第8話 主人公
教室の入り口で呆然としていると、ジャック先生が指を刺した。
「自身の席に着きなさい」
「はい」
言われるがまま席に着くと、隣に座っているイリナが言う。
「久しぶり」
「久しぶりか?」
ほぼ毎日のようにお見舞いに来てくれていたため、久しぶりという感じがしなかった。
「学校ではってことよ‼」
「そ、そうだね」
二人で話が盛り上がっていると、ジャック先生が咳払いをした。
「え~と、ダイラルくんもクラスに合流したことなので、明日からの予定をお伝えいたします」
前期に取る授業を明日までに決めなければいけない。内容は、午後から行われる必修科目以外の選択必修、自由科目である。
「いきなり言われて困ることもありますが、状況判断をすることも見ておりますので、きちんと自身に合った授業を選択してくださいね」
ジャック先生はその後、今日のスケジュールを説明して教室を後にした。
(いやいや、そう言われても早すぎないか?)
学院に戻ってから、一日しか猶予が無いっておかしいだろ……。選択を間違えたら、半年間は無駄にするってことだもんな。
机に乗っている履修表と睨めっこをする。
(どれを取ればいいんだ?)
はっきり言って、選択必修一つと自由選択一つを取らなければいけないのが思い浮かばない。
そう考えていたら、イリナが椅子を近づけてきた。
「ダイラルは何を取るの?」
「え?」
「え、じゃないよ‼ 何を取るの?」
イリナは顔を近づけてきながら問いて来た。
(何を取るって言われてもなぁ)
聞かれたところで分からない……。
「あ‼」
俺の言葉にイリナは首をかしげる。
(取る授業なんて簡単なことじゃないか)
ニーナとレオンが取る授業を取ればいい。そうすれば二人をくっつけることが出来る。
二人の方を向くと、俺同様に履修表と睨めっこをしていた。
「イリナ、一つ聞いてもいい?」
「何?」
「あそこに座っているレオンくんとニーナさん仲いい?」
「全然。しゃべったことも無いかな?」
「え?」
イリナの言葉に驚きを隠し切れなかった。
ストーリー通りならすでにイリナとレオン、ニーナは知り合いになっているはずだ。それなのに話したことがないってどういうことだ……。
「ダイラル、あの二人がどうかしたの?」
「いや、何でもないよ……」
(どうしよう……)
本当ならイリナ経由で二人と仲良くなって、ニーナとレオンをくっつける予定であったのに……。
そう考えていると、レオンが俺の元へ駆け寄ってきた。
「なぁ、ちょっといいか?」
「う、うん」
「まず自己紹介からだな。レオン・ベルトって言うんだ」
「知っているよ、俺はダイラル。よろしくね」
接点をどう持とうか考えていたところだったし、好都合だ。
「ダイラルは何を取るか決めているか?」
「まだかな。レオンくんは何を取るか決めた?」
「決めていない。できたらお前と一緒のを取りたいなって考えている」
(俺と一緒の授業を取りたい?)
呆然とレオンのことを見つめる。
「この前行った試験のことは聞いているよ。できたら一緒に学びたいなって思ってさ」
(あ~。だからか)
教室に入ってきたとき、みんなから視線を集めていたのは、試験のことを伝えられていたからか。
「ダメか?」
「うんん。一緒のを取ろう‼」
(そういえば、最初はこんな感じだったな)
ダイラルとレオンは仲の良い友達。ダイラルとレオンは、気の許せる数少ない存在。だけど、徐々にレオンとの実力差が出てきて、ダイラルは道を踏み外す。それがシナリオだった。
俺とレオンが話を進めていると、イリナが睨みつけてくる。
(すっかり忘れていた……)
「ダイラル?」
「あ、ごめん。イリナも一緒のを取ろう‼」
そして、俺たち三人で話を進めていく。
(思い出せ‼)
レオンは俺と一緒の授業を取ると言っている。だったら、ニーナはなんの授業を取っているのかを思い出せばいいだけ。
(何を取っていた?)
前世の記憶を必死に思い出そうとしていると、レオンが言う。
「ダイラルは魔法とか使えるのか?」
「使えない」
「じゃあ、攻撃魔法の授業を取ろうぜ」
(あ、そうだ……)
レオンとニーナは、攻撃魔法の授業で実力を認め合うんだ。そこでライバルみたいな関係になって、ニーナがレオンに惹かれていく。
だけど、その授業にはイリナも取っていて、レオンと仲良くなっていき、悪役令嬢と呼ばれていくようになっていくんだ。
「いいね。イリナもいい?」
「えぇ。私もそれを取ろうとは思っていたから」
その後も選択必修以外に取る授業を決めた。
必修
・基礎魔法
・基礎剣術
選択必修
・初級攻撃魔法
自由選択
・魔法学
☆
午後、基礎魔法の授業が始まる。
そこで、俺はニーナとペアを組むことが決まった。
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