第6話 校舎の目玉

以前、私が通っていた中学校の壁に突然「目玉」の落書きがされるようになったんです。


最初は生徒の悪戯だろうと教職員も軽く考えていたんですが、翌日もまた一つ「目玉」が増えている。


気が付けば校舎の至る所にその不気味な「目玉」の落書きがされており、学校側も流石にこれは悪質だろうと全校集会を開き、生徒らに厳しく注意しました。


しかし、それから数時間も経たないうちにまた一つ新たな「目玉」が増えていたんです。


今度は職員室前の壁でした。


生徒も職員もその時、体育館にいたため実際、犯行を行うのは不可能です。


ともなれば犯人は外部の人間である可能性が非常に高いのです。


これはいよいよマズいことになった。


事態を重く受け止めた学校側は監視カメラを設置し、教職員の巡回も改めて強化しました。


しかし、そんな学校側の行動を嘲笑うかのように「目玉」はまた一つと増えていく。


今度は三階女子トイレの壁。


そのうち踊り場、廊下、天井など「目玉」は瞬く間に増殖していき、箇所を挙げれば枚挙にいとまがないほどでした。


「ねぇ、また新しい目玉が見つかったらしいよ」


「今度は音楽室の壁だって」


朝の教室は「目玉」の話で持ち切りで、教職員は連日頭を悩ませていました。


しかし、どんなに警備を強化しても校舎内の「目玉」は増えていく一方でした。


しかも不思議なことに監視カメラをいくら確認しても犯人はおろか、それらしき人物すら映らない。


まるで犯人がカメラを熟知しているかのように、死角を狙って犯行を重ねていく。


これには流石の警察もお手上げで、もはや人間技ではないと首を傾げるばかりでした。


生徒らは更に興奮し、中には恐怖で学校に来れなくなる生徒や転校していく生徒なんかもちらほらと現れ始めました。


もう駄目だ…


誰もが諦めかけていたその時、新たな校長が赴任してきたんですが、この校長がとても変わり者で、校舎中に浮かび上がる無数の「目玉」を前に歓喜に満ちた表情を浮かべていたんです。


それも恍惚とした表情を浮かべながら、愛おしそうに目玉を撫で回す。


その姿は傍から見ても明らかに異常でした。


「なんか変な校長が来たね」


「頭おかしいんじゃね?」


生徒らは口々にそう言いましたが、校長はそんなことなどどこ吹く風。


まるで生徒なんかよりも壁中の「目玉」にしか興味がなさそうに見えました。


しまいには校内で「目玉コンテスト」を開催したり「月刊目玉会報」なんていうふざけた印刷物まで発行し、その「目玉」に対する愛着ぶりは校内でも折り紙付きでした。


噂ではあの変わり者の校長が「校長の座」につくために何か黒魔術的なことをして前の校長を追い出したのではないか、と陰で囁かれてますが、真偽のほどは定かではありません。


─────あれから数年、校舎の「目玉」は本当にこの学校の目玉となり、今でも「物好きな人間」と不気味な「目玉」でいっぱいです。了

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