創造のスペクトラム

鈴香 早緑子

第1話 屋台グルメとコンテスト


「ついにやって来た!」

僕は興奮気味に相棒に声をかけた。円形に触手がある宙域海洋生命体の相棒のスックは、

「見ろよシー、一年ぶりだ!」と僕と同じ興奮度で答えた。

彼は見た目、頭が△の白いイカに似ているが、サメハダホオズキイカと云う種類の地球の深海に泳いでいるイカに更に類似した容姿。僕の頭付近を常に飛んでいる。



 ここは地球の上空約400キロの屋台サテライト。全長およそ5キロの細長い人工衛星建築物で出来た屋台市場の会場だ。

僕は右手に巻いてある小型端末を入り口右手横にあった屋台案内所に向け注文書が最新版になるように更新した。


 僕はシーグラス、今年十五歳になる。カイヤナイト星系出身で今ここの屋台サテライト建築物の下に見えている地球から移民として220年前に僕らの先祖が別銀河へ移住した。

今いる僕らのシード銀河カイヤナイト星系だ。

僕は、3日前の古典楽器演奏で学年末試験の最終日を迎え、ようやくこの日を迎えた。

今は学園の夏休みを利用したコンテスト参加中。ビエクル科在籍で学科名の通り宇宙船からひとり乗りのポッドバイクまでいろんな機種を履修する。


 趣味は食べ歩き。1年生で夏休みにゲートハントというホワイトホールを見つけるコンテストに毎年出場する事になって以来、ますますこの趣味に火がついた。

カイヤ人、といってもほとんどすべての外宇宙人類はめったに降りることができない地球は憧れの惑星だ。


 僕もその例にもれず、学園の視聴記録映像室にある地球の様子。地球史の授業でみる地球人の文化記録映像。地球の2世紀前の映画やニホンのアニメ。

 これらを見るたびに恋するように地球を想ってしまう。学園の同じ科の同級生やほぼ全ての学園の生徒も同様である。


 「さあとりあえず、実際の屋台料理とお店チェックだ」と僕の顔の右斜め上に浮遊するスックを促して歩き出した。

「地球には降りれないが、年に一度太陽系に来られるようになって、地球名物の屋台サテライト会場に立ち寄ることができるのは最高だな!」スックがほんのり自分の表体の色をオレンジ色に変えながら答えた。彼は興奮すると表体の色が変わる。


「カイヤナイト星系では学生の未成年は外宇宙への渡航許可は普通降りないからね。」と結構な人混みの中、屋台看板や作られてる料理を見ながらスックに答えた。

「地球史の授業で見る記録映像のアジアの屋台そのものだよ。看板もレトロでニホンの文字や僕らの使う地球の古典文字もちゃんと書かれてる。」と僕は看板を指さした。


 屋台の店が2キロに渡り両側にズラリと並び、客の往来はその中を地球人風にいうと時計回りに進んでいる。屋台の主人達は地球人が7割ほどで、ほとんどアジア人の風体の人、もちろんニホン人もいる。

建物内の客層は、いろいろで人類種以外の風体の人も中にはいるでも木星の補給ステーションで見る強面の人類種はいない。


 僕は身長(175センチ)で髪の色はカイヤ人らしくほぼ光源と大気粒子によって色が変わる髪色。ほぼ銀色に見えるが毛先が濃い緑になったり、襟足の根本が緑になったりほぼ2色。僕の学園の生徒はもっとカラフルな派手な色の髪が多い。僕は面倒なので寮にあるヘアサロンでカットしてもらうとき母似の髪色に1色足す程度。

シンプルにしてもらっている。


 父が大型貨物船の輸送業を興していて、十二才でこの学園に入学するまでは、いろんな銀河の輸送先を行き来する父の仕事の船で幼少期を過ごした。

いろんな銀河の首都星はもちろん、辺境銀河系の新興惑星や開拓中の惑星など数百ほどの星々を訪れた。

一年の大半は貨物船で過ごし、父や乗組員、貨物船のスタッフと家族の様に過ごし、色んな事を学んだ。

一年に一度、教師をしている母の待つ家に父と帰り、共に過ごす。そんな日々もとても楽しかった。


 この頃に僕はスックと出会った。僕が学園に入学する一年程前の事だ。

もともとの父親の考えと僕の自然な欲求による希望が合致していた、今のイグドナシル学園に入学があっさり決まった。

全寮制、955人の学生がここで学ぶ。

 父は僕の年頃に近い友人をつくり、一緒に生活する環境で学ばせたい。と、

僕の父の船やその船に係る乗り物以外も履修したり免許習得したいという僕の宇宙船乗り物好きの希望だ。


 「見ろ!ブリックベージュがいる」スックがちょっと興奮気味に白いつなぎを着た背格好の同い年くらいの男子を指さした。

ブリックは別星系でコンテストに参加している筈なのにと思いながら僕はその触手が指す方向を見た。

人混みが多く、確認しづらい良く目を凝らして見ても……やはり別人だった。

「違うよ他人の空似だよ」と彼に告げる前にスックは確かめに飛んでいき、またこちらへ飛んで戻ると「違った」と苦笑いした。

ブリックに似た派手な髪色だったせいだ。


 同じビエクル科でこのコンテストに参加しているブリックベージュは医療器具メーカー『シュトラウス』の息子で、彼の姉さんは医療美容医師だ。

そのお姉さんが学園内にクリニックシュトラウス美容クリニックを開設していて、月に一度やって来て生徒や職員の往診をしている。

そのクリニックに通うのはほぼ女生徒と職員が多い。それとは関係ないが彼は半年に一度髪色が変わる。

そんなブリックはヘアサロンには通うが姉さんのクリニックには通っている気配がない。

女生徒に人気のクリニック医師の弟はヘアカラーチェンジもまた目立っているようだ。

彼女らにクラス移動やカフェテリア等でよく質問をうける姿を目撃する。

また思春期らしく女子っぽさがが感じられるクリニックとは距離を置いてる風に見える彼はこれらの質問に曖昧に答えているようだ。


 今日の僕の服装というと、去年ここに来た時と同じ、ビエクル科の実技演習授業。いわゆる実機乗り授業で着用する一番地味な白つなぎを着ている。

コンテスト時の参加服装規定でもこのつなぎは推奨されていて、太陽系でも目立たない。他星系にも溶け込んでみえる服装だからだ。

外宇宙での事故防止のため、未成年の僕らは参加規定書によりとても細かくルールを設定された行動規範を遵守する。

学生の単独行動、もっぱら保護者、監督者のいない環境でコンテストに参加することはそういうことだ。

白く見える髪に白いつなぎ、白っぽい海洋生命体と白のコンビは会場を散策始めた。



「シー!鈴カステラがある」

相棒のスックに急かされて、さあとりあえず実際の料理とお店チエックだと歩き出した。

僕は右手に巻いてある小型端末を入り口右手横にあった屋台案内所に向け注文書の最新版になるように更新した。

   



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