産声
怪人。
彼らは十数年前に突如現れ、その度に人類社会に甚大な被害を齎した。
人の形をした自然災害と形容されるように、ただの人間はおろか、軍隊でも対処することは不可能に近い。
しかし、出現するタイミングも場所も規則性がなく、一度現れたら最期、逃げ延びられるかどうかは分からない。
『よぉーし、今日はお父さん有給とったから一杯楽しむか!!』
『やったー!!』
『そろそろ産まれるんですって……楽しみね、私たちの子ども』
『あぁ、そうだな。いつか三人で出掛けられると思うと、とても楽しみだ……』
『ねーねーお兄ちゃん!早く行こーよ!』
彼らの行動原理は不明。オカルト的な話では、人間によって環境破壊が進んだ結果、地球が増えすぎた人間を減らすために遣わした使徒であるとか、人体実験の結果誕生した生物兵器などがある。
しかしどれも眉唾物に過ぎない。
なぜなら彼らは、平穏な日々を全て奪い去っていく災害に過ぎないのだから。
『うぅ”っ!?』
『きゃあぁぁーー!!!』
『怪人だ!早く逃げろぉ!!』
『お、お前だけでも逃げるんだッ!』
『お兄ちゃんッ!お兄ちゃんッ!ねぇ助けてよ!!』
阿鼻叫喚。
その四文字が似合うほど、街は騒然としていた。
怪人出現の警報が鳴り響き、悲鳴をあげて逃げ惑う人々の声色を掻き消す。
「アー、マタ増えてマスネェ。トイウカ、貴方達増えすぎナンデスヨォ」
『うぁぁっ!?』
『あがっ……』
予告もなく現れた小柄な怪人は、不敵な笑みを浮かべて佇んでいる。鰻のような見た目に、バッタのように鈍色に光を反射する甲殻を持つ怪人の身体には、ビリビリと電気が迸っている。
半径十メートル以内にいた人達はその電気だけで既に事切れていた。
彼は静電気怪人『ケプラー』。半年前市街地に突如現れ───
『け、携帯が動かない!?』
『誰か助けを呼んでくれ!』
「アハ、ムダですよムダ。ヒーローを呼ぼうとシテモ、ワタシノマワリでは使えませンヨ?」
『う、うわぁぁぁぁーーー!!』
───二万人余りの“命”を奪った。
ケプラーの特性として常に電磁波を纏っており、その周囲ではスマホなどの電子機器が意味を持たない。つまり、警察や怪人の対抗種となるヒーローを呼ぶことが出来ないのだ。
怪人が腕を一振すると、それだけで何十人もの人が地面に倒れて死んでいく。強力すぎる静電気によって身体の細胞が破壊されてしまうからだ。
『ちっ、クソ怪人がァっ!』
逃げ延びる人々の中にも、怪人の出現によって携帯化されている銃を使って反撃しようとした者もいた。
が、カンッという情けない音を立てて銃弾は弾かれてしまう。
流れ続けている電気を防ぐためか、ケプラーの身体は頑強だ。どんなに鋭い刃だろうが銃弾だろうが、傷が付けば良い方で、ほとんどダメージを与えられない。
「だァかァらァ、ムダだってイッテルじゃないですかァ?」
『ガァァァァ!!?』
それでも諦めずに発砲を続ける男だが、嘲笑しながら放った電気攻撃によって、二度とその指が引き金を引くことはなかった。
怪人ケプラーはその者の命が消えたことを確認すると、再び人の虐殺へ映った。
腕を振るだけで人が死に、その度にケプラーは喜びを隠さずに“嗤う”。
残虐非道、邪智暴虐、邪悪の権化───これが怪人だ。
「そんなの、
人々が幼子に潰される蟻のように惨めに殺されていく惨劇を眺めながら、俺は誰に言うでもなくそう呟いた。現代社会において、怪人が現れた瞬間に人の命は軽くなる。
ヒーローという助けの手が来るまで、抗う術を持たない一般人たちは逃げるか隠れるか、はたまた殺されるかという空間に晒され、呆気なく散っていく。
後は遅れてヒーローがやってきて、倒したら万々歳だ。
死んだ人間のことなんて考えられてないし、それよりも街の復興を主として、殺された人間はしょうがなかったで済まされてしまう。
はっきり言って腐ってる。
ヒーローがいないと生きていけない社会?なんだそれ。
抗うことが出来ずに死んでいくことしか出来ない世界?ふざけるな。
やる気を出せば一般人だろうと怪人を倒すことが出来ると、俺はその証明を今から成し遂げる。
俺みたいなちっぽけな餓鬼でも、ヒーローに頼らずに生きていける証明をして、ヒーローという存在を否定する。
ヒーローにしか倒すことが出来ない怪人も、ヒーローに縋る人々も、ヒーローばかりを称えて死者には何もしないこの世界も───俺は全てを否定する。
「行くか」
腰に提げた拳銃と大型のナイフを撫でながら、俺は怪人に向かって歩く。
蜘蛛の子を散らすように逃げる人達とは対照的に、俺と怪人の距離は縮まっていく。
そんな俺を人々は何と呼ぶだろうか。
愚者?キチガイ?あぁ、なんともでも言えよ。
誰がなんと言おうと、誰が俺を糾弾しようと俺は変わらない。
だがそうだな、もし俺を罵倒せずに賛同するものが居るのなら……俺はこう名乗ろう。
───“
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