第5話 妖怪テケテケ
アナタは『テケテケ』の噂をご存知でしょうか?
90年代に爆発的に流行した都市伝説に登場する妖怪で『口裂け女』や『トイレの花子さん』などと並んで遍く私たちの間で知られている噂の一つです。
『テケテケ』は放課後の校舎によく出没し、窓辺から生徒に向かって手を振るそうなんです。
「あんな生徒いたかな?」なんて不思議に思いながら手を振り返すと、途端にこちらに飛んで来て「テケテケ」と物凄いスピードで追いかけて来る。
その姿は上半身のみで、両肘を足のように使って追いかけて来るそうです。
私が小学生の時、この「テケテケ」を見たと言う生徒が隣町にもたくさんいました。
今からご紹介する話は、そんな私が小学生の時に直接担任の教師から聞いた『テケテケ』に関する体験談です。
────今から数年前、その担任の教師が教師になって間もない頃、赴任先の中学校の校舎で奇妙な女子生徒を目撃したそうです。
それは決まって放課後の校舎に現れ、いつも窓辺から校庭、もしくは対面校舎に向かって手を振っている。
居残り生徒だろうか?
担任は不思議に思いながらも、とりあえず注意だけしようとその生徒のいる教室まで向かったそうです。
しかし、担任がその教室に着くと、決まって誰もいない。
あれ、可笑しいな?帰ったのかな?なんて思っているうちに今度は対面校舎にある被覆室の窓辺から手を振っている。
「あの生徒、自分をからかっているつもりだろうか…」
次こそ注意してやろうと、担任は渡り廊下を早足で進み、急いで被覆室へと向かう。
そして扉を開け「コラ!!早く帰りなさい!!」と怒鳴ると、やはり教室の中には誰もいない。
「そんなバカな…」
ひょっとして隠れているのか?と、担任は教室中をくまなく捜してみるが人っ子一人いない。
これは流石に可笑しいと思った担任は、再び窓の外に目をやると、今度は先ほどまで自分がいた校舎の窓辺にあの生徒が立っている。
担任はここで初めて背筋に冷たいものが流れるのを感じたと言います。
もしかしたら、あの生徒は人間ではないのかもしれない…。
すると窓辺にいたその女子生徒がすーっと隣の窓辺に移動したかと思うと、今度はその隣の教室、そしてまた隣の教室へと移動して行く。
「えぇっ!?」
担任はつい声を漏らすと、ただ茫然とその光景に見とれていました。
そして気が付いてしまったのです。
あの女子生徒が少しづつ、こちらに近づいているということに…。
「これはマズいことになった…」
身の危険を感じた担任は急いでその場を離れると、一目散に階段を駆け下りて行った。
そして汗だくになりながら校庭に出ると、急いで校舎の方を振り返る。
すると、一階の窓辺にすでにあの女子生徒が立っており、不気味なほどニタニタと笑みを浮かべながら「せんーせー」と、手を振っていたそうです。
担任はぎょっとして後ずさりすると、今度は背後の窓から「せんせー」
そしてその上の窓からも「せんせー」
そして右の窓から、左の窓から、その上の窓から、その下の窓から、
「せんせー」
「せんせー」
「せんせー」
「せんせー」
「せんせー」
そのうち校舎中の全ての窓から同じ顔の女子生徒が一斉に「せんせー」と言いながら手を振ったそうです。
担任は絶叫し、その場で蹲ると今度はぴたりと声が止み、静寂に包まれる。
担任は恐る恐る顔を上げると背後からいきなり
「テケテケテケテケテケテケテケ!!!」
なんと上半身だけのあの女子生徒が不気味な笑顔で担任を見下ろしていたそうです。
「うわぁあぁああぁあぁあぁっっ!!」
その顔には目と鼻がなく、ただ真っ赤に避けた口が歓喜に満ちたようにびちゃびちゃと西日に照らされて光っていたそうです。
担任はそこで意識が途絶えてしまいました。
次に目が覚めた時、辺りはもうすっかり暗くなっていて、どこにもあの女子生徒の姿は無かったそうです。
一体あれは何だったのだろうか…。
後日、担任は長年勤めるベテラン教師に昨日あったことを全て打ち明けたそうです。
すると彼は笑いながら事もなげに一言こう言ったそうです。
「もう出会ってしましましたか」
担任はわけがわからず当惑していると、ベテラン教師はコーヒーを啜りながらこんなことを語ってくれたそうです。
「先生が昨日遭遇したモノは、恐らく子どもたちの間では『テケテケ』なんて呼ばれている妖怪ですよ」
「テケテケ?」
「ええ。この学校も古いですからねぇ。色々なモノが棲みついているんですよ。ほら、先生も昔聞いたことがありますでしょう?『口裂け女』『トイレの花子さん』。時として我々教員はそんな子どもたちの言霊が生み出した魔物から生徒たちを守らねばならない時が来るんですよ」
「はぁ…」
「まぁ『事実は小説より奇なり』と言いますからねぇ。先生も頑張って下さい…ああ、そうそう『テケテケ』に追いかけられた時は、地べたに伏せるのが一番いいと聞きましたよ。なんせ『テケテケ』は急には止まれないみたいなので、そのまま壁に激突して消えてしまうみたいなんです」
是非、お試しあれ。
ベテラン教師は最後にそう言うと、静かに職員室を後にしました。
────以上が担任から聞いた妖怪「テケテケ」に纏わる話です。
いかがでしたか?
皆様は信じますか?
「事実は小説より奇なり」
次に『テケテケ』に遭遇するのはこれを読んでるアナタかもしれませんよ…了
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