第5話 ホブゴブリン
先ほどから観察して、ホブゴブリンは俺たちより数段強いと分かった。
最初から理解していたことではあるが、現状の実力差を明確にできたことは大きい。はっきり言って、正面から戦ったら、確実に勝てない。
だけど勝負というものは、実力差があるからと言って勝てないわけではない。
「俺が不意を突いてホブゴブリンに攻撃を仕掛ける。そしたら、ホブゴブリンは俺に視線が集まると思うから、イリナは背後から心臓めがけて魔法を放ってほしい」
「わ、分かった。でもそんなんで勝てるかな?」
「難しいだろうね。だから、ここからは持久戦だよ」
俺たちは数の有利という点において、目の前にいるホブゴブリンより勝っている。だから、ホブゴブリンが疲れを見せるまで、俺が気を引き寄せつつイリナが体力を削っていく。
これが、現状できる最善策だろう。
俺はイリナに内容を説明すると、二つ返事で頷いた。だが、少し不安そうな表情を浮かべながら尋ねてくる。
「それでも倒せなかったら?」
「そうなったら、逃げよう」
持久戦に持ち込んでも勝てないなら、しょうがない。そうなったら、逃げる選択を取るしかない。
「わかった」
「じゃあ、俺が攻撃を始めたらよろしく」
「うん」
俺とイリナは別々に分かれて、気配を消す。
今持っている武器は、剣一本・短剣四本のみ。これで、どうにかするしかない。
息を潜めながらホブゴブリンが隙を作るのを待つ。
(本当に隙を見せないな……)
いや、本当は見せているのかもしれない。俺とホブゴブリンの実力差がありすぎて、隙が見つからないだけかもしれない。
だけど、そんなことを言っていられる場合ではない。
慎重にホブゴブリンを観察すること十分。武器を地面において、そっぽを向いた。
(今だ)
ホブゴブリンの目に短剣を投げて、右目を潰す。
「グギャギャギャ‼」
ホブゴブリンが叫びだした瞬間、イリナが
すぐさま、ホブゴブリンとの間合いを詰めて足を切り落とそうとした。
(は⁉)
あまりの硬さに斬り落とすことが出来ず、ホブゴブリンの皮膚から剣が抜け出せなくなってしまった。
それと同時にホブゴブリンは薙ぎ払いを行ってきたため、距離を取る。
(クソ)
本当ならここで、足一本を斬り落として、機動力を無くす予定であった。
怒りを顕わにしたホブゴブリンは、無造作に攻撃を仕掛けてくる。
(一発でも受けたら死ぬ……)
そう思わざる追えない攻撃。それと同時に、先程攻撃した剣を引き抜き、地面に捨てる。
その後、床に落ちているこん棒を手に取った。
(一瞬も気を抜けない)
これが、命のやり取り。前世ではこんな経験をしたことが無かったことから、緊張感が一掃に走る。
(ここからは、持久戦だな)
意識を切り替えて、イリナにターゲットが向かないように仕向ける。そのために、まずは剣を取りに行かなければいけない。
俺はすぐさま、間合いを図りながら剣のある位置まであるき、手に取る。
その瞬間、ホブゴブリンのこん棒が頬にかすり、血が流れる。
(危ない……)
後数センチ近かったら首が飛んでいた。
(覚悟を決めろ)
深呼吸を挟み、ホブゴブリンに斬りかかる。だが、それを読んでいたかのように回避して、カウンターを食らわせてくる。
ギリギリのところで俺も避けるが、態勢が崩れる。
その瞬間、トドメを指して来ようとしたホブゴブリンめがけて、イリナが魔法を放って援護した。
俺は一旦距離を取り、素早い行動を取り始める。
(対格差があるのだから、こちらの方が早く動けるはずだ)
ホブゴブリンの死角に入った瞬間、短剣を投げてもう片方の目を潰そうとするが、避けられてしまう。
その後も、幾度となく攻防が続くが、等々イリナにターゲットが向いてしまった。
(やばい……)
ホブゴブリンはイリナ目掛けて攻撃を仕掛ける。
「イリナ‼」
イリナに叫ぶが、体が震えているのか避ける行動すらとれていなかった。
(頼む、当たってくれ‼)
腰に付けている短剣をイリナのポーチに入っている転移水晶めがけて投げる。すると、運よく転移水晶が壊れた。
「ダイラルなんで……」
イリナがそう呟いた瞬間、転移してこの場を離脱した。
何が起こったのか理解できないホブゴブリンは、立ち尽くす。
(ここからどうするか……)
はっきり言って、絶望的。
人数差は無くなり、体力もない。それに加えて、武器もほとんど使いつくした。はっきり言って、生き残れる術が見当たらない。
(死にたくない)
脳裏に浮かんだのは、それだけだった。
だが、現実は非常だ。怒り出したホブゴブリンはこちらへ突進してくるように近寄ってくる。
最後の力を振り絞ってこん棒を受け流すが、剣は砕け、地面に叩きつけられた。
ニヤリと笑ったホブゴブリンはゆっくりと歩いて、トドメを指して来ようとした。
(最後ぐらい‼)
腰についている最後の短剣を、ホブゴブリンの目に突き刺して、攻撃がそれる。
「グ、グギャギャギャ‼」
ホブゴブリンが叫んだ瞬間、あたりからゴブリンの群れが現れる。
(あぁ。ここで終わりなのか……)
そう思った時、あたりに魔法が放たれて、ゴブリンたちが一掃していった。
「大丈夫かい?」
俺はその言葉を聞きながら、意識を無くした。
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