光彩カラーをいち早く取り入れる女子らしいルックスだが、
彼女もビエクル科なのでデザイン科女子のような華やかなおしゃれはせず、どっちかというと僕らよりの制服姿が多い。
「お、これは失礼、珍しいですね。すぐ送りますよ」彼は手元のデジタル出席生徒名簿の端末の生徒配布書類に目を通した。生徒全員配布物の中に一つだけ○がかけた項目をすぐ見つけ、空白マスの部分をタップした。
「はい、送りましたよ。確認して下さい」
「届きました。ありがとうございます」
「他に手元の配布書類が不足している者はいませんか?」確認をクラス全員に促す。
数秒待ちながらクラス全体を見回し、
「では話しを続けますよ」と予め先生本人が用意していた、今日の説明内容を文字起こししたシートが生徒のノート端末に転送された。
彼の後ろの
クラスの上には小さな防犯風紀監視カメラが音もなく飛んでシートスクリーンの右上の定位位置に戻った。このカメラは数分に一度、教室の空中をランダムな飛行ラインで飛び、
学園の安全監視をしている。
このカメラを気にする様子の者はいない。
学園のデフォルトの風景だ。
「今回のゲートハントの規則事項の変更点について、規則事項に反する機体改良及び機体の申請後の改良は原則違反失格とする」
「2週間のエントリー期間の停泊休憩睡眠を18時間とする、2週間未満の場合はこの比率に該当する休憩睡眠時間とする」
「ここからは、ビエクル科としては、成績ポイントが一番重要と考えてほしい。この変更点に限ってはあまり意識しないで欲しい。」
「ゲート発見につく賞金は一律300万コーシ、ゲート商業運用化に関しては運用ロイヤリティーは発見者20%とする」
「まあ、成績が良かったら、奨学金も返せて、寮費や部費も卒業前に払い終えちゃう程度にという事だな」とブリックベージュは隣の席にいる僕に声を潜めて言った。
「シンシャ星系からの留学生のガーネットフロー、去年10位入賞で今年の学期末前に奨学金の返済、終わらせたみたいよ」
僕の前の席のティーローズが振り向いて言った。
説明中にヒソヒソ話が聞こえたタンポポ先生が僕らを一瞥した。
「…続けるぞ。エントリー前の身体検査合格者のみコンテスト参加を許可する。
これは学園生活時及び授業履修中の身体能力申告以外の身体改良及び追加能力、
例)眼球にウェーブ機能WAVを有する手術等を施すなど、またはこれらに類似する身体改造は違反となる。上記の改良改造は失格とする」
「以上、去年からの大きな変更点は3つだ。ここまでで何か質問はありますか? 」とタンポポ先生が教室全体を見渡した。
「…はい。」生徒からの質問がないので先生は続けた、
「では、今年もエントリー前のゲートハント規則事項の認知○✕テストの用紙を提出すること。今週末までです」
「これは、君らのルール認知度を見るものなので、全問正解でないと再提出になります」
みな一様に自分のノート端末を見るために下を向いた。
同様の内容が後ろのシートスクリーンにも映し出された。
一番上の説明にルールブック同時閲覧での回答可の文字が大きく書かれていた。
「とにかく認知度100%評価で提出」
「この後の休み時間に提出でもいいぞ、答えて100%評価は、すぐ実行委員会にあるハント参加者名簿に反映されて登録になります」
「先生、つまりは100%評価になるまで何度もトライして、100%にならない場合は参加出来ないってことですか? 」
マスタードが先生に問いかけた。
「そうだ。例年通り、コンテスト前の書類提出。コンテスト当日朝の検査試験。こまごました書類や規定事項を揃えなければならないので、自分の参加者シートで、どの書類が提出済みでどの書類を用意しなければいけないかリストで各自チェックできるようになっていたが」先生が後ろを向き、次のページを表示した。
「今年からグラフで可視化してあるから、未提出のものが一目瞭然になった」
「おっ。わかりやすい」とピーコックブルーが小さく呟いた。
「これらでコンテスト当日まで書類管理、確認等を行い、事務手続きでエントリー不可能になったというのはないように…いいね」
と再び教室を見渡した。
「次はエントリー小型機についてだが」
ピピピととタンポポ先生の腕輪から音がなり、彼は手元を確認しているようだった。
「アー授業中だが緊急の呼び出しがあった。残りの時間は各自、先程の認知テストや提出書類を確認してこの教室内で出来る事をすすめていてくれ」
と次の書類の精読を説明した。
「まあ、お前らに限って問題はないと思うが、騒いだり、教室内の立ち歩きの問題行為は厳禁だからな」
この授業が終わる前に先生が戻らなかったら次の授業のクラスへ移動してくれの説明がないままタンポポはそのまま教室を出た。
生徒たちはその様子を見て口々に「慌ただしいな」「また? 」ともらしながら、各々自習体制に入った。
ブリックベージュが
「オレ、認知度テスト、今提出終わったぜ」
と言って右後方のシーグラス達の席を見て笑った。
真後ろの生徒が一瞬除く様にブリックの机を見た。
教室は階段状になっていて、この教室は生徒2人が並びで、4席分スペースがある。
1人2席分のスペース。4席刻みの間に階段通路になっている。
クラッシックタイプの教室だ。
「おい、グレイティント見ろよ」と教室の男子生徒が囁いた。
教室一番前の席に居ない場合、一番後方の中央の席を好む彼は大体そこに座っている。
僕が振り向くと彼が新しい髪型になっている。
「…オールバックになってる」額に行く筋か前髪はおちているが、髪を後ろに全て流している。
グレイティント本名ダミアン・フーベルト・ファンデルウェイデン。
彼の実家はハイクラス動力エンジン開発会社、動力エネルギー採掘会社等、複数の事業を興し、我が星系にウェイデングループ企業の名を知らないカイヤナイト人はいない。
実家の会社の動力エンジンはまだ一般の船に搭載されないもので僕の父親の輸送業の仕事では彼のウチの製品を多く取り扱い、依頼を多く受る。特にこのハイクラス動力エンジン輸送時には護衛の船が2隻つく程だ。
彼の家は今や財閥グループになる勢いの中、彼の日々奔放な態度が他生徒との距離を作り、今は孤立している。
同回生はそんな彼をいつも注視している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます