第2話  初実技授業 練習機ヤモリのように跳べ!


 ファンデルワールス力、またはゲッコー力、ヴィエクル科でこの実技授業を避けて通る事は出来ない。


宙域で遠くへ飛ぶという目的の宇宙船乗り物はいくつか種類がある。

速く飛ぶ高速機、輸送目的の輸送機、単体で飛ぶポッド機など。

また働く乗り物には、船舶廻りの整備船。等


 ヴィエクル科1年の実技の初授業はこのファンデルワールス力からである。

まず生徒は座学で学び、この授業の大切さをコンコンと教えられる。

そして実技当日、教官達はいつもこう思う。

初等科のプールで泳ぐ園児のようだと。とにかく、生徒達の歓声がうるさい。


 実技の内容というと、宙空飛行は常に何もない真空を飛ぶばかりではない。

宙域に障害物、大小様々な惑星、またその破片、人類の生み出した有機物サテライトやそれらのデブリ等沢山宙域には存在する。飛行すればぶつかるので迂回、回避以外、衝突という概念になる。このファンデルワールス力はカルシウムケイ素とリフレクチンを施した機材で設計された練習機にのる。


 そう、まるでヤモリのように、障害物にピッタリくっついて衝突を回避。または対象物に対しピッタリくっついて静止。静止して決めた範囲で前後左右機体を動かす。もしくは衝突寸前に対象物の側面を撫でるように機体を添わせ飛行する。そのテクニックは上級クラスになるまで求められる。難易度の高い授業なのだ。


 ヴィエクル科の1年はまずファンデルワールス力専用の小型練習機ポッド機にのり、学園のすぐそばにあるファンデルワース専用の練習場で初実技である。すぐ隣の本格的な惑星やスクラップ船舶が並ぶ練習場は上級生が本物の機体で飛来し、ピッタリくっついたり離れて飛行していく実技訓練中だ。


 それを見ると、1年生が使用する練習場は子供用のプールの面持ちに見える。丸い球体に線が描かれており。ここに静止!という印がつけられ、動いてもこの線内という印だ。

この球体が円形の弧を描くように並んでいる。教官機がその円球状の多数の球体の周りを回って、各機体に指示を与えたり、全機体に指示を与えたりする。教官機1体だけでは授業指示が行き渡らないので、ここでスーパー教官補佐のピンクリザードが登場である。名前の通りピンクゴールドに光る肢体に手指のつめ長く人形ひとがたなのだが真空を短距離でジャンプし、各球体を周り生徒の安定しない揺れる機体をサポートする。練習用の球体から球体へ。

 この人爬虫類じんはちゅうるいの教官は学園寮から一番近い惑星オンブレ通称タレソカレ出身。タレソカレは赤色矮星せきしょくわいせいに近く潮汐ロックされている。太陽系でいうと、地球と月の関係だ。月は地球に同じ顔しかむけていない。赤色惑星の影響でその惑星は昼夜がなく、惑星の3分の一は夜の永久凍土区域。真ん中は永遠の黄昏たそがれ区域、もう3分の一は赤色矮星側は永遠の灼熱区域。タレソカレの全ての生命体はその黄昏たそがれ区域出身なのだ。


 生徒達は座学でこの力の鍛錬の大切さを学んで挑む。実際、実技授業が始まると目新しい練習場。自分のポッドが定位置に定まらないもどかしさ。インディゴブルーと白い球体の視界に突然飛び込んでるピンクゴールドに輝く人爬虫類じんはちゅうるいの教官補佐。


 何もかもが1分1分がいろんな驚きで50分授業があっという間に終わる。実技の初日の生徒全員は叫び続けた50分は汗とともに疲弊し、ポッドから発着デッキ、「キスアンドクライ」に降り立つとみんな崩れるように床にに突っ伏す。用意した水分を無言でゴブゴブ飲む生徒。仰向けに手をつき鉄亜鉛混合の高い天井を見上げて

『分かっていたけどぉ。気持ちに操縦が追いつかなぁい』と実技の難しさを吐露するもの。仰向けに倒れて横を向き目をつむってじっとしてるもの。だいたい全生徒はいずれかの様子で初実技を終わる。

 生徒が全員この発着上キスアンドクライに帰還してるのをピンクリザード教官補佐に報告を受けた本教官はニヤニヤ満足そうに生徒達を眺めるのが毎年の通例である。


 発着上の昇降上部、上の移動タラップでは3回生の僕たちが、

「おっ、なんか賑やかとおもったら1回生、今日が初日か」と彼らの様子を横目で見ながら次の教室へ移動した。

「シー、ピーコック!」

と聞き慣れた声がしたと振り返るとハマヤが僕らに足早で追いかけてきた。

同じヴィエクル科のクラスメイト達、ティーローズ、ブリックベージュ、マスタードらが(先行ってるよ)とジェスチャーで振り向きながら僕らを追い越して歩いていった。


同学年の3回生ハマヤはデザイン科だ。身長は165センチと小柄で肩までの髪をいつも変わった形に髪を結っていて。ヘッドドレスとかいう変わった髪飾りを着けている。

制服もデザイン科らしく何種類かある制服をどの科よりも多く着ている。ワンピースのような黒一色のスカートが長いもの。かと思うと、基本的な短いプリーツスカートとジャケットを着ていたりする。ネクタイやスカーフみたいなものも規定範囲で楽しんでいるようでとにかくこの科は派手である。

また女生徒はその制服を風を翻す裾さばきで歩いて行く。制服込みで学園生活を楽しんでいる様子がなんか直視できないのだった。


 僕はビエクル科で、制服も1種類のみの着用。実技演習のつなぎが一番落ち着く。ほとんどのビエクル科の生徒は僕とご同様だ。

 「良かった間に合って、今度のハントコンストの計画表提出した?って父さんが知りたがっていたわよ」と首をかしげながら弾むように話す。

「それよりさぁ。クマデに聞いたんだけど」とピーコックブルーがハマヤに声をかけた。

丁度、バテている1回生の左横の発着デッキにいる整備科3回生のクマデが僕らのいるのがタラップから見えた。クマデはハマヤの双子の兄だ。

 ピーコックブルーは目線でクマデを見て続けた。


 「今年のイスパハンの親父さんとこのレンタル機改良されたって聞いたけど」

〈ローザイスパハン〉という小型レンタル機・製造販売を営むハマヤとクマデの父はイグドシナル学園のゲートハントコンテストの小型機のレンタルをしている。

 「ああ。その事、外観モデルはそのままでマイナーチェンジ程度だけど…機能的にいくつか改良されて目新しい機能があるわよ」ハマヤは明るく笑いながら答えた。

「停泊時・球状ビューは本当?」興味深そうに聞いている。

「あら、ピーコックブルーはてっきりティーローズの小型機フローラでいつもエントリー申請でしょ?クマデから聞いてるよ。あれでエントリーするとゲンがいいって」とハマヤが含み笑いをしながらウチのレンタル機にするの?という感じで答えた。

「2週間のハント期間中、退屈はないけどさぁ。孤独なんだよな。少しでも外洋宇宙で寂しくないようにだね」と次の授業のため立ち話だった3人はタラップ上の廊下を歩きだした。

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