第4話 強敵


 俺は大声を叫びながら、イリナへ言う。


「ゴブリンマジシャンに魔法を放つんだ‼」

「わ、分かった」


 イリナは言われるがまま、火玉ファイアーボールを放つ。だが、ゴブリンマジシャンも同様の魔法を使い相殺される。


 その瞬間、絶望に満ちた表情をするイリナ。だけど、そんなことお構いなしにイリナの手を握り階段めがけて走り始める。


 後少し、後少しで一階層に行けると言う所でゴブリンライダーが俺たちに辿り付いてしまう。


 俺はイリナの手を離し、背を向ける。


「先へ行って」

「で、でも‼」

「良いから、後で追いつく」

「絶対だからね」


 そう言って、イリナは時空の狭間へと入って行った。


「ここからは俺の戦いだ」


 鞘から剣を引き抜いて、ゴブリンライダーの剣とぶつかり合う。


(重い‥‥‥)


 先ほど戦ったコボルトとは、数段に違う威力を持っていた。だけど、こんなところで負けるわけにはいかない。


  そう思っていた瞬間、ゴブリンマジシャンが火玉ファイアーボールを放ってくる。それを間一髪のところで避けるが、ゴブリンライダーの注意が一瞬薄れていて、背中に斬り込まれてしまう。


「ぅ……」


 ゴブリンライダーはにやりと笑いながら、もう一度攻撃を仕掛けてこようとした。


 その時を俺は見逃さなかった。


(こいつは、俺を殺せると意識が変わった)


 地面を転がり、ゴブリンライダーの攻撃を避けて一階層へ行ける時空の狭間へと走って行く。


 だが、それを許してくれないゴブリンマジシャンは魔法を放ってくる。


(そんなのわかっている)


 俺は、自身が持っている短剣をゴブリンマジシャンへ投げつけて魔法をキャンセルさせて、一階層へ行ける時空の狭間へと入って行った。



 一階層へたどり着くと、目の前にはイリナが泣きながら抱き着いてきていた。


「よかった、本当によかった」

「あはは、だから大丈夫っていったじゃん」

「どこが大丈夫なの⁉」


 イリナは怒鳴りながら、怒った。


「ごめん」

「うんん。それよりも、これを飲んで」


 イリナから渡されたのは、万能ポーション。


「なんで、こんなものを⁉」

「何が起きても大丈夫なように一個だけ上備していたんだ」

「じゃ、じゃあイリナが使うように取っときなよ」

「ここで使わないでいつ使うの‼」


 俺は無理やりイリナに飲まされると、先程うけた傷が一瞬にして治って行った。


「あ、ありがとう」

「うん。それよりもここからどうやって先生たちと合流しよっか……」

「俺たちが二階層に落ちたってことは先生たちも理解しているはずだから、俺たちが落ちた場所まで戻れれば、大丈夫だと思う」

「でも、道が分からないよね……」

「それは大丈夫」


 あの時は思い出せなかったけど、あそこはレオンとイリナが最終的に出会う場所。それなら、道筋は示せるはずだ。


「お願い」

「あぁ、進もうか」


 俺たちは少し休憩を挟んだ後、先程の場所へ戻るように歩き始めた。


 二階層の時と同様に、極力モンスターと戦わないように先へ進んでいくが、何度かモンスターにバレてしまい、戦闘を繰り広げた。


「ダイラルって、魔法を使えないの?」

「いや、使えるとは思うんだけど、使ったことが無くてさ」


 そう。ストーリー内でも、ダイラルが魔法を使っているシーンは無かった。つまり、魔法を覚える気が無かったのか、魔法が使えなかったのかだと思う。


 だけど、ダイラルに転生して、魔法を使えない体だとは感じなかった。魔素を感じ取ることはできるし、兄妹である王族も魔法を使うことはできていたから。


「そっか」

「じゃあ、無事に戻れたら魔法を教えてよ」

「いいよ‼」


 なぜか満面な笑みを浮かべたイリナ。


(どうしたんだろう?)


 そう思いながらも、先程の場所へ戻るように進んでいった。


 そして、やっとの思いで先程の場所へ戻れると思った時、ホブゴブリンがあるエリアを占領していた。


 俺とイリナは息を潜めてホブゴブリンが立ち去るのを待つが、一時間経っても動く気配がなかった。


(クソ)


 ここを通らなければ、さっきの場所へ行けない。


(引き返すか?)


 いや、そんな体力はない。極力戦闘を行いたくはないが、モンスターと戦わなければいけない状況もある。それは、いくら時間をかけてもモンスターが移動しない場合。それともう一つ、モンスターにバレた場合だ。


 二階層の時、ゴブリンマジシャンやゴブリンライダーと出会ったのが後者のパターン。今回が前者のパターン。


「イリナ、ここを通らなければ先へ進めない」

「じゃ、じゃあ」

「うん。ホブゴブリンと戦おう」


 そして、俺たちはホブゴブリンと戦う策を練り始めた。

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