第7話 人形医
人形医は読んで字のごとく、人形を専門に扱うお医者様のことです。
元々、祖父が人形医として開業し、そこにお嫁に来た祖母が看護師という形で日夜、人形の治療を行っていたそうです。
始めのうちは近所の子どもたちが持って来た人形やぬいぐるみの修理、洗浄などを行っていたそうなんですが、いつの日からか曰く付きの人形やぬいぐるみの供養も請け負うようになったと言います。
そんなある月夜の晩。
突然、自宅の扉がノックされたので開けてみると、そこには真っ赤な着物姿の日本人形がちょこんと立っていたそうです。
初めのうちぎょっとした祖父母も、泣きながら「持ち主に捨てられた」のだと語るその日本人形を見て哀れに思い、家の中に招き入れたそうです。
「さぁ、外は寒いから中へお入り。怪我してないか診てあげましょう」
看護師の祖母に抱きかかえられたまま、その人形は人形医である祖父の診察を受けたそうです。
幸いにも人形は腕が少し曲がっていただけで、代わりの腕を移植し、破けていた着物は祖母が手術の合間に針と糸で繕ってあげたそうです。
「終わりましたよ」
手術が終わり、綺麗に繕った着物を羽織った人形は嬉しそうに姿見の前ではしゃぎながら、何度もポーズをとっていたそうです。
「 あ り が と う ご ざ い ま し た 」
人形は丁寧にお辞儀すると、再び自らを捨てた持ち主の元へと帰って行ったそうです。
それ以来時折、祖父母の元には身寄りのない人形や夢遊病の人形たちが夜な夜な訪れるようになっていったと言います。
やがて祖父母の自宅は入院中の人形や保護した人形たちでいっぱいになり、最終的に自分たちの部屋までそういった人形たちで埋め尽くされていったと言います。
日に日に髪が伸びる人形。
持ち主の死後、悪さをするようになった人形。
真夜中、トイレに向かうようになったぬいぐるみ。
等々…。
またある時は、押入れの中から泣き声がすると連絡を受けた祖父母が訪問診療に向かうと、押入れの中で首を括っていた大量のぬいぐるみたちを発見したり、鼠に食い破られて治療不可能となった人形と対面したりと、悲しい思いも度々してきたと言います。
そんな祖父母も数年前に相次いで他界し、その後は娘さんが人形医を継いだと言います。
─────そう語るのは、最初に祖父母の元にやって来たあの日本人形です。
今はこうして私の手元におりますが…
まぁ、その話はさて置き、現在は私が人形医院の医院長をやってる次第です。
早い話が人形医であった母の死後、私が継いだというわけです。
─────おっと、すいません、つい長々と話し込んでしまいました。
どうやら急患のようです。
もし、アナタも人形でお困りのようでしたら、遠慮なく当医院にご相談下さいませ。
それでは。
【人形心療内科・外科医院 院長】
了
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